第6話 古くからの客が亡くなる話
昨晩は飲みに行ってしまい、それから書き始めてます
この世界に存在しない国の金貨、魔法が込められた指輪、想像上の生物の角や鱗、伝説の武具等々の「宝具」を持ち込む異世界転移・転生・帰還者がよく来る古物商リサイクルショップ「ほうぐや」の話
異世界転生・転移者は所謂超人である。海を割り大地を砕く様な強力なチート、若返りや死者蘇生すら叶うトンデモない効果のアイテムの数々を所持したりしている。
…か、超人といっても人であることには変わりがない、つまりいつか死ぬことがある。
ちなみに以前来店の会ったエルフなどは人ではなく長命種、つまり種族ごと違うしあれらも絶対に死なない訳では無い。また例外的に寿命がない奴等も居るが精霊とか神様なんでこれも種族が違う、そして人間で死ななくなるのは神様となった時なので同様である。
どんな強力なチートであっても老衰で、若返りの薬があっても即死では意味がなく。死者再生できるとしても望まない、もしくは使用してくれる人がいなければ意味がない
とはいえ、大抵普通の人間よりは頑丈なため余りそういった事は起きないのだが
今日は珍しく亡くなった異世界からの帰還者についての話
「えぇっ!?木村さんが亡くなられた!? …いや、それは…ご連絡ありがとうございます。お悔やみ見申し上げます」
馴染の弁護士先生からの突然の連絡だった、一体いつからうちを利用しているのか不明、少なくとも初代の頃から取引があった異世界から帰還した勇者でもあった木村さんが亡くなられた。老衰とのことだ、100歳を超えるか超えないかぐらいの年齢、異世界転移していた時間も加えるとそんなものではない年齢だったのでまあ大往生と言えよう
「孤独死で事件性はなくて、ご家族もおらず、遺言書に基づいて細々とした家財しか残っていないので引き取りと処分をしてほしい、と…はい、わかりました…では、いつ頃お伺いすればよろしいでしょうか…」
…とのことで、普通はそんな事が法的に可能なのか不明だが昔から異世界から帰還者の遺品整理も仕事の1つだったりする。何故かというと危険だからである。
この弁護士は本当に危険な遺品の回収・処分や寿命が長くなっている、若返りなどができる異世界帰還者に対して戸籍などをどうにかする仕事を主にしているうちの同類みたいなものだったりする。(某異世界帰還者向けの互助団体の息がかかった弁護士であることは店長は知らない)
通話を終了し、ふーっと少し長い息を付くと気分を切り替えて引き取り作業をするため店の買い取り側のドアを締めて臨時休業の札を下げる
「明日出張での買い取りの仕事が入ったんで、少し裏手で準備してる、急ぎの客が来たら読んでくれ」
とリサイクルショップの方に居る店員(魔法鞄作りの勇者)に声を掛ける
わかりましたーと返ってきたので、裏手に行き軽トラックに荷物の持ち帰りに必要になるだろう緩衝材やら掃除道具を積んでいく、あと異世界帰還者
「にしても木村さんが亡くなるとはなぁ…俺が店員を始めるどころか生まれる前からうちのお客さんでいつ見ても元気な爺さんって感じだったが…といっても100歳前後の大往生だし、こればっかりは仕方ないか…」
と、ボヤきながら準備を進める、暫くして大体必要そうな荷物は積み込んだので時間を確認するとちょうど閉店時間間際だったので、閉店作業をして明日に備えるのだった
---翌日、雲一つ無いいい天気だった、昨日天気予報を確認したときも晴れるとのことだったので心配してはいなかったが出張日和と言えよう、雨だと荷物が濡れるので面倒なのだ
朝一に弁護士さんの事務所に行き、家の鍵をお借りして現地に向かう、作業の目処がつくか終わったら鍵を返しに来ますのでその前に一旦電話しますと約束しておいた。
木村さんの家はそこまで遠くなく車で数十分、周辺に家のない山の中腹にぽつんと家が立っていた。荷物を下ろすことも考え広い窓がある縁側近くに車を止め玄関に向かう
