その1
再び西国で出会うセイアとアリア。でも二人とも、それぞれに思うところがあるようで……?
セイアとアリアの過去の話が明かされる、セラディ・ソーサラーズ第二弾です。過去と未来に悩みながらも、少しずつ前へ進み始める若い魔術師たちの姿を描きます。
もうすぐ年が変わる。一部の飲食店などを除き、西国のシャキの町は、基本的に今日で仕事納めだ。商店街がある華やかな通りから少し離れた場所にある小さな印刷会社も、ようやく今年最後の仕事を終えようとしていた。
「アリア―、もういいぞ、上がってくれ。悪かったな、仕事納めに残業させて」
「いいよ、最後だし片付けまでやってく。俺、今日は予定もないし」
最後の仕事は、自社の年始挨拶用に配布するカードの印刷だった。アリアは最後の一枚を刷り終えるとホッと息をつき、腕まくりしていた作業着の袖を下ろした。長めのショートカットの銀髪にすこしきつめの大きな黒い瞳。口調や服装は少年のそれではあるが、これで実は女の子だったりする。しかも、なかなかお目にかかれないほどの美少女だ。年齢よりやや大人びて見えるが、生意気盛りの十四歳。
そして彼女の髪の間から覗く尖った耳は、魔力を持つ者―――――『魔術師』の証である。魔術師と言っても、それほどいろいろな能力があるわけでもなく、アリアのように一般人と同じような職種で働いている者は多い。
作業場を見渡しながら片づけに入った。機械のインクを古布で丁寧にふき取り、ほこりよけのカバーを掛けたところで、先ほど声をかけた中年男性が作業場に戻ってきた。適度に薄くなった頭部と人のよさそうな笑顔、どこにでもいるようなおじさんだが、一応この印刷会社の社長である。他の社員たちは、今日は仕事納めということで家族や友人や恋人と何らかの予定を入れていて、申し訳なさそうに早めに帰っていった。そんな訳で、この時間に作業場に残っているのは二人だけだ。
「終わったか、ご苦労さん。今年の年末はカレンダーの刷り直しのせいで忙しくなっちまったな。アリアが早いとこ間違いに気づいてくれたおかげで助かったよ」
「まあ、たまたまね。友達と、新しい祝日の話したばっかりだったからさ」
来年は、今年よりも祝日が多い。中央国の女王の在位五周年記念ということで、なんと五日間の祝日を設け、その祝日周辺に様々なイベントを詰め込む予定らしい。もとから決まっていた各国から招かれた王族等のパレードの他に、アリアの耳に入っているだけでも、ファッションショーや流行歌手のコンサートなどが企画され、中央国は大変な盛り上がりとなりそうだ。まあ、そうは言っても、西国に住んでいるほとんどの者にとっては雲の上のような話だった。中央国までの旅費、宿泊費などを考えても、現地まで赴いてお祭り気分を満喫できる者は、おそらくほんの一握りだろう。
「いいよなー、中央国は。楽しそうでさ」
「おまえさん、魔術師だからワープで行けたりしないのかい?」
「うーん、あれって一度行ったことがあるところじゃないと使えないんだよな。中央国に住んでたこともあるけど……だいぶ昔だから、今となってはちょっと無理かな」
そんな話をしながら帰り支度を整えていると、思い出したように社長から茶封筒を渡された。この会社は、月末最終日が給料日だ。
「ほいアリア、今月分」「ありがと!」
早速その場で封筒を開けて中身を数え始めると、さすがに呆れたような顔で見られた。
「あのなあ、給料は逃げないから。そういうのはうちに帰ってからゆっくりやんなさい」
「俺は何でもその場で開ける派なんだよ。……あれ、なんかちょっと多くない?」
数え間違いかと思ったが、明らかに札の数が多い。一緒に入っている明細と照らし合わせようとすると、社長が仏頂面でそれを制止した。
「……多い分は、別に間違ってる訳じゃないから。明細もちゃんと合ってる」
「え?どういうこと?」
「だから。まったく、察しの悪い。正月だから、色が付いてるんだよ。小遣い程度だが、年末年始に遊ぶ金の足しになるだろ。ありがたくもらっときなさい」
思いがけない言葉に、アリアはきょとんとして社長の顔をまじまじと見つめた。
「……俺はすごく嬉しいけど、でもこの会社、そんな余裕なくない?」
「失礼な。おまえさんが思ってるよりうちは優良企業だぞ」
「ほんとに?じゃあ、ありがたく。えー、何に使おっかなー……」
