育成学校
三題噺もどき―にひゃくごじゅうご。
桜が散り始め、緑の葉が混ざり始める。
卒業の時期はとうに終わり、世間は入学シーズンに入っていた。
堂々と立つ葉桜たちは、その新しい生活を祝福し、これから先の幸を願う。
何が待ち受けて居ようと、幸せに包まれているようにと。
この町のはずれにも、1つの学校が立っている。
小さくはあるが、どこにでもあるような、ごく一般的な学校だ。
二階建ての校舎。上の方には、大き目の時計が掛けられている。
長い針はすでに左下のあたりをさしている。
もうそろそろ、生徒たちが登校してくる時間だろう。
この学校は、全生徒が寮生として、同じ建物に住んでいる。
そこから、この学校まで、徒歩で各々登校してくる。
歩道を歩く彼女たちは。町の他の住人の目を酷く引く見た目をしているが、全く気にもしていない。
その恰好に、小さくとも誇りを持っているからだ。
この学校に通えば、必ず幸せになれると信じているから。
並び歩く彼女たちの背中には、ランドセルという箱は背負われていない。
代わりに、その小さな腕に1つの籠がぶら下がっている。
想像しやすい、学生鞄ではなく。
藁か何かで編まれたのであろう、大き目の籠。
ピクニックバスケットといった方が、正しいだろう。
その中身は、教科書や体育服ではなく。
1本のワインと、3切れ程度のサンドイッチ。
そして、その頭には、頭巾が被せられている。
黄色の帽でもなく、白の帽子手も無く。
赤の頭巾が、その小さな頭の上にすっぽりとはまっている。
胸のあたりまでの長さで、どちらかというとポンチョに近い見た目だ。
おとぎ話で見る、赤ずきんのような、それだった。
校門にはもう既に、数名の生徒がやってきていた。
その門のそばには、教師が1人立っている。
それぞれ、その教師に挨拶をし、ぞろぞろと校舎の中に入っていく。
数分が経ち。
全ての生徒が、校舎内に入ったことが確認された。
寮内に生徒がいないことが確認されただけではあるが。
まぁ、この学校に通っている生徒で横道にそれるような子は、そもそも入学すらしてこない。
そんなことができる生徒は、子供は。
この学校には、いない。
校門の扉が閉じられ、ガチャリと鍵が掛けられる。
そこに立っていた教師は、校舎に向かうのかと思いきや。
そのままの脚で、校舎裏に向かっていく。
そこには、広大な森が広がっている。
うっそうと茂る木々の間に、綺麗に整えられた1つの道があった。
教師はその道を進み、森の奥へと向かっていく。
その道に、丁度少女1人分ぐらいの。
小さな足跡があることを確認しながら。
ある程度進んだところで。
教師は突然、進路変更をした。
そこに道はない。
しかし、迷うことなく真っすぐと進んでいく。
なにに阻まれようと、お構いなしに進んでいく。
すると。
大きな檻が見えてくる。
鉄の棒で囲われた、獣用の檻。
もちろん、その中には、獣がいる。
ひしひしと、蠢く。
狼が。
小さく唸り、よだれをたらし。
今か今かと、目を光らせている。
彼らは、すでに、森の中に訪れた、1つの匂いに気づいている。
それは、教師のものではなく。
1人の、赤ずきんのモノ。
教師は、その檻の鍵を開け。
出口のあたりに座っていた狼を。
森の中へと解き放つ。
迷うことなく、一直線に向かうその先には。
ここは、赤ずきん育成学校。
親の居ない少女たちを。
おとぎ話のような。
ハッピーエンドに導くための。
幸せになるための学校。
お題:赤ずきん・学校・ひしひし