ほとんど亡くなられる前に整理してあるとのことで基本的に最低限の家具、置物と服等で危険物などはないとのことで一応最低限の装備は持ってきているが必要にならないことを祈ろう
「では、お邪魔します」
そう言って解錠して一旦中の様子を見るためそのままドアを開けると非常に綺麗に清掃・整理された玄関が目の前に現れた
「弁護士さんが予め掃除の依頼でもしてくれたんかな、いや、そうだとしても私がものを回収してからじゃないと何があるかわからないだろうしその辺の事情が解ってるからうちに依頼してきたんだろうし…」
と考えていると猛烈に嫌な予感がしたので、一旦車に戻り装備を取り出した。
基本的に店にいるときは相手からの申告もあるし悪意を持った人間がほとんど来ないため持ち出すことはないのだが、今回のように主人を失ったマジックアイテムがどの様な動作をするなんてことはわからないため安全のためにこちらも代々受け継いでいる鑑定・防御用の装備を身に着ける。
と言っても、防塵用のゴーグルとゴム手袋、防水用に使われるような靴カバー、薄っぺらいナイロン製の上下のレインウェアという、蜂用の防護服よりもパット見しょぼい装備であるが
実際にはこれまでうちを利用してきた異世界帰還者のなかでもアイテム、装備品のクラフトに長けた人たちに作成してもらったマジックアイテムで様々な効果が付与されている。こういうときのために一応作成してもらっているがこういった機会でない場合余り役に立つことはない
ゴーグルには普通に目を守る効果もだが鑑定、暗視、透視、魔法に限らない超常のものを見ることができる機能が備わっており悪用厳禁筆頭のアイテムだったりする、まぁ見た目が普通の防塵ゴーグルなので店内でも外でも常時つけてたら変人でしか無いので必要時しか利用しないようにしている
他にもゴム手袋やレインウェアについては恐らく最終戦争が着ても問題ないレベルの防御効果が付与されているらしいがお世話になったことは今のところ多分無い
他にも色々な装備はあるが今は置いといて再度家に入り直すと嫌な予感の正体が見えた
「まぁいくら何十年も平和に過ごしてたからって言っても元は勇者だもんなぁそりゃセキュリティの1つや2つ積んでるよなぁ」
と柱に刻まれた普通の人には小さい傷にしか見えないナニカをみながら独り言ちた。先程は自分には何も見えていなかったがゴーグルの効果で傷のようなものがナニカの模様として光っているのが見えた。
恐らく防衛用の魔法と思われる、ただ玄関だと郵便・宅配など知らない人間もやってくるのでなんとなく嫌な感じがする程度のもの程度なのだろう。ただ奥まで行くと確実に招かざる客を排除する防衛機構があるに違いない
ただ、これについては家の主人に許された人間は侵入できるようだ、まぁ許す主人がもういないので普通ならこの家にはいることは出来ないのだろうが安全装置として家の鍵を所有している人間には防衛機構が働かないように出来ているようだ。
そのため鍵を持ち、靴は防具でもあるので土足は履いたままカバーを拭いてから家にはいる
そして家の奥に進むと廊下の途中に風呂とトイレ、キッチンと居間、寝室といった普通の和風平屋家屋だった。それなりに築年数が経過しているようだがボロいところは見当たらない。というか魔法で経年劣化を防いでいるようだった
「家の方は後何十年放置していてもどうにもならなさそうだなぁ、魔法が切れたら風化するかもしれないけど主人が亡くなっても切れないってことはなんか施してあるんだろうし」
と思いつつ、キッチンと居間と寝室にあるものを確認する。
…ざっくり確認したけど危なさそうな武器や防具、マジックバッグあたりは弁護士さんが回収してくれていたようで木村さんが自作したと思われる木彫りの置物ぐらいで後は生活に必要な最低限のものしか置いてなかった