明日からは待ちに待った年末休みだ。実は嬉しい予定もあったりする。意外な臨時収入のいろいろな使い道に思いを巡らせ、ちょっと浮かれながら布袋に茶封筒をしまっていると、社長が言いにくそうに声を掛けてきた。
「おまえさん、左手の輪っか、どうした?いつも付けてたろ?」
「あー……」
見られてたのか、と小さく肩をすくめ、アリアは苦笑いしながらそれに答えた。
「今朝、糸が切れてバラバラになっちゃって」
社長が言うところの『左手の輪っか』は、このところずっと付けていたビーズのブレスレットだ。貰い物なのだが、どうやら『両思いになれるおまじない』のブレスレットらしい。別におまじないの効力など期待していなかったが、まあせっかくのプレゼントなので、大事に付けさせてもらっていた。それが、今朝急いで身支度をしている最中にどこかに引っかけてプツリと糸が切れ――――おそらく、毎日付けるうちに糸が弱くなっていたのだろう――――あっという間に四方八方にビーズが飛び散った。当然拾い集める時間などあるはずもなく、同居人のシルヴィアに「今日は寝室掃除しないで!あとで自分でやるから!」と声を掛けるのが精いっぱいだった。
「あの輪っか、うちの娘が似たようなの付けてんだよ。で、こないだ糸が切れて、よく分からんが大泣きしてた。何か意味があるんじゃないのか?」
社長がそう呟くのを聞いて、アリアの苦笑いの度合いがより深くなった。そりゃ、社長みたいなオヤジ組は分かんないよね、お母さんたちは分かるのかもしれないけど、と思いながら、とりあえず当たり障りのない返答を探す。
「まあちょっと……おまじない的な、ね。でもそんな、気にするほどのもんじゃないよ」
これ以上突っ込まれないうちにそれだけ言って、黒い大きな外套に袖を通し、布袋を肩に掛けて片手を挙げた。
「それじゃ、お疲れ社長!良い年を!」
「……おー、また年明けにな!楽しい正月休みを!」
当たり前だが、外はもう真っ暗だった。吹き付ける冷たい風に晒され、頬がひりひりと痛い。大きく息を吐き出すと、真っ白な蒸気となって目の前がふわりと霞んだ。
「さっむー……」
小さく呟いて、何もついていない左手首を、右手でぎゅっと握り締めた。
……本当は、ブレスレットが切れたこと、全然気にしてない訳じゃない。
でも『気にしてない』と思い込もうとしていた。そういうのを気にするのは社長の娘みたいな可愛い女の子の特権で、自分は女の子としては粗悪品だ。アリアは乾いた唇を軽く噛むと、深く外套のフードを被り、大通りへ向けて足を進めた。
今日で仕事納めということもあって、通りは程よく賑わっていた。特に飲み屋は、この寒いのにテラス席まで開放されて、大きな声で話したり笑ったり、よく分からない歌を歌ったりする人であふれている。ただ歩いているだけでも、すれ違う数人と軽く肩がぶつかってしまうほどだ。賑やかなのは結構だが、この辺りは、シャキの町でもそこそこ治安の悪い地域なので、あまり浮かれてもいられない。アリアは、少し多めの給料が入った袋をかばうように歩きながら、家までの道を急いだ。アリアは現在、居酒屋『アルテミス』を営むシルヴィアの元で居候をしている。
よほど急いでいる時でない限り、日常の通勤などにワープを使うことはしない。普通に歩いた方が気持ちがいいし、ワープに頼り過ぎる生活は健康面でもあまり良くないと思っている。ただ、この時だけはワープを使えばよかった、と後になって心の底から悔やむこととなるのだが、あいにくアリアはそんな予知能力などは持ち合わせていなかった。
(……あれ?見たことない顔)
通りの少し先に、すらりと立つ少年の姿があった。アリアは歩きながら、その少年を目で追った。そうするのが不自然でないほど、明らかに異質な雰囲気のある少年だった。はっきり言ってしまうと、「超」が付くほどの美形なのだ。興奮した女子たちの囁き声で周囲がざわめくような、そんな姿かたちをしていた。
年齢的にはアリアより少し上、十七・八といったところだろうか。華奢でも筋肉質でもない、均衡のとれたスタイル。細いフレームの眼鏡に柔らかな淡い金の前髪がわずかにかかり、そのレンズを通して深い碧の瞳が覗く。そして口元には、嫌味を感じさせない程度の自信に満ちた微笑みが浮かんでいた。
(カッコいいな。中央国の旅行者とか?)
