ブログで語る、ボクのこと。(5)
その夜、あえてオレは平静を装って、平凡なブログを更新してみた。
すると、今夜も彼女はすばやくメッセージをカキコしてきた。
「今日は行けなくてごめんね」
「・・・・・・」
彼女。
オレの高校の同級生。
先月には、交通事故で、死んでしまったという、『彼女』。
この世には、もう、いないはずの、『彼女』。
では、このカキコの主は誰なんだ?
彼女に逢えるという期待で、興奮してたオレをからかってるにちがいないコイツは何者なんだ!?
もうガマンできない。
「あなたは、だれですか?」
漢字変換すら忘れて、オレは書きこんだ。
このカキコが最後で、相手はもう何も書きこんでこないかもしれない。
それならそれで構わない。
ふざけるんじゃねぇよ。知り合いの名を騙って、人をおちょくりやがって・・・!!
ぴたりと、カキコが止まった。
昨日までの、チャットのようなスピードの書き込みから考えると、5分、10分と過ぎていく空白の時間が、とてつもなく長い時間に感じられる。
30分。
ようやく沈黙が破られた。
「あの場所に、今日、行って、何か感じなかった?」
ときた。
は?
ナニ言ってるんだコイツ。
少し、拍子ぬけ。
オレは、てっきりこのニセモノが、今までのことを取り繕うために、あれやこれやとつまらない言い訳をかましてくるか、
それとも、だんまりのまま、二度と書きこんでこないものだと思っていたから・・・。
この反応は、意外だった。
「別に何も?」
そっけない言葉を、書きこむ。
だって事実、オレは待ってる間、ただ寒空を見上げてるぐらいしかしていなかったモンな。
「あんた、昔からニブかったもんね」
ムカ。
「にぶいとは何事だ? 何が言いたい?」
「そのまんまの意味よ。に・ぶ・い。他人の気持にも、あんた自身の気持ちにすら、ね」
「ああ? 意味わかんねーよ。」
「わからないなら・・・そのままでいなさいっての。思い出しさえすれば、すべてわかるはずだってのにね? この、『にぶオトコ』」
オレは、はっとした。
そうだ、
そうだと思う。
このやりとりの『間』は、彼女そのものじゃねーか?
いくらニセモノがオレと彼女のことをよく知ってるヤツだとしたって。
この会話の呼吸までは、真似できないんじゃないか?
ごく。
オレは、脈拍がはやくなるのを感じた。
そして・・・
ふと、思い出す。
彼女がなぜか怒った情景を。
あの時は、なんで怒りだしたのかオレにはまるで分からなかった、とるに足らない会話。
その内容。
空を見上げて、
その色を見つめて、
「このまま変わらないといいな」
「んなワケにはいかねーだろ、きっと」