p.??-22 カードが完成しました
祝祭日も目前となり、魔女は今いちど、準備したものを確認することにした。
「食材、よし」
どれも魔法の要素が濃いため、混ざらないよう特別な布でくるんだ食材を、魔女はひとつひとつ開けて確認した。下ごしらえが必要なものも準備は完璧だ。
「贈り物、よし」
香草のペーパーショップで手に入れた、ホワイトセージの厚紙を使った箱の中には、ダイヤモンドの輝きを持つオルゴールが収められている。
(これでいいのかしら、って……少し、不安だけれど)
どこか迷いの捨てきれない手で箱の感触を確かめてからテーブルに戻した。
「テーブル用の装飾、よし。祝祭聖樹の飾りつけも、よし」
テーブルクロスは星降りの空を含んだ泉の凍った水面を剥がし、しなやかさとなめらかさが出るまで丁寧にしごいたもの。
カトラリー置き場に燭台、小物は樹氷由来のものを採用。蝋燭や星のささやかな灯りを優しく増幅させる。
なぜか暖炉もあるというので、その上にはファッセロッタの街で一目惚れしてしまった置物たちを並べることにしよう。いっしょに準備をする相手のことを考えながら祝祭らしい小物を集めるのはなんとも楽しいものだった。
きっと、すべてを並べた会場も、素敵な装いとなるに違いない。
「ちょっといいかい?」
「なあに?」
「その、祝祭聖樹の用意はどうしたんだろう……?」
「ふふ、忘れたんじゃないかと心配してくれたのね」
いつだって魔女のことを一番に考えてくれる家の優しさが嬉しくて、魔女は木肌の壁にそっと手を這わせた。
「またそうやって君は大胆なことを」
家がよくわからないことを言っているが、いつもなので流す。
あのね、と、魔女は壁に寄りかかり、考え事をするように目を閉じた。
「わたくしは、森の魔女なの」
「そうだね」
「聖樹の一本を生やすことくらい、わけないのよ」
「……うん」
そのわかりきった答えの先にまだ続きがあることを知っているからこそ、家はこうして声をかけてくれたのだろう。
それならもう、甘えてしまえと思う魔女だ。
「それなのに、どうして。とても難しいことのように感じるのかしら」
魔術師の意見も聞きながら一生懸命に準備してきたものたちだ。強大な魔女なのだから、少し思いを込めるだけでもそこにはなんらかの力が宿る。
魔女がいま確認したのは、すべてそういった魔法を含んだ品々。
だというのに。どうしても、魔術師の反応が気になってしまうのであった。
「カードも、よし」
表紙の配置を整え、メッセージを表示させる魔法の確認をしてから、魔女はそのうちの一冊を包装した。
薄箱にかけるのは、街灯の飾りにも使われていた灰色のリボン。
森の仲間たちに素敵な装飾の話をしたところ、通りすがりの雪雲が生産者の知りあいだということで、融通してくれたのだ。
『カードが完成しました! メッセージを届ける部分にはたくさんの試練を与えたので、もう星たちのいたずらに惑わされることはないでしょう』




