怪物黒猫と魔方陣の魔女
この台本は処女作の【弱虫黒猫と猫嫌いの魔女】の続きにして完結になります。
良ければ、前作と合わせて上演していただけたら幸いです。
声劇台本:怪物黒猫と魔方陣の魔女
作者:霧夜シオン
所要時間:約50分
必要演者数:2~5人
●はじめに
この台本は【弱虫黒猫と猫嫌いの魔女】の続きにして完結編になります。まだ弱虫
黒猫の台本を演られてない場合は、そちらを先に演っていただけると話がより良く
わかると思います。
性別不問、または演者間で自由に割り振ってもかまわないです。
基本的にこの台本単品でやる際は3~4人がベストです。
男性の方が魔女を演じても問題ないですが、くれぐれもオネエ言葉にならないよう
各自で台詞や語尾の変換をお願いします。男魔女(ウォーロック。決してウホッな
ものではないです。)というのがスコットランドやイギリス北部に存在するので。
あと、漢字チェックはしっかりお願いします<m(__)m>
●登場人物
黒猫スァーブ・♂♀:森の魔女に拾われ使い魔として育てられていたが、主が異端
審問官に殺された事でタガの外れた魔力が暴走、魔獣バンダ
ースナッチと成り果てる。
魔方陣の魔女・♂♀:死んだ森の魔女の双子。魔方陣を使った魔法を得意とする。
遥か離れた辺境に住んでいたが、森の魔女が死ぬ前に出した
手紙を読んで、自身の使い魔と一緒に会いにやってきた。
魔法に関しては森の魔女より優れている。
双子だけあって、容姿も瓜二つ。(20代後半~30代)
ハルシオン・♂♀:魔方陣の魔女の使い魔。本来の姿はカラスだが、大抵20代
前半の人間の姿でいる事が多い。魔方陣の魔女を「マム(お
母さん)」と呼んでいる。(性別逆転の際はダディでもマス
ターでも適当に。)
マザコン? いいや違うね! 魔女がそう呼ばせてるだけさ
ッ!(ゴゴゴゴゴ←
酒場の主人・♂♀:森の魔女の住んでいた森の傍の街で酒場を営む人間。根は悪
くないが、口調は喧嘩腰で気性も荒い。考えるより先に手が
出る。40代。
森の魔女・♂♀:魔方陣の魔女の双子。十三局所属の異端審問官によって殺され
、既に故人。
客1&2・♂♀:酒場で、スァーブこと魔獣バンダースナッチに襲われる不運な
人達。演者数に応じて割り振ってください。性別年齢不問。
○○(N)は各キャラナレです。
●キャスト2人(例)
黒猫(ハルシオン&客1&客2):
方陣の魔女(酒場の主人&森の魔女):
●キャスト3人(例)
黒猫:
方陣の魔女(森の魔女&酒場の主人):
ハルシオン(客1&客2):
●キャスト4人(例)
黒猫:
ハルシオン(客1&客2):
方陣の魔女(森の魔女):
酒場の主人:
●キャスト5人(例)
黒猫:
ハルシオン:
方陣の魔女:
酒場の主人:
森の魔女(客1&客2):
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
方陣の魔女(N):中世当時、黒猫は不吉の象徴として忌み嫌われ、迫害されて
いました。
これは、その無数の中の一匹のおはなしです。
人間に痛めつけられ、死にかけていた黒猫は、森に住む魔女に
命を救われました。
それまで灰色だった毎日は、急に鮮やかに彩られた日々になっ
たのです。
――しかし、そんな幸せで楽しい毎日は長く続かず、またして
も人間の手で突然壊され、真ッ黒に塗りつぶされてしまいまし
た。
絶望と主を守れなかった自分への怒りで、内に秘める魔力を暴
走させ魔獣バンダースナッチと成り果てた黒猫は、主を殺した
異端審問官を喰い殺したのです。
そんな世界のどこかであったかもしれない、小さなおはなしの
続きになります。
――クリック?
方陣の魔女役以外全員 (サシ劇の場合は全員一緒に):【元気よく】クラック!
黒猫(N):怪物黒猫と魔方陣の魔女。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
方陣の魔女(N):黒猫の主である森の魔女が死んでからしばらくして、
今は住む者もいなくなったはずの魔女の家での事です。
黒猫:【咀嚼音のあと、何かを吐き出す音】
・・・タリナイ・・・ナンデ、オナカイッパイニ、ナラナイ?
・・・グゥウゥ・・・。
黒猫:モッと・・・もット、食ベたイ・・・・・。
マた、ニンげんヲ連レてこなくチャ・・・。 ? ?? あレ?
・・・・・・?
こノ絵のにんゲン、ダレだっケ?
・・・・・・・・ッ、違う! 人間じゃない!
魔女様じゃないか・・・・・最近、ちょっと気を抜くとこれだ・・・!
