第7話 異世界転移勇者が自分の夢を叶える話
とうとう商売すらしなくなってますが、大丈夫でしょうか
この世界に存在しない国の金貨、魔法が込められた指輪、想像上の生物の角や鱗、伝説の武具等々の「宝具」を持ち込む異世界転移・転生・帰還者がよく来る古物商リサイクルショップ「ほうぐや」の話
異世界転移・転生者といってもその世界、時代、事情等は様々で、帰って来る理由も様々である。
私の知りうる限り返ってくる理由、その中でも最も多いのが人間関係である。
典型的なパターンとしては魔王を倒した勇者として王様(王族)に充てがわれた挙げ句周りからの嫉妬等が面倒くさくなりこちらに戻ってくるパターン
他にも作るポーションやアーティファクトが高性能過ぎて神と崇められる様になりちょっとした宗教の教祖的な扱いになってしまって怖くなって逃げ出した現店員、異世界征服を完了して飽きて帰ってきた奴…
と例を上げるときりがない、そんな中でも好きなこと、才能とチートがすべて噛み合わなかった残念な男の話をしたい、これは彼から直接聞いた話であり多分細かいもっと言えないことは伏せているのだと思われる
残念な男というのはややひどい表現だとは思うが、本人がそう言っているのでここでは残念で通すことにする
彼は料理が好きだった、食べるのも勿論好きだったのだが自分で店を持ち作った料理を他人に食べてもらって幸せにするのが彼の夢だった。それ自体はとても良い夢でありなんの問題もなかった、ただ彼の持つ才能は筋力に特化したものだった。
勿論料理をするにも筋力は必要であるので問題ないのでは?と思われるかもしれない、だが彼の持つ才能はおよそ常人に制御できる類のものではなかった。完全に暴力の化身、対象を破壊することに特化した方向へ筋肉が使われてしまうものだった、料理に利用しようとしても鍋を握りつぶし、包丁を砕きながらまな板どころか下の机ごと切り裂いて破壊してしまう。
わかりやすい例えとしてはアメコミの某緑の巨人みたいなものだった、そりゃ料理はできない
そして極めつけが彼の召喚された異世界と、与えられたチートが最悪だった
彼が召喚された世界は魔法が進化しすぎて近未来SF的な感じになったもので、巨大ロボットのパイロットとして召喚された、勿論与えられたチートはパイロットに必要な資質である魔力と操縦技術のチートだった
召喚された理由は人類は追い詰められており魔王を討伐してほしいというとてもありきたりなもので並のロボットでは太刀打ちできない軍団を形成しているため最強の戦士を欲していたとの事だった
ただ、言おう彼は素でハ◯クである。筋力でそのへんの敵なんて殴り飛ばせる才能があり
ロボットを操縦する様な繊細な操作には全く向いていなかった。彼にとってロボットなんて拘束具のようなものなのだ。
そんなわけで彼を呼んだ世界では神に祈り強い戦士を望んだ結果、たしかに最強の才能を持つ人間の召喚に成功した。更にパイロットに必要なチートまで付与されていた、これにより国は大いに湧いた、なので彼にはその最強にふさわしいロボットを与えるべきだと言う流れになった、それすらも良くなかった
最強のイメージに合わせて作られたロボットは聖騎士と名付けられ最強ではあるが恐ろしく扱いづらい操縦の難しい機体となってしまった。
そんな状況なのに練習用の機体を筋力で何台もぶっ壊しているのに相手からは魔法の力に耐えきれずに自壊してしまっていると思われている、何度もこちらの筋力せいだと自己申告しているのだがロボットを内側から筋力で破壊することなんて出来るわけがないという常識的な判断で無視されていた。
それが致命傷だった、そして聖騎士がロールアウトしてお披露目の際に速攻で壊してしまったのだ、更に魔王軍が最新鋭機を狙って来た、この絶望的な状況を彼は持ち前の才能と唯一彼が全力で握っても壊れなかったエネルギー刃の発生装置で戦い抜き勝利した。
つまり呼び出したのは聖騎士ではなく、蛮族か狂戦士だったということを理解した
そこから彼はそのエネルギー刃と他のロボット用の近接斧(本来は魔法を込めると赤熱するが彼が使うと壊れてしまうのでただ頑丈な鉄塊として利用)を武器にほぼ防具もない状態で進撃を開始
わずか数ヶ月で魔王の首を撥ねた、いや、最終的な段階ではエネルギー刃も壊してしまい撥ねたというより捩じ切ったらしいが気にしてはいけない
そんな感じで凱旋したは良いが、世界最高のロボットを与えて送り出そうと思った勇者のはずが最終的武器すらなく素手で相手を下した蛮族として帰ってきたわけで人間関係上手くいくわけがない、いや、世界を救ってくれた勇者として最大限饗そうとしたらしいのだが上手くいかなかった。
そしてここで彼のやりたいことが料理人だったのも悪い方向に働く、はっきり言って彼の境遇は同情せざるを得ないがそんなことは関係なく、魔王すら素手でねじ伏せる、そんな蛮族に振る舞われる料理を王侯貴族には食べる勇気がたりなかった。勿論食べないなんてことは怖くて出来ないだろうが料理で人を幸せにすると言うにはあまり遠く離れた状況になっていた
「…ってな残念な目に会いまして、異世界の神様にアームロック掛けながらお願いしてこちらに戻ってきたんです」
と眼の前のラーメン屋の店主だが実際のところプロレスラーにしか見えないガタイの兄ちゃんが笑いながら話してくれた。
「ホントその話は何度聞いても笑えるけど笑っちゃいけない話だよなぁ…」
そう返すと、片手を左右にブンブン振りながら
「いやいや、今はこうして好きな仕事で飯が食えてるんだから笑い話ですよ。能力もセーブできるようにしてもらえましたし」
とのことだった、本人が納得してるなら良いのかな
「お前さんが良いならそれでいいか、ラーメン美味かった、また来るよ、今日みたいにのんびり話をしたいところではあるが繁盛店だから閉店近くてスープ無くなる直前のタイミングでもなければ長話は難しいからなぁ、次は普通の時間に食べに来るよ」
そう伝えると、相手は笑顔で
「ありがとうございました、またのお越しを~」
と返してくれた、ほんと気持ちの良い店主である。
そんなわけで、異世界では残念ながら上手くいかなかったが戻ってきて自分夢を叶えた男の話はこれからも続いていくのだろう…
ラーメン食べたくなってきた