p.??-08 夏でも涼しい仕様です
さく、さく、と小気味よい足音がする。
土や落ち葉を持ち上げているのは霜柱の精。踏まれた瞬間発する音に、文字通り命を懸けている不思議な生き物だ。
その命の散りぎわに満足のいく音を出せて大往生すると、踏んだ者に祝福を授けてくれることがある。それほどに彼らは最期の音を重要視しており、その一瞬のために、なんと夏のうちから筋の鍛錬に励むという。
同じ冬に連なる者ではあるが、噂好きな雪の精と違い、霜柱の精は非常に勤勉なのだ。
(夏が長くて暑かったからこそ、今年の霜柱さんはいつもより大きく鍛えることができたのね)
酷暑がこんなふうにも影響するとは、と魔女は興味深げに頷いた。明らかに例年よりも背丈が高く、心なしか筋の線もきれいに揃っているように見える。
「皆さんの力を、少しだけ貸してくださいね」
大きな常緑樹の根もとでひときわ立派な霜柱が並ぶところに、魔女は持参した香草や木の枝をざくりぼすりと挿していった。
本格的に雪が積もる前に、この強靭な霜の力を写すのだ。
散歩や読書をして日が傾くまですごす。より冷たくなった風にふるりと身を震わせ、ついでに先日の魔女収納事件のことを思い出して、ひとり、顔を赤くした。
(そ、そろそろ良い頃合いよね)
誰に言うでもなく言い訳めいたことを考えた魔女は、ぶんぶんと首を振って、温かくも恥ずかしい記憶をどこかへやる。
さて、と木陰に守られ霜の残る場所を見て、魔女は目を丸くさせた。
「まぁ……!」
森の魔女の頼みとあらばと、いっそう気合いを入れてくれたらしい。そんな霜の精たちのおかげで、香草や木の枝は素晴らしい輝きを見せていた。
誇らしげに霜を張った彼らから、凍った草木を抜き取る。
強度も、そして触れたときのひんやり感も期待以上だ。
最初に鎖のような蔦の魔法をかけておいたので、この霜は溶けることなく来年の冬までとどまるだろう。
帰宅した魔女は、今日の成果をさっそくメッセージカードの表紙に並べていく。
本物の霜柱とは違い、霜柱の精たちは無理に草木の形をまっすぐ整えることはしなかった。自然な曲線を生かしつつ、向きや組み合わせが綺麗に見えるよう考えるのは、なんとも楽しいものだ。
「こんな感じかしら」
「まだ固定はしないんだね」
家の疑問に魔女は頷いた。
「満月の夜に、まとめて飾るつもりなの」
『メッセージカードのことをお話していませんでしたね。ご心配なく。ちゃんと進んでいますよ。一年間使うことを考えて、なんと、夏でも涼しい仕様です!』