ぁぁ・・・どうして、どうして忘れちゃうんだろう・・・。
・・・・・・・・。
おなか、すいたな・・・。
・・・・・・。
早ク、人間ヲ食ベタイ・・・・・【舌なめずり】
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
方陣の魔女(N):一方、それより少し前、魔女の森から遥か遠く離れた西の
辺境での事です。
ハルシオン:やれやれ、今日も一日働いたぜ・・・、そろそろ茶の用意をして、と
・・・。
方陣の魔女:あら、手紙・・・、ふんふん・・・ふぅん、まさかアイツがねぇ・・
・・・。
ハールー!・・・シオンー!・・・・・聞こえてるのー!?
ハルシオン:~~ッ!、はいはい、聞こえてるっての!
つーか、自分で付けた名前が長いからって適当に省略すんなよな!
さっきのなんてまるで、二人いるように聞こえるじゃねーか!
オレの名前は、ハ ル シ オ ン なんですけどねェ!?
ちゃんとフルネームで呼んでくれよな!!
方陣の魔女:【溜息】なぁに? 自分の使い魔をどう呼ぼうと自由でしょう?
そんな事よりハル、旅の支度して頂戴。
ハルシオン:旅・・・って、今度は一体どこに行くっていうんだよ?
北の山脈の果てか?
それとも南の絶海の孤島か?
まったく、旅好き魔女なんだからよ・・・。
方陣の魔女:東よ。アイツに・・・森の魔女に会いに行くわ。
ハルシオン:東・・・森の・・・ああ、双子のか。まだ会った事ねェけど・・・
どんな感じの魔女なんだ?
方陣の魔女:一言で言うなら、偏屈ね。
私も大概だけど、アイツはもっとだわ。
数百年も生きてて、未だに使い魔すら持ってない・・・はずだったの
だけれどね。
ハルシオン:・・・はず、だった?
方陣の魔女:そう、手紙によるとアイツ、ついに使い魔を持ったらしいの。
・・・それも、自分が大嫌いな猫のね。
ハルシオン:え、猫が嫌いだって? 魔女なのに!?
方陣の魔女:はいそこ!、魔女だからって、猫好きばかりじゃないのよ!
大体シオン、お前だってカラスでしょう?
私はお前を使い魔にする時、鳥好きだからという理由で契約したわけ
じゃないわ。
ハルシオン:いや、そうだけど・・・って、だから呼び方―――
方陣の魔女:【↑の語尾に被せて】
う る さ い わ よ?
・・・とはいえ、確かにどんな風の吹き回しかしら。
別にネズミでもフクロウでもカエルでも良かったと思うのだけど・・
・。
ハルシオン:【溜息しつつ手紙を手にとって】
・・・はーん、なるほど。ケガしてたのを拾ったって・・・
嫌いな割に助けるとか、随分と優しいんじゃねェのか? 森の魔女さ
んは。
方陣の魔女:あら、優しいですって? うふふ、がさつで粗暴で・・・アイツを見
たら優しいって言葉が裸足で逃げ出すくらいなのに。
ただの気まぐれね、きっと。
ハルシオン:いやそこは素直に認めとけよ・・・仲、悪ぃ(わりぃ)のか?
方陣の魔女:え? 別に仲は悪くないわよ。
んもうホラ、ぱぱっと40秒で支度しちゃいなさい、ハル!
ハルシオン:無・理!! 40秒とかカラス使い荒すぎ!
つーか、今何時だと思ってんだよ、夜だぞ!
方陣の魔女:あらぁ? な に か 言 っ た か し ら?
あ、そういえばぁ、先日新しい魔方陣が完成したの!
ねぇねぇ、試す? 試してみちゃう? ハ ル シ オ ン?
ハルシオン:絶ッッッッッッ対、イヤだ!!
はぁ・・・旅支度ね・・・イエス、マム。
方陣の魔女:ん、よろしい♪
ハルシオン:あ、ハーブティー! 早く飲まねェと、さめるぞ!
方陣の魔女:はいはい。・・・ん~、いい香り♪
ハルシオン:ったく・・・ああいう時だけフルネームとか、なんだよ・・・。
しょうがねぇなぁ・・・はぁぁ。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
方陣の魔女(N):私達主従が東へ向けて旅立って暫くした頃、場所は再び
魔女の森の傍の街へ戻ります。街中の酒場での事です。
黒猫:・・・・・。
酒場の主人:おい、スァーブ、何ボーっとしてんだ!
この料理を窓際のテーブルへ持ってってくれ!
黒猫:・・・・・。
酒場の主人:スァーブ!! 聞こえてんのか!? 早く料理を持って行け!!
黒猫:え?! あ、はい・・・!
酒場の主人:ったくよォ、最近どうしたんだ、アイツは・・・ぼんやりしやがって
・・・って! オイ!!
黒猫:【↑の語尾に被せて】
・・・あっ、うわっ!!【つまずいて転ぶ】
酒場の主人:ッバカやろう、スァーブ!!! 何やってんだ!!
料理を床にぶちまけやがって!
食材を無駄にすんじゃねェ!!【殴り飛ばす】
黒猫:あぐっ!! ―――ごっ、ごめんなさい! すぐに掃除します・・・!
酒場の主人:ったく、こんなに使えねェ奴だとは思わなかったぜ!
