第2話
いつからだろうな。
アヤカを見るアキラの目が変わったのは。
3年になってからか。
それに気付きたくなかったけど、気づいてからじゃもう遅かったさ。
「サク。今日アキラは用事でさき帰るんだってー。だから一緒帰ろ」
「ぇぇー。アヤカと二人かよ。用事ってなんだよ」
「わかんない。教えてくんなかったもん」
普段特に隠し事をしない俺たちなのに、今日は隠し事かよ。
「なんか怪しい匂いがするな」
「え!アキラ危ないことに巻き込まれてんの?」
「いや、そういうんじゃねぇよ。なんで怪しいでそれがでてくんだよ
まったくお前の思考回路といったら」
「なによ〜!じゃぁサクは何だと思うの?」
うぅ〜ん。と、俺はわざとらしく腕を組んで右手を顎に当てる。
「たとえば…告白されてるとか?あいつ意外にもてるし、ここんとこ多いしな」
俺は半分冗談で口にしたのだが、単純なアヤカはものすごいスピードで妄想を終えたようで。
「いそいで屋上いくよ!サクちゃん!」
アヤカが俺をサクちゃんと呼ぶのは昔のなごり。
というか、アヤカが子供みたいなことをするときに使う。
ここで断るときまって根にもつのは長年の付き合いで知っている。
サクちゃんと呼ばれたときは素直に付き合うのが最善の策なんだ。
俺たちは屋上に通じるドアの前で耳をすませた。
なにやら話し声が聞こえるが、それがアキラのものだという確信はもてない。
しばらく聞いている話し声は大きくなり始め、次第に聞き取りやすくなってきた。
俺たちは顔を見合わせた。アヤカの目が言っていた。
アキラの声じゃん。
「ほんと?ほんとなのね?」
言いながら飛び跳ねているのが目に浮かぶような声色。
「ほんとにアキラ君わたしと付き合ってくれるんだね?」
え?ちょっとまて。女の子の声はたしかにそう言った。
アキラが付き合う?…うそだろ。
だってお前は、アヤカのこと…
「だめだよ!そんなの!」
止める余裕もなかった。
アヤカの叫び声で俺は我にかえった。
「だ、だれよあんた!いきなり」
女の子は突然の割り込みに当然の疑問をぶつける。
「アヤカ。サクも。なんでここに」
いつもは冷静沈着なアキラもこのときばかりは平静をたもてていなかった。
「アキラ君の友達?」
「そうよ。…アキラと付き合うなんてだめ」
「…あんたアキラ君と付き合ってんの?」
「付き合ってはないよ」
「じゃ、なんでわたしがそんなこと言われないといけないわけ?
彼女でもないのに。アキラ君はいいっていったもん」
その言葉でアヤカがアキラのほうを見る。
俺にはわかる。いまアヤカの目はウソって言ってっていっている。
「アヤカ。その子がいってることは、ほんとのことだよ」
「なんでぇ?アキラこの子が好きなの?」
「それはこれから。彼女もそれでいいって」
「そんなのっ!そんなのわたしいや」
アヤカの声は震えていた。
アキラの目が一瞬ひるんだのに、きっと俺だけ気がついた。
「アキラ君。一緒にかえろ?」
「……」
「アキラ君」
「あ、あぁ。わかった。アヤカ、また明日な」
アヤカはそれに答えなかった。
アキラと彼女が俺のほうにくる。
すれ違いざまに小さく聞こえた。
「アヤカを頼むな」
俺に、俺にそれを頼むのかよ?
ほんとは自分が一番したいんじゃないのかよ?