第8話
俺が公園に着くと、ベンチにはもうアキラがいた。
「よう」
一声かけると、俺の方を向き、立ち上がった。
「アヤカ、どうだった?」
「それを一番に聞くならちゃんと来いよ!」
俺は思わずアキラの胸ぐらを力いっぱいつかんでいた。
「俺を納得させてくれ」
アキラはなんの抵抗もせずに、俺から視線をそらした。
そしてぽつりとつぶやいた。
「アヤカが好きなんだ」
「じゃあなんでだよ?お前矛盾しすぎだろ」
「アヤカが好きなのを彼女に言った!
彼女は今日映画に行ったら、別れないって言ったんだよ」
アキラは俺の手を握り、振り払った。
「それでも俺は行くべきだったな。ただ怖くなったんだ!
…幸せそうなアヤカを見るのが」
「なんで」
「アヤカの幸せそうな顔見れるのってあと何回なんだ。
俺は一生一緒にいて幸せにはしてられない。春には別々の学校に行くんだ」
頭にきた。
「だからなんだよ!そんなにアヤカが好きならそんなこといってないで、
泣かせんなよ!」
「じゃあサクが泣かせるな」
「はぁ?」
突然そんなことを言われてまぬけな声を出してしまう。
「サクならアヤカを幸せにしてやれるよ」
「何言ってんだよ?アヤカが好きなのはお前だろ?」
アキラはあきれたように溜息をつく。
「前にもいっただろ?アヤカには別に好きなやつがいるって、
それ、どう考えてもサクだろ?」
あまりの衝撃で、俺はしばらく何の言葉も出てこなかった。
「え…いや、待てよ。それはない」
やっと言えたのがこれだ。
それにアキラは冷静に返す。
「なんでないんだよ」
「おれら、どう考えても友達だろ?」
「アヤカはそうじゃない」
「いや、アヤカだって…」
いままでのアヤカの言動を思い返す。
笑ってるアヤカ。泣いてるアヤカ。膨れてるアヤカ。
そしてその隣にはいつもアキラ。
「いつだってアヤカはアキラを見てた」
「俺はいつだってアヤカはサクを見てたと思う」
「でも、それってアキラの予想だろ?」
「…まぁそういっちゃえばな」
「アヤカは好きだよ。でもそれは友達としてだ」
「だろうな」
アキラはつらそうに笑った。
「俺もアヤカもそれがわかってたよ。たぶんな
悪い。すごくやなこと言うぞ」
アキラは前置きして言った。
「だから俺たち何もうまくいかなかったんだろうな」
言葉が突き刺さるってこういうことか。
あぁ、だけど言ってくれてよかった。
じゃないと俺は気付かなかった。
アヤカを苦しめてたのは自分だったって。
俺が友達としてアヤカに接していたそのひとつひとつにアヤカが胸を痛めていたかもなんて思いもせずにいただろう。
どうしたらいいんだろう。
アヤカは友達なんだよ。