この役立たずがッ!!【足蹴にする】
黒猫:! っぐゥッ・・・・・。
酒場の主人:おら、モタモタすんな!
黒猫:・・・グゥウゥ・・・・・。
酒場の主人:なに呻いてやがる!
詫びにとっとと追加の麦酒でも持って行け!!
黒猫:・・・ウルサイ・・・!
酒場の主人:んなっ、てめ、ぇ・・・・・!?
黒猫:人間ガァ・・・喰ッテヤル・・・!!
酒場の主人:っひ!? なッ、なんだコイツ!? 急にデカくなりやがった!!
黒猫:・・・~~ッァァァアアアアアアアアアア!!!
ナンデ人間ハ、ドイツモコイツモ、ウルサク喚ク奴バッカリナンダァ!!
酒場の主人:ぐわあぁッ!! あっ、あが・・・ッ。
客1:なっ、なぁななんだ、あれは!?
客2:店主、大丈夫か!? しっかりしろ!
黒猫:グゥルル・・・・・!
・・・・・?
アァ・・・ナァンダ・・・ゴ飯ガ、コンナニイッパイ・・・【舌なめずり】
アルジャアナイカァァ!!!!!
客1:うわああぁぁぁあああ!? ばっ、バケモノだぁああ!!!
客2:ひいッ、た、助けてくれえええぇぇぇええ!! ッぎゃあああ!!
黒猫:アハハハハハ!! 逃ゲロ逃ゲロ!! オ前ラミンナ、ミンナミンナ喰ッテ
ヤルゥゥゥゥ!!!
方陣の魔女(N):あっ、という間もなくスァーブの燻り狂った顎は酒場
の客達を引き裂きました。
そのまま人間の匂いのする方向へ、自らを突き動かす衝動に身
を任せたスァーブは扉を壁ごと破り、外へと躍り出ていきま
す。
間を置かず響き渡る絶叫と悲鳴、そして怒号。
――地獄絵図が、始まったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
方陣の魔女(N):そこから時計の針は少し進んで、旅の途中の私達主従は、
森の魔女の住む場所に程近い地点まで辿り着いていました。
ハルシオン:【伸びをして】
ンぁ~~~ッ、やれやれ、もうどのくらい歩いたよ?
まだ着かねぇのか?
方陣の魔女:二ヶ月・・・いえ、三ヶ月ね。はぁ・・・やっぱりホウキに乗る魔法
を覚えないといけないかしら・・・景色を眺めながらのんびり歩いて
旅をするのも、悪くはないのだけれどね。
ハルシオン:アンタさァ・・・前から思ってたけど、なんで魔女のくせにホウキに
乗れないんだよ!?
方陣の魔女:だーかーら、そこ! 魔女だからって誰でもホウキに乗れるわけじゃ
ないのよ!
アレは付与魔術系統だから、私は専門外なの!
覚えるのなら・・・そうね、もう100年は生きないと無理だわ。
ハルシオン:へぇへぇ、さいですかー。
方陣の魔女:それに! あんた、じゃなくて、マム、でしょう? そんな悪い子に
育てた覚えはないのだけど?
私に無理をさせたくないのなら、お前が元のカラスの姿から大きさを
倍増しした状態にでも化けて、私を乗せて欲しいものだわ
。
ハルシオン:むっ、無茶言うなよな! 今は人形保つので精一杯だっ
ての!
方陣の魔女:はぁ・・・んもう・・・、ホウキじゃなくて転送の魔方陣を開発した
らいいかしら・・・。
ハルシオン:お、街が見えてきたぜ!・・・って、なんだぁ、ありゃあ・・・!?
方陣の魔女:どうしたの、ハル・・・っ、あれは、炎に・・・煙・・・!?
火事じゃなさそうね。急ぐわよ、ハル!!
ハルシオン:お、おう!!
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
方陣の魔女(N):三ヶ月かけて私達は、森の魔女が住んでいる傍にある街に辿り
着きました。
しかし、そこで見たのは瓦礫の廃墟と化して間もない、かつて
の街の成れの果てだったのです。
ハルシオン:っ、とと・・・ていうか、何をどうやったらこんなに壊せるんだよオ
イ・・・。
方陣の魔女:な・・・何なの、この有様は・・・。
ハルシオン:こいつぁ・・・うっぷ、ひでぇな・・・皆殺しじゃねぇか・・・。
まるで猛獣の群れにでも襲われたみてェな死体ばっかだぜ・・・。
方陣の魔女:本当ね・・・あちこち喰い荒らされてる・・・。
! ハル! こっちよ! まだ息があるわ。
しっかり! 一体、何があったのですか?
ハルシオン:ッ、本当だ・・・おい、しっかりしろ!
酒場の店主:あ・・・あんたら・・・旅人、か・・・アイツが・・・うちで雇って
たガキが、いきなり、バケモンに・・・このごろぼーっとしてて、働
きが悪ィからって叱ったら・・・急に・・・げほっ、ごほ
っ!
ハルシオン:どういうこった、そりゃあ・・・!?
方陣の魔女:ガキ・・・バケモノですって・・・?
