p.??-12 真似をしてみました
人心掌握に長けた危険な現象、ダイヤモンドダスト。
その正体は、妖精が余った雪の塵で気まぐれに作る花だ。晴れた雪山で遭難する者のほとんどは、空中に舞う細やかな花に心を捕らわれて帰り道を見失っているという。
そんな花の音を込めたオルゴールは、人ならざる者の心をも動かす。
森の魔女は思う。他者の心を操ってしまおうと最初に思いついた魔女は、とても恐ろしい女性だったに違いない、と。
とはいえ、現代においては魔女が作るオルゴールの定番だ。効果を薄めた廉価版であれば、裏社会で普通に手に入れることができ、森の魔女も時おり自作する。
初めは森を損なおうとしていた夜の魔術師に使おうと考えたこともあるのだ。
(でも結局、作っただけで終わったのよね)
二年前の祝祭で、魔女はそのネジを回さなかった。
会場にした静寂の森のログハウスまでは持ち込んだが、それだけ。
オルゴールを使って無理やり心の向き先を変えるのは、好ましくない状況をどうにかするときだ。ならば、それをやめた自分は――と考えて、喉の奥がぎゅっと熱くなるのを感じる。
さて、そんなふうに不要になったはずのオルゴールを持ち出してきたのには、わけがあった。
経緯はどうあれ、はじめての祝祭のおもてなしにと一生懸命考えたものであることに変わりはない。基盤に込めた花は特等の薫りがしていたし、シリンダーの突起を弾く音はベルベットを吹くようにとろりと甘い。
角度を変えた今の自分の想いに、ぴったりではないか。
氷から削り出したような見た目は、今年の飾り付けの主題にも沿っていると思う。
「おや、夜の子の心を手に入れることにしたのかい?」
そこへ、なぜか少し嬉しそうな家の声が降ってくる。魔女はそれを、優しく曖昧に否定した。
「さあて、どうかしら」
続けてこぼすは魔法の声。
「ダイヤの音はわたくしへ」
「え……」
オルゴールの音は、作り手のものだ。込められた音は魔女の言うことをよく聞くが、それでもまだ気まぐれの多い旋律。そこへ、確実性を与えるためには。
このような条件づけや、要素の在りかたを細かく調整する作業は、本来魔術のほうが得意としている。
自然の要素をそのまま扱う魔法とは根本的に違っており、魔女は相変わらず魔術のことを理解できない。しかし息をするように魔術を扱う人間が身近にいる最近は、なんとなく、こんなことをしているという感覚がわかるようになっていた。
「魔法として語りかけるなら……こう、かしら」
木の根が張るように、夜のにじむように。
シリンダーがその魔法的な色あいを変えていく。
『今日は魔術師さんの真似をしてみました。少しでもあなたに近づいた感じがすると、嬉しくなれますね』




