p.??-21 守りたいという気持ちでいっぱいでした
本日は冬至だ。
陽のある時間が一年でもっとも短くなる日であり、また、陽光を必要とする植物たちが暴動を起こしやすくなる日でもある。
それを防ぐために最も有効なのが、昨日魔術師にもあげた陽光の仮面だ。玄関先に吊るしておくことで、その家を陽の要素で満たしてくれ、植物たちを満足させることができる。
魔女の家は森の中にぽつんと一軒だけなので考慮する必要もないが、街中ではご近所さんの怠慢による災いが降りかかることもあるため、この日は夜明け前から役人たちが見回りをするのだという。
ちなみに暴動を起こすのは観葉植物や庭の植栽、畑の作物などひとの手によって育てられているものに限り、森や草原などの自然物は含まれない。
つまり、魔女は自分の家だけを注意していればよいのであった。
陽光の仮面をかけると、守護の範囲の内側は真っ赤に染まる。この色彩の中で一日をすごすのは少々気が滅入るので、冬至の日はたいてい、季節の要素を拾いがてら散歩をすることにしていた。
冬至の特産品といえばやはり影だ。
影の系譜は、一本軸の森と違って横の繋がりが複雑で、傍系の種類も多岐に渡る。そのぶん穴抜けも多いが、大所帯らしい揺るがぬ強さを持つ事象だ。
魔女は、鋭い枝々の、細くも長い影を次々に拾っていく。
ふと、マントのポケットにほのかな温もりを感じた。
(魔術師さんからのメッセージだわ)
もう、先に彼から送られてくるメッセージにどきりとすることはない。
代わりにあるのは、温めたミルクのような、ほっとする甘いなにか。もちろん今でも彼の言動に胸を締めつけられることは多々ある――どころか増えた気すらするが、その色あいは確実に変化しているのだ。
(わたくしたちの関係は、どこまで変わってゆくのかしら)
変わらないものはあるだろう。
それは魔女の本質であったり、人間の矜持であったり。
昨日の魔術師が見せた獰猛さもそうだ。魔女をその先へ踏み込ませない、威嚇のようなものだった。
これ以上に近づいてはならない、そのぎりぎりまで近づいたとき。
はたして自分たちは何を選択するのだろう。
(まだ、彼に尋ねる勇気はないわ)
季節や歴史のように。その線を越えたとしても緩やかに変わっていければよいのにと、思わずにはいられない。
『仮面の効果が強すぎて、庭木が成長しているぞ。次からは型をとる際に通気孔を増やせ』
(ふふ……次からは、ですって)
帰宅してからメッセージカードを開いた魔女は、暖炉の前に陣取ってぬくぬくとその文字を追った。
『魔術師さんを守りたいという気持ちでいっぱいでした。植物の暴動は本当に恐ろしいのですもの。でも、次からは程度に気をつけますね』