そのバケモノ、どんな姿をしてました? 覚えてるだけでいいから、
教えてくださらない?
ハルシオン:いや、そんなの聞いてる場合かよ、マム!
酒場の店主:姿、かたち・・・? とにかく、デカくて黒くて・・・顎の部分が激
しく燻されてる、感じだった・・・。
ハルシオン:ンだよ、分かりづれェな・・・それだけじゃ何とも言えねェんじゃね
えのか?
方陣の魔女:顎・・・燻されて・・・っ、まさか・・・そんなはずは。
おとぎ話の中だけじゃなかったの・・・?
ハルシオン:マム、ブツブツ独り言言ってないで治癒の方陣を―――
方陣の魔女:【↑の語尾に被せて】ダメね。致命傷よ・・・。
生きながらえても、一日か二日ね・・・いつやられたのか知らないけ
れど、よく保ったものね。
ハルシオン:マジかよ・・・人間ってのはこういう時すげェよな・・・。
酒場の店主:くそっ・・・あの、いけ好かねェ十三局の異端審問官の奴が来た、後
だ・・・、あのガキが、スァーブが働かせてくれって、店に、来たの
は・・・。
あいつ・・・もしかして、森に住んでた・・・げほっ、魔女の眷属か
何かだったンじゃ、ねぇのか・・・?
そういや・・・旅してきた、ってわりには、何も荷物を持って、なか
った・・・げほっ、ごほっ、ごほっ!!
ハルシオン:お、おい! あまり喋るな!
方陣の魔女:異端審問官・・・十三局ですって!?
ハルシオン:うげぇ・・・また厄介な名前が出てきたなオイ・・・。
酒場の店主:ま、まさか・・・あんた、森に住んでるって言う魔女か・・・!?
あのガキに、命令して・・・!?
ハルシオン:おいおいおい、そりゃ誤解もいいとこだぜ!
方陣の魔女:魔女であることには違いないし、森の魔女とも関係が無いとは言わな
いけれど、この街の惨状には無関係だし、ましてや、アイツがこん
な事を仕出かせるはずもないわ。
ハルシオン:そうだぜ! こちとらはるばる、三ヶ月も旅してここまで来たんだか
らな!
酒場の店主:っそ、そうか・・・疑って、わるかった・・・げふっ、ごふっ!!
な、なぁ・・・見ず知らずのあんたらに頼むのも、なんだが・・・
このままじゃ、死んでも死にきれねぇ・・・! あと一日、二日でも
生きれるんなら、頼む・・・俺の家族や街の皆のカタキを討って、欲
しいんだ・・・!
どうせ死ぬなら・・・その結末を知ってからにしてェ・・・!!
たのむ・・・おねがいだ・・・!
ハルシオン:だから、あんまりイキるなって!
しかし、なんつーか・・・ホントすげぇな・・・。
方陣の魔女:【溜息】
正に、執念ね。人間の思いの力、本当に馬鹿にならないわ。
に、しても・・・私を魔女と知って頼み事とはね・・・。
貴方に代償を払えるのかしら?
結末を知る為だけに僅かな時間を長らえるくらいなら、ここで後生を
願いながら心静かに眠りについた方が良いと思うのだけれど?
ハルシオン:お、おい、マム―――
方陣の魔女:【↑の語尾に被せて】
お前は黙ってなさいな、シオン。
・・・どうするの? それだけの覚悟が貴方にあるのかしら?
ハルシオン:・・・・・【溜息】。
酒場の店主:・・・ッああ、かまわねぇ・・・魂でもなんでも、持っていきやがれ
・・・!
ハルシオン:【わずかに苦笑しつつ】
おいおい、他の魔女はどうか知らねぇけど、うちのマムは魂なんか
求めてねェっての!
方陣の魔女:ハル、余計な事は言わないの。・・・分かったわ。契約成立ね。
【魔方陣を描いて】
「大地よ、彼の陣を寄る辺となして、癒しの力を与え給
え・・・。」
・・・これでよし、と・・・。さて、気分はいかがかしら?
ハルシオン:マムの治癒魔方陣、随分久しぶりに見るな・・・相変わらずいい手際
だぜ。
酒場の店主:!! こ、こいつぁたまげた・・・、だいぶ楽になったぜ・・・。
魔女の使う魔法ってのはもっとなんかこう・・・おどろおどろしいモ
ンだと思ってたぜ・・・。
いや、この通りだ、礼を言うぜ・・・!
ハルシオン:うは、おどろおどろしいとか。魔女への偏見きたぜコレ。
方陣の魔女:ふぅ、失礼ね。貴方、魔女をなんだと思ってるのかしら?
自然と動物の声を聞き、寄りそって生きる、それが私達魔女。
自分達の正義以外を認めない貴方達人間や教会の連中・・・
あんなのと一緒にされては迷惑この上ないわね。
それに礼なんていいわ。後で貰うものはしっかり貰うのだから。
ハルシオン:うちのマムの取り立ては、世界一キビシイぜ!
酒場の店主:ッす、すまねぇ・・・。
わかった。それじゃ・・・・・よろしく頼む。
ハルシオン:まぁ任せときな! あ、その魔方陣から出たらダメだからな!