そう思うと、何だか服装もこの辺りの若者よりあか抜けている気がする。その時、その少年がふいにこちらを向き、アリアと目が合った。
(え?)
目が合った、と思った瞬間、ふっと彼の姿が消えた。消えた辺りの空間に、黄金色の光がふわっと漂い、同時に頭がくらくらするような強いムスクの香りが立ち込めた。思わず周囲を見回したが、他の人は誰も異変に気付いていないように見える。
(何だろ、この匂い。俺だけにしか分からないとか、そんな訳ないと思うんだけど)
おそらく、さっきの少年は魔術師だろう。一瞬にして消えたのはワープを使ったからだ。でも、この強い香りの出所が全く分からない。嫌いな香りではないのだが、あまりにも強く鼻腔を刺激され、どんどん思考がまとまらなくなっていく。そして、それと比例するようにどんどん視野が狭くなっていく。通りを歩いていたはずなのに、もはや周りにいる人がぼんやりとしか感じられない。
アリアは口元を手で覆い、顔を伏せた。香りのせいか、少し気持ちが悪い。何か良からぬことが起こっているような気がしたが、まともに考えることすら困難だった。
『アリア、こっちに来て』
ふいに、声が聞こえた。遠くからのような、耳元で囁くような……そして、昔から知っているような、初めて聞いたような、不思議な声。どこか懐かしく胸が締め付けられる感じに導かれるまま、アリアは顔を上げた。そして、目の前にぼんやりと光っている道の方へ、ふらりと足を進めた。
『久しぶりだね。会いたかったよ』
「……ライア……?」
『そうだよ。やっと会えたね。もう大丈夫だよ』
何が大丈夫なのか。そしてライアはこんな声だっただろうか。違和感しかないにも関わらず、歩みを止めることができなかった。足元がふわふわして、夢の中を歩いているかのようだ。なんだか覚束ない心持ちだけれど、でもこの先でライアが待っている。もう二度と会えないと思っていたのに―――――
(あれ?そもそもなんで、もう会えないと思ってたんだっけ)
まとまらない思考の中で、必死に記憶を手繰り寄せようとした。最後に顔を見たのはいつだっただろう……そうだ、あの時のライアは、真っ白な顔で目を閉じていた。
ひとつ思い出すと、断片的にいろいろなことが連なって思い出される。ライアは白い箱に寝かされていた。白い服を着て、白い花に囲まれていた。アリアは、すぐそばまで行くことは叶わなくて、遠くから息を詰めてその姿を見つめていた。
……数日前の暖かさが嘘のように急に冷え込み、とても寒い葬儀だった。冷え切った自分の体を抱きしめながら、白い箱が土に埋められていくのを、ただ見守っていた。叶うなら、あの箱の中に自分も入れて欲しいと思いながら。冷たい手足が固まって、もう二度と自由には動けないんじゃないかと思った。足先から深く深く沈み込んでいくような、あの時の言葉では言い表せないような絶望感。
ぱたりと、足が止まった。―――――会えるはずが、ない。
一瞬にして、自分を包み込んでいたむせ返るようなムスクの香りが遠のいた。視界がクリアになり、まともな五感が戻ってきたことを感じる。と同時に、いつの間にか薄暗い路地裏、しかも袋小路に入り込んでいることに気付き、戸惑った。おそらく、大通りとはそれほど離れていないが、にぎやかな喧騒は背後に遠く感じられる。
「あれ、気が付いちゃった?でも残念だね、もう遅いよ」