置物にはもれなく魔法がかけられていたが虫よけだの除湿・加湿・冷暖房だのというちょっとした家電みたいなものばかりで危険なものは見当たらなかったが流石に電気も必要としない万能家電は色々とマズイのでこれらは回収する
とりあえずこの家をどうするかにもよるが、弁護士さんが家を引き取るんであれば置物と服以外は基本的にそのままで問題ないかなぁとと思いつつ荷物をまとめて車に積んだ
そして戸締まりの忘れ物がないかなどと家をぐるっと見回してみた結果、家の裏に簡単な木製の物置が設置されていた。
正面や横からではパッと見では判別出来ない感じで設置されていたが、家の裏に回り込むとそれはあった
とはいえ、ただの物置である中を見てみると斧やらノコギリ、鍬などの道具が入っているだけだった
「鍵もかけずに不用心な…いやこんな山ン中じゃ、わざわざ家の裏に回ってまでこんな物置開けたりしないか」
と思いつつドアを閉めて手元を見てみると鍵穴があった
ん?しっかりと施錠できるタイプじゃないかと思ったが、よくよく考えると物置の鍵なんて預かっていない、さらに言うと鍵穴の形が家の鍵と同じな気がした。
もしかして面倒で同じ鍵を使ってるのか?駄目なら駄目で今日は諦めて帰るとしよう、とおもい鍵穴に鍵を刺したところで意識が途切れてしまった…
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「…店長さーん、生きてますか?」
と肩を揺さぶられているところで目が覚めた。
「…はっ?」
と周りを見回すと日が暮れかかっており、眼の前には朝鍵を受け取った弁護士さんがいた。
「結構時間が経っていたのになんの連絡もなかったのでこちらから電話したのですが全く取られることもなかったので、もしかしてと思い慌ててこちらに来てみたところ車はあっても家は施錠されていたので辺りを見たら裏手であなたが倒れていました、駆け寄って声をかけたらゴーグルやらゴム手袋つけてる状態で軽くうなされていたので、ゴーグル等を外して揺さぶっていたら目が覚めたのですが体調が悪いようなら救急車を呼びます?」
と、心配してくれたようだが、特に気持ち悪いとかもないようだ
「いや、問題ない、裏にあった物置の鍵をかけようと思って鍵を刺したのまでは覚えているんだが…」
というと弁護士さんは不思議そうに
「物置…?そんなものはこちらにはありませんよ?」
と、返された。確かに裏手にはなに見えないが、たしかにそこにあった筈…
「もしかして…」
そう言ってゴーグルを付け直すとそこには物置が見えたのだった…
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最終的にな処理は弁護士さんにおまかせするとして、私は万能家電みたいな置物と服だけは処分する事となって今回の仕事は完了となった。
あの物置はどうやら家の魔法装置のバッテリーみたいなもので木村さんはたまにあれに魔力を流し込んで家にあるアイテムたちを動かしていたようだ、なので悪意ある攻撃ではなくただの燃料の供給みたいなものであったため私の防御アイテムも反応することもなかった。
鍵をさすことで給油モードとなり燃料代わりに私の魔力を吸い取ろうとしたのだが、魔力なんて無い私はほんの少し魔力的なものを吸い取られて昏倒したらしい
普通の人間には見ることすら出来ず、鍵を刺している時以外はただの物置である以上特に危険性はないとのことで放置となった。
家はまた別の異世界帰還者が増えた際に貸し出すためのキープ物件になるとのことだ
まぁあの物置が見える人間にとっては説明してあれば問題になることはないのだろう
そんなわけで、今回の出張買取は無事(?)終了したのだった
裏の物置の扉を異世界に通じる扉にしようかと思ったんですが収集がつかなくなりそうだったので主人公を気絶させて話を終わらせました。