もし出たら・・・すぐに、おっ死んじまうぜぇ!
方陣の魔女:そうね、貴方はそこで大人しくしてなさいな。
私達が決着を付けてくるわ。
あと、ハル! いい加減その言葉使いは直して欲しいものだわ、まっ
たく・・・、行くわよ。
ハルシオン:マムが名前呼ぶのフルネームで統一してくれたら、直してもいいぜ!
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
方陣の魔女(N):遠目に火炎と黒煙を目にした時から、悪い予感はしていまし
た。
酒場の店主の口からあの言葉が漏れた時、それははっきりと確
信に変わったのです。
店主をひとり廃墟となった街に残し、私達は魔獣のものと思し
き足跡をたどり、町はずれの森の入口近くまで来ていました。
ハルシオン:・・・で、マム、この惨状の原因に、心当たりがあんのか?
方陣の魔女:初めに聞いた時は耳を疑ったけど・・・間違いないわ。
魔獣バンダースナッチよ。
ハルシオン:バンダー・・・スナッチ? 何だそいつは?
方陣の魔女:素早い動きに長く伸ばせる首と、獲物を捕らえる為の燻り狂った顎を
持っている怪物・・・としか書物に書かれてなかったけど、まさか・
・・実在するなんて。
ハルシオン:ハァ? 随分とまぁ、抽象的な表現なのな。
方陣の魔女:もともと幻想種だからね。
目撃報告はおろか、記録も少ないのよ。
ハルシオン:なるほどね。で、そいつを倒す手段は?
方陣の魔女:僅かな文献からの推測だけれど、バンダースナッチは大抵魔力の素質
がある動物が何かのきっかけで潜在する魔力を暴走させ、自身を変異
させて成る、成り果てるもののようね。
だから、その源になっている魔力を消費しつくしてしまえば、変異
が解けるはずよ。
それに・・・どんな姿をしているのか、滅多にお目にかかれるものじ
ゃなし、興味があるわ。
ハルシオン:やれやれ、魔女としての知識欲って奴かよ。
でも、魔力の消費って、具体的にはどうやるんだ?
方陣の魔女:相手に魔法を使わせるのが最良の手段ではあるのだけど、それだと
魔力の絶対量で劣っていた時に持久戦でこっちが負けてしまうわ。
だから・・・、魔方陣を使うわ。
ハルシオン:魔方陣・・・って、マムの手持ちにそんなのあったか?
方陣の魔女:幸か不幸か、旅に出る直前に出来たばっかりの魔方陣の効果がそれな
のよ・・・。 後は、お前と私がいれば、なんとかなるわよ。
ハルシオン:ぐ・・・む、まぁ、言われて悪い気はしねェ・・・って、あの時そん
な物騒なモン試そうとしてたのかよ!? ひでぇな・・・。
っと、マム、どうやら奴さん、森の中に入って行ったみたいだぜ。
方陣の魔女:そうね、足跡が奥まで続いているわ・・・。
ハルシオン:ん・・・待てよ、・・・! マム! それじゃ例の双子の森の魔女さ
んは大丈夫なのかよ!?
方陣の魔女:・・・・・おそらくダメでしょうね。さっきの酒場の主人の話の中に
、“十三局の異端審問官”が出てたから・・・多分、もう・・・。
・・・まったく、バカね・・・っ。 人里に近い所に住むから人の口
の端に上りやすくなって、その果てに教会の連中の耳に入る・・・。
そして、魔女裁判に名を借りた、討伐・・・。【泣くのをこらえる】
ハルシオン:っマム・・・・・。
方陣の魔女:それより、これは想像の域を出ないのだけど、そのバンダースナッチ
になった人間の子・・・もしかしたら アイツの使い魔の猫かもしれ
ないわ。
ハルシオン:なん・・・だと・・・、もしそうだったらどうするんだよ?
方陣の魔女:・・・どの道、倒すしかないでしょうね。まずは偵察して相手を見つ
けて、それと並行して魔方陣を構築するわ。
ハルシオン:了解、マム。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
方陣の魔女(N):その頃、黒猫は森の最奥にある、かつて森の魔女
と修練に使っていた空き地の傍にある、洞窟の中にいまし
た。
黒猫:ハァ・・・・ハァ・・・、【舌なめずり】
クククク・・・アハハハハハハハハ!!!
食ベタ、イッパイ、食ベタ! 馬鹿ナ人間共ヲイッパイ、食ベテヤッタ!
ザマァ見ロ! オレヲ馬鹿ニシタリ、蹴飛バシヤガルカラダ!
