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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

魔王様、原画回収お願いします! ~異世界から来た魔王、アニメの制作進行になる~

作者: 浮脚ダツ

連載してる方が行き詰ったので息抜きで、はたらく魔王さま!とかSHIROBAKOからインスパイア受けて書きました。

 五大陸の内、南の大陸を支配する、淫蕩の魔王、ユグドラシル。

 彼女の居城に、他の四大陸の魔王を討ち滅ぼし平定した勇者イブキの一行がついにやってきた。

 幹部は瞬く間に皆殺しにされ、勇者たちは玉座の間へ一直線に赴く。

 壮絶な死闘を繰り広げ、ついに後一歩、後一手というところまで追い詰められた魔王。

 彼女は、自身の慢心を恥じた。

「この妾が、人間の小娘どもごときに後れをとるとはな……」

「ここまでだぞ、魔王ユグドラシル! 投降するならよし。しないならば、この場でその首貰い受ける!」

「貴様ら人間ごときにやる首も、下げる頭も無いわ。投降? 笑止。それこそあり得ん」

「ではどうする。もう貴様に後はないぞ!」

「後、後か……。ふっ、後なら、あるさね!」

 指をパチンと鳴らし、魔王ユグドラシルは、自身の背後に空間の穴を出現させた。

「な、何だ、その魔法は!?」

 勇者、イブキが驚愕する。

「言っただろう、後さね。別の世界に繋がる穴じゃ。妾もこの魔法は初めて成功した。土壇場というのは、思いがけない力が湧くものさね」

「別の世界。そこで何をするつもりだ!」

「決まっているだろう。ここがダメだったんだから、あっちを征服するのさね。臆さないなら付いてくるがいいさね。ま、この世界だけ守りたかったお前には、もう預かり知るところではないだろうから、関係ないだろうがね。おっと、そうこうしている間にも穴が小さくなり始めたねぇ。さらばだ勇者イブキ、もう二度と会うこともないだろうさね!」

「ま、待て!」

 勇者の制止など聞くはずもなく、魔王はこの世界を去った。未だ残党こそいるが、幹部を全て倒された彼らはもはや烏合の衆だ。

 そう、つまりは、こうして五大陸の世界は救われたのだ!


 そして、穴の中の魔王ユグドラシルは――

「ふっ、ふふふ。逃げおうせてやったさね! 命あっての物種と言うやつさね。さて、この先がどんな世界かは分からないが、妾にかかればチョロいものさね」

 ふと、自身の身に違和感を覚えた。

「ん? なんじゃ? 力が抜けていくような――はっ!?」

 それが、魔力が抜けていく感覚だと気づき、急ぎ、流出を抑えるために、魔力の出口に蓋をした。が、それでも少しずつ抜けていく。

「なんということじゃ、これでもまだ抜けていくか。だが、まぁ先ほどよりかはずいぶんとマシさね」

 ユグドラシルは、ひとまずとして、この問題を棚上げした。失った魔力は補給すればいいからだ。

「まぁ、よい。向こうに着いたら、適当に男を見繕って精を吸ってやろう。妾の美貌と手管があれば、阿呆な男の100や200、手駒にするなど容易いものさね。ふふん、人間の精も最近ご無沙汰じゃったからな、よい魔力補給になるってものさね」

 穴の出口が近付いてきた。

「さて、どこに出るのかは知らぬが、男の前であれば、即、色を使って精をいただくとするか」


 魔王ユグドラシルが穴より出た場所は、見窄らしく、狭い部屋の一室だった。

 床にはクシャクシャに丸められた紙が至る所に捨てられており、照明が点きっぱなしの部屋の、その片隅に置かれた机には、突っ伏して眠る男と、その傍らには何本も同じ柄の缶や小瓶が並べられている。飲み物だろうかと、鼻を近付けると、甘い匂いがした。

 中身はどれも空だったため、味を見ることは出来なかった。

「味は気になるが、まぁ今はよいか。ここに男がおるのは重畳さね。早速魔力補給を――ん? なんじゃ、これは」

 男が眠る机には、男女の人間や、動物、見たこともない乗り物らしき物体が描かれた絵があった。

「こやつ、画家か? いや、こんな狭い部屋でということは、もしや刑務作業、罪人なのかもしれぬ」

 何となくだが、飾ってある方の絵は、本人が描いたものでは無い気がする。

「ううむ、よく描けておる。これを描き写して売るだけでも、好事家が寄ってこようというものさね……はっ!?」

 絵の出来映えに関心して、本来の用事を忘れてしまっていたことに気づいたユグドラシルは、男を揺すって起こそうとする。

「ん? こやつ、男にしては体が柔こいのぅ。髪は短いが、まさか……」

 脇から手を入れ胸をむんずと掴むと、女性らしい膨らみがあった。

「まだじゃ。痩せ形の肥満かもしれぬ」

 ユグドラシルは、暫定男のズボンを下ろす。

 可愛らしいシルクの布切れが露わになった。

「ま、まだじゃ。女装趣味、もしくは、こちらの世界ではこういう下着を履くのが男子かもしれぬし?」

 男であってくれと祈りながら、パンツの隙間から股間に手を入れた。

「女じゃった……これでは精が得られん……。いや、得られぬ訳ではないが、男ほど効率がよくない。女好きであればそれでもよいのだろうが、妾はそうでもないからのぅ。はぁ~」