目の前に、先ほど見かけた金髪の美少年が立っていた。違和感にハッとして自分の体を見ると、両腕を含め、胸から膝の辺りまで細い金色の糸が絡みついている。慌てて身を捩り、糸をほどこうとしてみたが、全くと言っていいほど体の自由が効かない。
「無駄だよ。君だって使えるでしょ、捕縛魔法」
「……誰だおまえ。何の真似だよ、これは」
声を張ったつもりだったが、かすれた小さな声しか出なかった。もちろん、基礎的な捕縛魔法は分かるし、使ったこともある。でも、自分自身がかけられたのは、実は初めてだ。こんなにも全然体が動かないものなのか。焦りと同時に、うっすらと恐怖を感じた。魔術師は、両腕が自由にならないと能力が使えない。こんな状況になることは、今までなかったのに。
「あ、自己紹介とかあった方がいい?俺は、カイア・トリス。言っとくけど、初めましてじゃないよ。アリア・コーダでしょ?そっちは忘れてるかもしれないけどね」
カイアと名乗った少年は、そう言うとにっこりと余裕のある笑みを浮かべ、アリアの方へ近づいた。後ずさろうとしたが、それすらできない。
「君さぁ、結構流されやすいっていうか、顔が良ければ誰にでも付いていくタイプ?こんな簡単な幻覚魔法に引っかかって、ちょっと反省した方がいいよ」
幻覚魔法、という言葉に、今更ながらハッとした。魔術の中には、当然ながら禁術と言うものがあり、幻覚魔法はよほどの理由がない限り現行のオズの法律では認められない。
「……ふざっけんな、幻覚とか使うの、ご法度だろ。何を偉そうに」
「いや、だからぁ、君の心が弱いからこんな目に合うんだって。その乱暴な口の利き方も改めた方がいいな、女の子なんだし」
彼は楽しそうにそう言うと、アリアの顎をぐいと持ち上げて顔を近づけた。そして、声を低くして続けた。
「いくら威勢のいいこと言ったって、路地裏に連れ込まれて捕縛されてる時点で詰んでんだよ、おまえ。立場分かってんの?」
そのままの勢いで、荒っぽく唇を塞がれた。アリアはきつく目を閉じ、口を引き結んで奥歯を噛みしめ、何とかやり過ごそうと努めた。理不尽な扱いを受けている屈辱感よりも、強い恐怖がこみ上げ、必死に正気を保つのが精いっぱいだった。
ぺろりと満足そうにアリアの唇を舐め、カイアは小さく笑って顔を覗き込んだ。
「あれ、ひょっとして、キス初めて?そんな訳ないか、いかにもいろんな男といろいろやってそうな感じだよね」
アリアは詰めていた息を小さく吐き出し、下を向いた。
(安い挑発しやがって……)
そんなことよりどうやってここから逃れるか。さっきから必死で考えてはいるが、動けない上に魔術が使えない今の状況は、確かに詰みだ。
「君、セラディ・ソーサラーズって知ってる?」
ふいに声のトーンを変えてカイアに尋ねられ、アリアは思わず顔を上げた。
「……なんでそんなこと聞くんだよ」
「あ、忘れてたわけじゃないのか。ファイア様と一緒にいたよね。ラトス様もいたかな」
突然、懐かしい名前を出されて、愕然とした。初対面じゃない、というのはただの張ったりでもないらしい。
「………おまえ、セラディ―ズの関係者?」
「別に、ここで言うことでもないけどね。ただ、あの時にあの場にいたってだけだよ。……あー、それにしても、ファイア様は弱かったよなあ!ねえ、そう思わなかった?」
カッと一気に血が逆流したようになり、アリアが言い返そうと口を開いた瞬間、あっという間に襟首を掴まれた。そのまま口を重ねられ、奥にまで舌を入れられる。