・・・【欠伸】。
アァ・・・オ腹イッパイニナッタラ、眠クナッテキタナ・・・。
・・・・・【寝息】
方陣の魔女(N):森の奥へ、奥へと進むにつれて、森の魔女の懐かしい魔力の残
り香を感じると共に、得体の知れない禍々しさも少しずつ増し
ていきます。
捉えどころのない恐怖に、私は内心、慄いていました。
方陣の魔女:・・・ここね。アイツが張った結界の境界線は。
ハルシオン:そういや確かに、雰囲気が変わったな・・・、魔力のせいか。
方陣の魔女:あら、お前もだいぶん、魔力感知に長けてきたわね。感心感心。
ハルシオン:っそ、そりゃあ、教え方が上手いから、な・・・ (ごにょごにょ
方陣の魔女:ふふ・・・、それにしても相変わらずね、あの時ちゃんと教えてあ
げたはずなのにまだ直してなかったなんて・・・。最後の綴りを間
違うと、夜になれば結界の意味が無くなるって言ったのに・・・。
ハルシオン:・・・お、マム、アレじゃねェのか? 森の魔女さんの家は。
・・・あんまり荒れてねェな・・・?
方陣の魔女:そうね。200年ぶりだけれど間違いないわ。気配は・・・無いわ
ね。
ハルシオン:【ノック】
すんませーん、誰かいませんかー?
・・・いないならお邪魔しますよーっと。
・・・案外片づいてるな・・・まるでつい最近まで誰か住んでたみ
てェだぜ。
方陣の魔女:そうね・・・。
ハルシオン:さて、何か手掛かりになるモノはっと・・・、って、うげぇ・・・
何だこの人骨の山・・・もしかしてバンダースナッチとかいう奴の
仕業か・・・?
方陣の魔女:でしょうね・・・、よくもこんなに喰らったものだわ・・・教会の
連中の耳に入らなかったのが不思議なくらいよ。よほど巧妙にやっ
ていたのでしょうね・・・。
ハルシオン:んーーー・・・、何かないもんかね・・・んんーーーー・・・・・
ん・・・? おいマム、これ・・・。
方陣の魔女:日記帳? アイツのね・・・どれどれ・・・。
【苦笑】・・・呆れたわ。アイツ、2年も経とうと言うのに、自分
の使い魔に名前も付けてなかったなんて・・・ま、嫌いな猫だしね
。その位かかった、ってことかしら・・・あら、これは・・・。
ハルシオン:ん? 何だ? 気になる文でもあったのか?
方陣の魔女:これ・・・使い魔の猫の名前候補ね・・・ッ、やっぱり・・・。
ハルシオン:あん?
方陣の魔女:予想通りよ・・・、バンダースナッチの正体はアイツの使い魔の黒
猫ね・・・、候補の中に酒場の主人が言ってた名前が書いてあるわ
・・・。
ハルシオン:Suave、か。とりあえず、奴さんはここにはいねェけど、どうす
るよ? マム。
方陣の魔女:・・・確か、修練場にしていた場所があったから、そこかもしれな
いわね。行きましょう。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
方陣の魔女(N):私達は森の魔女の家を後にすると、夜の森を奥へ更に進んで
いきました。
虫の聲もそろそろ途切れがちな季節というのもあり、寒気が
肌に迫ってきます。
方陣の魔女:足跡はこっちまで続いているわね・・・。
ハルシオン:なんか、禍々(まがまが)しい気配が徐々に強くなってきやが
る・・・今までにねェ感覚だぜ・・・。
方陣の魔女:近い証拠ね。・・・っと、開けた場所に洞窟・・・ここね。この
修練場全体を使って魔方陣を構築設置、そしてバンダースナッチを
誘き寄せるのよ。
ハルシオン:了解。こっちは囮で陽動ってわけか。にしても、このヤバイくらい
濃密な魔力の気配、あの洞窟から漂ってきやがる・・・。
方陣の魔女:あら、分かってるじゃない。・・・? 震えてるわね。怖じ気付い
たのかしら?
ハルシオン:ちっ、ちちちちげぇーよ!! 秋の寒気が肌にしみるんだよ!
方陣の魔女:ふふ・・・頼んだわよ。あ、ちゃんと会話用の魔石を常時作動させ
ておきなさいな!
ハルシオン:へいへい! ・・・ったく、なんでこんな目に・・・【ぶつぶつ】
方陣の魔女(N):ハルシオンが洞窟に足を踏み入れると、中はそれなりの規模
の広さと高さがあり、鍾乳石があちこちに垂れ下っていまし
た。
ハルシオン:――――うっ、冷てぇ・・・! っと、・・・あんまり奥行きはね
ェ感じか・・・っげ、な、なんだありゃあ・・・!、
方陣の魔女:どう? 見つけた?
黒猫:・・・・・・。【寝息】
方陣の魔女:って、これは・・・凄いわね。本当に顎がどす黒く燻されてる・・
・。
ハルシオン:ああ、見つけたけどよ・・・ってマム! またオレの眼を覗いてん
な!?
てか、魔方陣の準備は出来たのかよ!?
方陣の魔女:出来てるわよ! ってハル、声がおおき――――
黒猫:【↑の語尾に被せて】ン・・・・・? !! グゥルルァァオオォゥ!
ナンダオマエハ!!!
方陣の魔女:もう! 言わないことではないわ! このトリ頭!!
ハルシオン:ぃやっべえええ!! いつも通りに会話しちまった!! マム、全
速力で戻る! 魔方陣の発動タイミング、間違えんなよォ!
