p.??-03 贈り物は、使うべきだと思いませんか?
すっかり食後のお茶まで楽しんでしまった魔女は、まろやかな香草の風味を思い出しつつ、隣を歩く魔術師に「次はどのような場所なのでしょう」と訊ねた。
祝祭の勝負に欠かせない、会場選びの途中なのだ。
「午後はすべてファッセロッタ周辺の物件だ」
肩と腕の触れあう距離。
幸い、昼食で満足しきったわけではないという魔女のすまし顔には、気づかれていない。
*
「ふあ……この街の祝祭期間はとても素敵だとは知っていましたけれど、こんなにもたくさんの穴場があったなんて……! はあ。なんだか息が切れてきました」
「おい、落ち着け」
ひとりと冷気のおりる夕暮れどき。屋台で温かい飲み物を買い、広場のベンチに並んで座る。
(でも……)
今、魔女はとてつもなく困っていた。
なんとか候補を三つまでに絞ったが、それ以上に絞る観点が見つからないのだ。魔術師に助けを求めてもいいのかもしれないが、ここまでたくさんの物件を探してくれた彼に決定までさせるのは年長者の魔女としていかがなものか。
ふう、と息を吹きかけると、やわらかく立った湯気からほのかに酒精が香る。仕上げに垂らされた酒がほんのり大人の味を演出しているが、ぽってりと分厚いマグカップに入った甘い飲み物。
それを鋭利な印象の魔術師とともに飲んでいるのが不思議で、そういえば夜の魔術師と過ごす祝祭はこんなふうに温かいのだと、魔女は心を浮かせた。
現代では祝うべき聖なる夜とされているあの星降りの夜を、当時を直接見て知っている魔女が忘れることはないだろう。
あの日、世界の在りかたはたしかに変容した。
あまりに脆い世界の基盤と、魔女が自身の唯一を失うときの災いが、露わになった。
けれど、と魔女は意外にも甘いものが得意な魔術師の横顔を見る。
(きっと、後世に伝わらないということも、大事なのだわ)
少なくとも森の魔女は、こうして新しい楽しみを与えてくれた人間を好意的に思う。
「……なんだ」
「ふふ」
謐とした祝祭の色に寂しさを見ない彼らの鈍感さが、ときには救いとなることもあるのだ。
ふと、魔女はひらめいた。
「魔術師さん」
夜の魔術師は陰る空に滲むような瞳で、こちらを見ていた。
「贈り物は、使うべきだと思いませんか?」
「は?」
なにを言い出すのだという表情に微笑みを返し、魔女は、広場の中央で今年の色をした花々を配る街の職員へ目をやる。
祝祭期間に街を盛り上げるための公共事業の一環であり、厳粛な魔術も含むものだ。しかし、音楽隊も巻き込んだその一角は非常に華やかでもある。
魔女は、似た要素を持つ、そして祝祭を過ごすのにぴったりな場所を知っていた。
「今年の花贈りで魔術師さんがくださった、旋律のノイバラの森を会場にしましょう!」