「―――――っ!」
必死に抵抗し、強く歯で噛んだ。おかげで何とか離してはもらえたものの、苦しさと悔しさで、ここまで我慢していたものがあふれ、瞳にうっすらと水の膜が張った。
「泣いちゃう?いいね、君みたいな美人が泣く姿、ほんとそそる」
煽るように言われ、何とか涙を堪えた。
「誰が泣くかよ。猫じゃあるまいし、路地裏で盛ってんじゃねえよ、この変態」
「……あれ、そんなこと言っていいの?このまま二人乗りで、俺の部屋まで連れていくこともできるんだけど?」
すっと体温が下がった。一番考えたくなかった可能性をあっさり指摘され、目の前が暗くなった。『二人乗り』は、魔術師がもう一人抱きかかえて移動を行う、ワープの応用だ。
大声を上げて助けを求めることも、できなくはなかった。でも、なけなしのプライドが邪魔をした。こんな姿で捕らわれているところを、誰かに見られたくない。そんなことも言っていられないのは分かっていたが、それでも。
最悪の状況に、下を向いて黙り込んだ。―――――その時、体をきつく捕縛していた糸がふっと緩み、両手が自由になった。同時に、一瞬で金の糸が消える。え、と思わず自分の体を見下ろすアリアに、カイアは相変わらず余裕のある態度で声を掛けた。
「ま、いいか。初回で全部攻略しちゃうのもつまんないしね。今回はただの挨拶だし、この辺にしといてあげる」
その言葉を最後まで聞くか聞かないかのうちに、アリアは無我夢中でワープを使い、先ほどの大通りまで戻った。
……周囲に、町の喧騒が戻ってくる。ホッと息を付き、自分の両手を見た。指先は感覚が分からないほどに冷え、細かく震えている。距離が取れて安堵はしたものの、まだ怖い。
本当は『アルテミス』までワープしたかったが、こんな集中力を欠いた状態で能力を使うのが危険なことは良く分かっていた。だから、最短距離の大通りまでのワープにした。
(大丈夫、一定の距離がとれていれば。さっきは幻覚を見せられたけど、あんなのがなければ、捕縛なんかかけられないから)
きつく手を握り締め、震えを抑え込むようにして、早足で歩きだした。早く帰りたい気持ちもあったが、今シルヴィアに顔を見られたら、何かあったと感づかれてしまうだろう。心配をかけたくない気持ちと同じくらい、この屈辱的な出来事を知られたくない、と強く思ってしまう自分がいた。
(泣くな。泣く資格もないだろ、俺なんか)
こんなにも悔しくて深く傷ついているのは、カイアに言われたあれこれが、ある程度は図星だからだ。流されやすいとか心が弱いとか、キスが初めてじゃないとか。
(よりによってファイア様のこと弱いとか言いやがって、あいつ)
どんなに泣くまいと歯を食いしばっても、視界が曇ってしまう。必死に歩き回っていた足を止め、道の片隅でひっそり呼吸を整えていると、ふいに肩に手を置かれた。
思わずびくりとして、跳び退るようにしてその手を払うと……目の前にいたのは、知り合いの警察官だった。アリアに払われた手を宙に留めたまま、彼は驚いたように目を丸くして、小さな声で話しかけた。
「アリア、どうしたの?何かあった?」
「ケネイア……」
見慣れた顔と聞き慣れたオネエっぽいアクセントに、強張っていた肩の力が抜けた。今度こそ、深い安堵のため息をつくことができた。
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