パティシエの誕生 前編
パーティが終わってもぬけの殻になって毎日ダラダラ過ごしていた私が復活したのは年が明けてからだった。
お父様とお母様は年始の挨拶のため王都へ出発していない。
お兄様はアルフレッド様が王都に戻られるまで一緒に稽古に励んでいる。
屋敷の中は静まり返っている…はずだった。
なんだか外が騒がしいなぁ…誰か来たのかしら?
「お嬢様…
お嬢様に会いたいと申す者が来ているのですが、いかがなさいますか?」
「???私に会いたいなんて…誰かしら?」
「ラッシュの妹サリー様です。
なんでもプリンを作ったので見てほしいとか。」
「プリン!是非食べま…いえ、是非会いたいわ」
応接間に行くと、いつもは厨房にいるラッシュの隣に赤毛の女の子が座っている。
この子が妹のサリーさんかな?
「お嬢様すみません。
急にこいつが来てしまって。
お嬢様に教えてもらったプリンなのですが、味、焼き加減は安定したものの、どうしても表面がボコボコになってしまうのは改善できず、こいつに相談してみたんです。
そしたら…寝食忘れて研究したらしく、ボコボコにならないプリンができたと、お嬢様に見てもらいたいとやってきてしまったんです。」
「すみません。
初めて見たお菓子だったので、出来たのが嬉しくてお嬢様の都合も考えず来てしまいました…」
見るからにシュンとしている。
ラッシュに怒られたんだろうな。ふふふ。
「でも、出来には自信があります!
是非食べてみてください!!」
「こら!まだ話の途中だろうが。
お嬢様に迷惑かけるんじゃない!」
ざっとかごを差し出す彼女に諌めるラッシュ。
なんだか微笑ましい。
「ラッシュ。領内会議で忙しい中研究してくれてありがとう。
サリー様もありがとうございます。
是非食べてみたいです。
メリンダ、お茶お願いできるかしら。」
「かしこまりました」
お茶の用意が整って、いざプリンの試食です。
お皿の上にはプルンプルンのプリン、カラメルソースもなんだか良さそう。
うわぁ〜!プリンだ!本物だ〜!!
一口食べる。
プリンだーーーー!
嬉しい。やっと焼き菓子以外のおやつにたどり着いたわ。
「こ、これです。とても美味しくできております。
食感もなめらかで、ソースのほのかに感じる苦味とプリンの甘みがたまりません!
サリー様、ありがとうございます。
私のためにプリンを生み出してくださって。
大変だったのではございませんか?」
「いえ、おにい…兄が既に材料の比率を研究していたので、私はボコボコの正体を探るだけだったのです。
とはいえ、このようなお菓子は作ったことはもちろん、食べたことも見たこともありませんでしたので、ちょっぴり苦労しました」
「それであのボコボコは何が原因だったのでしょう?」
「まずは加熱の温度が問題でした。
お嬢様に最初に食べてもらったのは、温度が高すぎたのです。
加熱温度を下げていくといくらか食感がマシになりました。
けれどそれから先はどうしようもなく…そこで妹に相談したのです」
「兄から相談を受けて、私も一から温度と時間を変えてみました。
マシにはなりましたが、お嬢様の言われたという「なめらか」とは思えませんでした。
配合率も見直しましたが、変化はあるもののなめらかな食感には至らず。」
「では、何かしら?私も加熱の時間や温度かしらとは思っていたのだけれど。」
「かき混ぜ方です。
卵液をかき混ぜる際に、しっかり混ざるよう泡が立つほどかき混ぜてしまっていたのです。
泡が立たない程度のかき混ぜ方に変えてやっと成功しました!」
「泡立てる…空気を含んだのね。
あぁ納得しました。
サリー様ずいぶん手間をかけさせてしまいました。
お仕事やご家庭に支障はありませんでしたか?」
「サリーは結婚してませんし、料理バカで美味いもの作るのが好きなんです。
仕事は下働きで野菜の皮を剥くだけだったり、皿洗ったりと言った業務なので仕事よりお嬢様のプリンの方が楽しかったはずですよ。
そうだろ?」
「バカはないでしょ。バカは!もう!
でも本当です。この数日とても楽しかったんです。
仕事も結婚もどうでもいいくらい。
だから全然気にしないで下さい。
むしろ、ご迷惑でなければ何か新しい料理があったら教えてほしいと思っているくらいです!」







