第5話
俺たちの間には不思議な空気が流れていた。
聞きづらいと思っていたことを、お互いに躊躇なく話せた。
「俺が気づいてないとでも思ってたのかよ」
見くびられてんのんな。そうつけ足したら、アキラは少し困ったように笑った。
「思ってたよ。隠しておきたかったんだ」
「…なぁ。お前つらくないのかよ」
「なんで?」
「好きな女を苦しめて、それに気付かない振りしてさ」
残酷な言い方だなって思ったけど、俺は俺なりにアヤカの力になりたかったんだ。
「つらいな」
アキラは空を見上げてつづけた。
「サク。つらいよ」
俺には分からなかった。
自分で蒔いた種だろ?
「あの子のこと、好きになれるかなって思ってたんだ。
可愛かったし、いい子だ。…でも、やっぱりアヤカには敵わないんだよな。
どの子も」
「お前、何がしたいんだよ」
俺が頭わりぃのはしってんだろうが。
「アヤカから離れたかったんだ」
好きなのに?そう聞こうと思って、思いとどまった。
そうか。好きだからか。
「告ればいいじゃんか。うまくいくぜ?」
「なんでもお見通しのサクがそういうなら、そうすればよかったのかもな」
アキラがからかってきたから、俺は少しむっとして答えた。
「なんだよ。馬鹿にしてんのか?」
「お前ならどうしたかな。好きな人に好きな人がいるんだよ」
「…?別に、それだけであきらめたりしねぇよ!」
「すんごい好きだってのが伝わってくるんだ。そいつ以外眼中にないっていうか。
きっとこいつがいないとだめなんだろうなって」
「だからって好きでもないやつと付き合って逃げるのかよ。
アヤカはお前が離れていったこと悲しんでんだぞ?
いままでの関係じゃなくなるって」
「アヤカも俺といっしょさ。安定した関係がほしかったんだ。
でも、俺はそれに耐えられなくなっちゃったんだ。
…俺が弱かったんだろうな」
アキラの本心を聞いたようでいて、俺はその本心に気づけないでいた。
俺は全然お見通しではなかったのだから。