 嘆息しながら、女だった暫定囚人を恨めしそうに睨む。

「紛らわしい恰好しおってからに、ぬか喜びした妾の気持ちを返さぬか、まったく。どうせこんな性倒錯者の描く絵など大したこともないじゃろう。ああ、性倒錯者だから囚人であったか! ははは! どれどれ、お主の絵を見て笑ってやろう――」

 魔王は、馬鹿にしながらその女の絵を見た瞬間、心を奪われた。

「な、なんじゃ、これは……描き写しではなかったのか?」

 そこにあったのは、手本だと思っていた絵の人間や動物や物体ではあった。

 だが、根本的に違っていた。

「う、動いておる……。絵が、動いておる!?」

 一枚一枚、少しずつ、差異があり、ペラペラとめくると動きになっていたのだ。

「な、なんじゃこやつ。囚人の分際で、とんでもない職人ではないか!? そうか、性倒錯者だからではなく、こういった動く偶像を描く罪で捕まったのか。なんと、なんと愚かな世界なのか。妾の世界であれば、魔族側であろうと、人間側であろうと、このような技術の職人ならば引く手数多。爵位や領地であろうと与えられているだろうに……。しかもこやつ、虜囚の身でありながら、描くことをやめておらなんだ。よほど好きなのだろう。妾も、たとえ捕まったとしても男漁りは止められぬだろうからなぁ。看守ですら食っておったろうなぁ。うむ、今思えば、あのまま捕まって牢獄から新たな征服活動を始めても面白かったかもしれぬなぁ。まぁ過ぎたこと故、今言っても詮無きことさね」

 ユグドラシルは、すっかりこの女のことを気に入ってしまった。

 相手が見下していた人間であることすら、もうどうでもよくなって、こいつを自由にしてやりたい、救ってやりたいと、心底思ったのだ。

 そして、この世界を征服した暁には、創作の自由を真っ先に実現しようと心に決めた。

「へくちっ! うわ、さむぅ。寝ちゃってたよぅ。あと何カット残ってたっけ……。ていうか今何時……うわっ!? 何で私、下脱いでるの? 寒いわけだよぉ」

 くしゃみをして女囚が目覚めた。そういえばズボンを下ろしたままだったことを忘れていたユグドラシルは罪悪感を覚えた。救ってやると誓った先からこれでは、我が道の先が思いやられる。この程度の気温の変化でも人間は病気になることを忘れてはいけないと思うのだった。


 女、武本時子は、残りの仕事量と現在時刻を確認して、打ちひしがれる。

「ああああああ!! 寝すぎだよ私!! やばい! 倍で手を動かさないと、落とす! 二原さんは入れないって言ってたから適当な仕事上げられないし、何より安田作監にこれ以上迷惑かけたくない! がんばれ私! 自分でやります、できますとか言っておいて落としちゃったら仕事もらえなくなる!」

 部屋にいるユグドラシルに気づく素振りすらなく、時子は机に向かい、一心不乱に絵を、アニメの原画を描き始めた。

「の、のう……もし?」

 声をかけるユグドラシルだったが、完全なシカトを決められた。魔王である自分の問いかけを無視するとはと怒りを覚えたが、時子の真剣な表情と、彼女の手の中で描きあがっていく動く絵に見惚れ、ついぞその怒りを表に出すことは無かった。

 何時間見ていただろうか。ユグドラシルはいつの間にか彼女のすぐ後ろで正座をしていた。

 1カット描きあがるごとにカット袋に入れられて、後ろへと無造作に放られるそれを拾い上げて中身を見ては、感動し、元に戻して綺麗に丸テーブルの上に積む。そんなことをずっとしていた。