方陣の魔女:分かっているわ! お前こそ怪我でもしたら許さないわよ、ハルシ
オン!
ハルシオン:ッ! こ、こんな時だけちゃんとフルネームで呼ぶなあああ!!!
破壊力 高ぇんだよ!!
方陣の魔女:いいから! 早く戻ってきなさい!!
黒猫:ウルサイ・・・ウルサイウルサイウルサイ!!!
喚イテナイデ、ダマッテ喰ワレロォォォオオ!!!!!
方陣の魔女:60よ! 60数える間になんとかして奴を魔方陣の中心まで誘き
寄せて頂戴!
ハルシオン:ッわッかッてらあああぁぁぁああ!! 60だなァ!
方陣の魔女:行くわよ!「―――深淵より生命の活力を奪い、枯渇へ導く闇の守
り手よ。今ここにその力を示し給え!」60、59、58・・・
黒猫:ッガアアァァァァアアアア!!!
方陣の魔女:54、53――――
ハルシオン:ほらよ、ここまでおいでっとォ!!
方陣の魔女:43、42、41、――――!?
黒猫:グルァアアアア!!!
方陣の魔女(N):その巨大な体躯からは想像もつかないほど俊敏な動きで
黒猫スァーブが追いすがります。
激しく燻り狂った顎から覗く鋭い牙がハルシオンを捉えまし
た。
黒猫:シネェェェェエエエ!!!
方陣の魔女:ッハル、危ない!!!
ハルシオン:チィィ、くそったれ!! こうだァッッ!!
方陣の魔女(N):その牙に掛かりそうになった刹那、精悍な人間の青年の姿は
消え、そこには普通サイズより二回りも大きなカラスの
姿に戻ったハルシオンが、翼を羽ばたかせていました。
ハルシオン:ッふう、危ねェ!! ―――そら、お返しだぜ!!
方陣の魔女(N):原形に戻ったハルシオンは大きく嘴を開くと、焔の弾を数個
連続して吐き出します。
その内の一発が黒猫スァーブの鼻っ柱に直撃しました。
黒猫:グギャアアアアアアアアアア!!!
グゥウ、グゥアア゛ア゛、オノ゛レ、オ゛ノレヨク゛モォォォオ゛オ!!
方陣の魔女:今よ、ハル!! 急いで!! 30、29、28―――!
ハルシオン:ッ、あいよぉッ!!!
方陣の魔女:19、18、17――― (間に合って、ハル!)
黒猫:ガァッ!! グルァァッ! ゴォォオオアッ!!!
方陣の魔女(N):負傷に激高し、燻り狂った顎を滅茶苦茶に伸ばしてスァーブは
襲ってきます。
ハルシオンはそれらを紙一重で見切り、躱しながら徐々に出
口に近付いていきました。
戦いは、あと僅かで終局を迎えようとしています。
ハルシオン:ハッ、どうしたどうしたァ! よっと! 当たらなけりゃどうとい
う事はねェなァ!
方陣の魔女:10、9――― (! 見えた!)
ハルシオン:どうだ、マム! 時間内にお客さんを連れて来たぜェ!・・・って
止まらねェで突っ込んできやがる!?
方陣の魔女:っ、まず・・・!
黒猫:ゴォォォオオオオアアアアァァァアアアア!!!!
方陣の魔女(N):その時、発動を始めた魔方陣の巻き起こす風で、私の帽子が
飛んだのです。
黒猫:ッッッッ!!?!!!?
ハルシオン:な、なんだ!? いきなり急停止しやがった? って、マム! チ
ャンスだぜ!
方陣の魔女:! ッ、ええ! 「彼の者の魔力をもって代償と為し、交わせし盟
約を成就せん! 捧げられし供物の名は・・・Suave!!」
「ドレインテッド・メイルシュトローム!!」
黒猫:ギッ、グゲガッ!? ガッ!!
方陣の魔女(N):完全に起動した魔方陣が黒猫を拘束し、容赦なくその身体か
ら魔力を奪っていきます。
黒猫:ァアギャアアアァァァァアアアアッッッ!!!
ゥグッ、ゲッ、グゲォォオオゥブルグアアァァア゛ア゛ア゛ア゛ッッッッ
ッ!!!!
方陣の魔女:あ、あれが・・・あのどす黒いのが全部魔力だというの?
ハルシオン:吐きだしてやがる・・・すげェ・・・なんて密度と量だよ・・・!
方陣の魔女:見て、段々小さくなって・・・あ・・人形になったわ・・・。
黒猫:ア・・・ガ・・・ガガ・・・ァ・・・あ・・・あぐ・・・・っ
方陣の魔女(N):人間の姿まで戻ったスァーブは、何かを探すように辺りを見
回していましたが、やがてある方角に視線を止めて歩きだそ
うとし――そのままゆっくりと倒れながら、元の小さな黒猫
の姿に戻ったのです。
ハルシオン:ふぅぅ・・・なんてヤツだ・・・死ぬかと思ったぜ・・・。
方陣の魔女:無事でよかったわ、ハル。・・・あの子、最後に何かを探してるよ
うだったわね。
一体何を・・・・・・ッ、これは・・・もしかして・・・。
ハルシオン:ん?・・・こいつは・・・墓か? 誰の・・・ってまさか!
