p.??-19 今年の甘さはひと味違います
「――もし、我々とあの人間が対立したとき、魔女殿はどうするつもりで?」
魔女が見せた魔女らしさに怯んだようすの雪フクロウだったが、彼はすぐに気を取り直してそう訊ねてきた。
仲間を守る管理者として、ふさわしい姿なのだろう。
「あら」
だが、魔女にとっては愉快とも言い切れぬ問いかけだ。
「そんなことを聞いてしまうのですね」
身構えるように膨らんだ白い毛にさりげなく触れながら、魔女は悪戯が成功したというふうに笑う。
「わたくしが魔術師さんを森の仲間に入れると言ってしまえば、あなたはなにも言えなくなってしまうのではありませんか?」
「なんと!? ホホウ……そういうこととも知らず私は……」
しかしなぜかそこで、ぶつぶつとなにやら呟く雪フクロウ。かと思えば、次の瞬間にはびしりと姿勢を正す。
とつぜんの態度の変化に、魔女は目を瞬いた。
「雪フクロウさん……?」
「では、とっておきの甘味をお出ししよう」
「甘味」
「祝祭が勝負というならば、とびっきりの甘さが必要というものだろう!」
雪フクロウはそう告げて、目玉と顔を反対に回した。
大きく広げた羽が空気をかき混ぜるように風を起こし、雪を喚ぶ。
「甘いもの?」
「甘いのがいるの?」
「いーっぱいあるよ、甘いもの」
ずっと、雪フクロウとの会話を聞いていたのだろう。
興味津々といったようすで木陰から顔を出し、また枝の隙間からぴい、ちい、と鳴くのは冬の森に棲む鳥たちだ。
ある者は雪に紛れて飛び、またある者はさらに深く雪鳴く。
魔女は、冬の鳥たちの果樹園を幻覚した。彼らの好む甘味は、すべてそこに成っているのだ。
甘いはあったかいの形
甘いは優しいの歌
甘いは、大好きの薫り!
そんな歌を聴いてようやく、彼らが、魔女と魔術師の勝負についてなにか勘違いをしていることに気づいた。
この勝負は、甘いだけの関係性からなるものではない。
とはいえ、もらえる甘味はしっかり手に入れるのがよいだろう。魔女の前にはすでに、ぎりぎり抱えて帰れるかどうか、といった量の果物や香草や蜜の入った瓶が積み上がっている。
*
食材そのものの質については、さまざまな伝手がある魔術師に任せることにしているが、魔法的な上質さを求めるならば魔女の出番だ。
経緯はともかく、雪の鳥たちが持たせてくれた果実や花はすべて、祝祭にふさわしい品。思わぬ収穫に、魔女はデザートに予定していたケーキを考え直すことにした。
『今年の甘さはひと味違いますよ。同じ森に住む雪の鳥たちが、祝祭用に甘いものをたくさんくださったのです。とくにホオジロメジロの桃や雪丘オシドリの花蜜は魔法の要素も豊富でしたから、デザートは詰め合わせたタルトにしようと思います!』
『入手経緯を問いただしたいところだが、まあいい。その顔ぶれならタルト生地には凪の呼び声を聞かせておけ。知っていると思うが、伸ばすのは風のあるときにしろよ』
「……忘れるところだったわ」
夜の魔術師のお菓子作りに対する造詣の深さを、たまに謎に思う魔女であった。