 くぅう~。

 音が聞こえた。これは自分自身でも聞いた覚えがある。腹の虫の音だとユグドラシルは気づく。だが自分の腹からではなかった。そう、時子の腹から出たのだ。

 だが、時子はそんなことはお構いなしに絵を描き続けている。

「愚か者め。そんなことでは早晩くたばってしまうさね。人間はちゃんと食べる時に食べねば……」

 ユグドラシルの声など聞こえていないことはわかりきっていた。時子は描き続ける。

「うむ、今は良い。だが、仕事が終わったとき、食い物がなければ困るであろう。ここの看守はいつ食事を運んでくるのじゃ?」

 部屋の引き戸を開けると、意外にも、もう一つ部屋があった。

 鉄の扉と、磨りガラスの扉、縦長の四角い箱が大小と二つ。まだ部屋は続いているようだった。

 そこでやっとユグドラシルは、ここは牢屋ではないのではないかと思い始めた。

 すぐ近くにある磨りガラスの扉を開けると、浴槽と、トイレがあった。

「なんと、洗面所であったか。それも一人用くらいの大きさの……」

 すぐに出て、鉄の扉を開けると、そこはなんと外だった。

「外じゃと!? では、やはりこやつ、囚人ではなく、ここで一人で住んでいるというのか!?」

 一人暮らしという概念を知らないユグドラシルは驚嘆した。

 部屋の中に戻り、鉄扉を閉め、再び中を見回す。

 よくよく見てみると、生活感がある。

「食糧庫はどこじゃ? ここで生活しておるのであれば必須であろう。ふむ、ちともったいない気もするが、やむを得ぬか」

 ユグドラシルは、鑑定と透視の魔眼を使い、部屋を見回す。

 縦長の大きな方の箱、冷蔵庫という物の中に飲食物を見つけた。

 他にも、この部屋の道具について一通り調べがつき、家電やコンロ、洗濯機などの扱い方も把握した。

「ここまで分かればよいか。ふん、男を籠絡させるために磨いた我が調理技術、存分に奮ってやるさね、覚悟するがよい、女よ!」

 部屋にある道具と材料で手早く料理を仕上げていく魔王、図らずも、その完成と、時子の仕事の一段落の瞬間が一致した。

「ん~~~! とりあえずこのくらい追い上げれば後は何とか。私すごい! やれば出来る子! うはぁ~、30カットくらいやってるよ~。たぶん、こういう無理は今後きかなくなってくんだろうなぁ」

 机の上に積まれたカット袋の塔を見て、少し切ない気持ちになる時子。

 そして、鳴るお腹。

「あー。だめだめ。ネガティブになるのはお腹が空いてるからだ! ご飯食べよう、ご飯。えぇと、何か材料が残って――?」

 そこで部屋の違和感に気づく。

「私、カット袋放ってただけなはずなのに、テーブルに積まれてる? あれ、何か良い匂いする」

 突如、キッチンに繋がる襖が開かれる。

「仕事は一段落ついたようじゃな、どれ、腹が減っておるじゃろう? 妾が直々に人間の、しかも女のために料理をこさえるなど滅多にないことなのじゃぞ? ありがたく味わうが良いさね!」

 褐色の肌に映える、白く、胸元が大胆に開かれたドレス (丈も短い!)を纏った、パツキンの美女が、一汁三菜のバランスの取れた料理を乗せたお盆を持って現れた。


 2年後――。

「うむ、うむ。お主はやれば出来るであろう? なんじゃ? また妾が頭を踏んでやらねば描けぬと申すか? たわけ! 踏んで欲しくば原画を上げよ! その先のこと? それこそ阿呆抜かすな。妾は時子のものだと言うておろう! ……口淫までじゃ(ボソリ) そうか、上がるか! 上がったらまた連絡するがよいさね!」

「ユグさーん、5話の池縁さん上がったそうなんで、原画回収お願いしまーす」

「了解じゃ。他も様子を見てくるが、よいか?」

「助かりまーす」

 時子の所属するアニメ会社で制作進行をするユグドラシルの姿があった。

 そして――

「こりゃ勇者! 同じカットでいつまで修正作業しとるんじゃ! 時子の――作監に迷惑かけるでないわ!」

「済みません済みません! どうしても猫の足運びが描けなくてぇ」

「まったく、剣以外はからっきしじゃな、絵の腕は比較的マシだったから妾の伝手で入れてやったが、やはりこやつには観察が足らなんだようじゃ。他の仲間たちはキャリアアップしてきているというに……。仕方のないやつさね。バカな子ほど可愛いと言うらしいしの。うむ、今日の分の原画回収が終わったら、一緒に猫カフェに行くぞ、勇者イブキ。取材さね」

「うぅう。ありがとう、魔王……大好きぃ」

「貴様に殺されかけたこと覚えとるのに好きとか抜かすでないさね……」

 魔王ユグドラシルを追いかけてきた勇者一行も、同じ会社で働いているのだった。

「イブキさん、どう? 修正終わりそう?」

「時子! ダメじゃ、こやつ、まだ猫が描けん。他は出来とるようじゃから、そっちから頼めるか?」

「わかった。出来てる分だけ貰っていくね。戦闘アクションの作画は私も勉強になるから、イブキさんの原画見るの楽しみなんだ」

「ああ、そうじゃ時子、終業後こやつに猫を取材させる故、猫カフェへ行こうと思うのじゃが、時子も来るか?」

「いいねぇ、たまには癒されたいし、行くよ、私も」

「妾の夜伽では癒やしが足らなんだか、おのれ、猫め……」

「そっちはそっちで十分足りてるから、ユグ……」

「魔王、惚気トークは帰ってからにしてくれ、集中できない」

「淫蕩の魔王に猥談をするなと言うのが無理な話じゃ。今度、また混ぜてやるから、そうカッカするでないさね」

「だから! あーもう! ……二人きりがいい」

「欲しがりさんめ!」

「ユグ、原画原画」

「おう、そうじゃった。では、行ってくるさね!」

 転移の魔法で原画を回収しに行く魔王ユグドラシルであった。

息抜きで2年分の話なんていちいち考えてられるか!

ご想像にお任せします。彼女らにも事情がイッパイアッテナ。

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