ブログで語る、ボクのこと。(11)
「そーだね、あンた『うそつき』じゃありませんでした。」
冷たい手をこすりこすり、奥さんは振り向いた。
「おーよ、で? なんか言うことがあるんじゃなかったか?」
「そうね、きょうは、報告することがありまーす。・・・って、その前にさ。」
と、
そう言ったきり、奥さんは不意に口をつぐんで、オレの顔を、じっと見つめてきた。
んん?
何か、ヘンだなぁ、こいつ・・・
そして、ようやく口を開いた彼女の言葉は、
「ここ最近、あたしから感じること、何かなかったでしょーか?」
だった。
「はぁっ!?」
まいった。
オレは飛びあがるかと思ってしまった。
どういう意味だ?
奥さん?
ここ最近・・・だとぉ?
オレは言葉が出てこなかった。
ので、
これによって、かろうじて、とぼけるコトに成功したらしい。
(内心は心臓バクバクだったが。)
黙ったまま返事しなかったので、奥さんは、やれやれと首を振った。
「あんた、ほんっと、にぶいわねぇ」
そうつぶやいて、ため息をつく。
「・・・・・・」
オレは無言。
それを見て、
「あはは、少し考える時間をあげるわ」
と、オレに小銭を渡した。
「あそこの自動販売機で、あったかいコーヒーでも買ってきてよ。で、ここに戻ってくるまでに考えをまとめておきなさいよね。うー、さむ」
小銭を握ったオレは、言われるままに、回れ右をして、ぎくしゃく歩き出した。
何だ?
奥さんは何を言おうとしてるんだ?
ここ最近っていうと・・・やっぱアレか?
ブログを通じて、『彼女』と仲良くしちゃってたことか?
あまつさえ、こっそり会おうとしてたことか?
え?
やばいスか?
これやばいスか?
・・・それにしても、最近よっく『にぶいヤツ』扱いされるよなぁ、オレ。
ホント、他人から見ると、にぶいのかなぁ?
びー、がたん。
ああ、コーヒー買っちまった。あちち。
振り向いて、奥さんのとこに、戻らなきゃいけない。
どうする?
なんて言う?
怒ってるのかな?
怒ってるんだろな?
ああ、微笑みを浮かべた奥さんが、冬桜の下で、オレのこと見てる。
すっごい見てる。
あれ?
でも何か、すごく幸せそうだぞ?
オレは奥さんに近づいていく。
怒っている顔つきじゃないなぁ。
ヘンなの。
なんだよ?
ああ、目の前にまで来ちまった。
も、
謝るしかないかな?
「・・・ごめん」
謝りながら、奥さんにコーヒーを手渡す。
「オレ、お前の言うとおり、にぶいオトコだよなぁ・・・」
コーヒーを両手でしっかり持って、彼女は、オレの顔をじっと見つめてる。
「お前の考えてることに、今さら気づいたよ。ホント、ごめんな?」
も、いいや、全部バレてんだったら、ひたすら謝るだけだよなぁ。
ぺこりと、頭を下げて、上げた時、オレはぎょっとした。
奥さんの瞳から、ぽろぽろっと、大粒の涙がこぼれてきたのだ。
いかん、泣きやがった。
しかし、彼女は怒っているわけではなかった。
満面の笑みを浮かべているのだ。
笑いながら、泣いているのだった。
「うれしい・・・気づいてくれたんだね?」
こいつは、『嬉し泣き』をしているようだった。
はあ?
またまた意表を突かれた。
何を言ってるんですか奥さん?
嬉し泣きをしながら、彼女の手からコーヒーが落ちた。
その両手で、彼女は、自分のおなかを、そっと押さえている・・・
そして、
「今夜、ふたつの奇跡を、あたしたちは体験したんだよ?」
そう、つぶやく。
は?
まさか・・・?
いや、ホントに?
その瞬間、オレの脳裏に、あるセリフがよぎっていった。
「再び始めましょう」
は・・・
ははは。
あははははっ。
オレも、知らないうちに涙をこぼしていた。
オレ、
パパになったのかよおおっ!?
奥さんは無言で微笑んだ。
やさしく、おなかをさすりながら・・・
オレも、
おそるおそる手を伸ばす。
なあ?
そこに誰がいますか?
そこに、あなたが、いますか?
寒い夜なのに、オレたちは、とてもとても、あたたかかった・・・
(了)