方陣の魔女:アイツの・・・森の魔女の墓、ね・・・。魔方陣発動の時もそう、
あの時私に自分の主の面影を見たのね・・・。
ハルシオン:そっか、双子だもんな・・・なぁ、マム――――
方陣の魔女:分かっているわ。せめて、ね・・・。
ハルシオン:【森の魔女の墓の傍らに穴を掘って】
・・・・っと・・・穴はこんなもんでいいか? じゃ、埋めるぜ。
方陣の魔女:ええ、十分よ・・・。
ハルシオン:さって、街に戻って酒場のおっさんに報告しといてやらねェとな!
行こうぜ、マム!
方陣の魔女:はいはい、分かったわよ。まったく・・・元気ね。(生きてる保証
はないのだけど・・・)
ハルシオン:あー、腹減ったなぁ!
酒場の主人:!!・・・あ、ありゃあ・・・光の柱・・・? うまく、いったの
か・・・? うっ!?・・・っはは・・・体から、力が抜けていき
やがる・・・おいおい、早すぎやしねぇか・・・?
酒場の主人:チッ、どっちにしろ・・・魔女・・・なん、て・・・信用、するも
んじゃあ・・・ねぇ・・・な・・・。
方陣の魔女(N):私はハルシオンと共に帰路に着きながら、温もりを徐々に失
っていく黒猫スァーブを抱き上げて撫でていた時の事を思い
出していました。
あの時。
目の前で倒れ逝きながら、
その口が最後の言葉を紡ぐのを、私は確かに見たのです。
―――魔女様、と。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
方陣の魔女(N):黒猫スァーブはふっと目を覚ましました。気がつくと、誰
かの膝の上に抱かれているようです。
なんだか、懐かしい匂いがします。
黒猫:う・・・うぅ・・・、あれ・・・ここ、どこ・・・。
森の魔女:おや、やっと気がついたのかい?
黒猫:あ・・・さっきの・・・え? あれ? 違う・・・似てるけど、違う・
・・?
森の魔女:なんだい、もう忘れちまったのかい?
二年も一緒に居たってのにねぇ・・・忘れられてるなんて悲しいも
んだね。
黒猫:え・・・? !! あ・・・あああぁ!!!
森の魔女:やれやれ、やっと思い出したのかい。まったく世話の焼けるクソ猫
だね、ほんと。
黒猫:【↑の語尾に被せて】
魔女様ぁ!!!
うっ、ううぅ・・・うああぁぁああぁぁぁぁぁああん!!
森の魔女:こら、いきなり人の姿になって抱きつくんじゃないよ!
・・・よしよし。
黒猫:ひぐっ、ぐすっ、うぇぇえんん・・・魔女さまぁ・・・ごべんなさい、
ごぇんなさいぃぃ!!
森の魔女:なんだい、何を謝ってるんだい。
黒猫:だって! だって・・・ボク、守れなかった・・・魔女様との約束、守
れなかったぁ・・・!
魔女様のぶんまで・・・生きろって、言われたのに・・・!
森の魔女:ホントだよ! まったく・・・、
何をやってるんだかね、このクソ猫は!
【少し笑いを噛み殺しながら】
黒猫:! ひうっ、うううぅぅ・・・。
森の魔女:・・・冗談だよ、もう泣くのはおやめ。
黒猫:・・・・・え?
森の魔女:もう、いいんだよ。お前は自分なりに、精一杯生きたじゃないか。
少なくとも出会ってからの二年間、あたしはそう思ってお前を見て
きたよ。
それに、お前の力の本質を見抜けなかったあたしにも責任がある。
黒猫:あ、う、うぅ・・・そんな、魔女様は悪くないよぅ・・・。
森の魔女:ほら、そうやってすぐに目を潤ませるんじゃないよ。
ホント、お前の泣き虫にも困ったもんだね。
・・・さて、そろそろかね。
黒猫:え? そろそろ、って・・・?
森の魔女:ここは仮初めの場所なんだ。 もう、行かないとね・・・。
・・・?
どうしたんだい?
黒猫:あ・・・魔女様、行ってしまうの・・・?
嫌だ、嫌だよ! もうどこにも行かないで!
森の魔女:【軽い溜息】
何言ってるんだい、まったく・・・。
お前も一緒に行くんだよ。
黒猫:ぁ・・・え?
森の魔女:【軽く笑って】
ほら、おいで。――スァーブ。
黒猫:!!――はい! 魔女様!
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
方陣の魔女(N):こうして、人間の手で引き裂かれた黒猫スァーブと森の魔女は
、冥府の世界で無事に再会することができました。
・・・まぁ、私の想像が多分に入っているのだけれど。
でも――、そうでも思わないと報われないでしょう?
泣き虫弱虫な黒猫に、嫌いな癖して猫を育てた、がさつだけれ
ど心優しい魔女、それに奇妙な形でかかわった双子の片割れの
魔女と、その使い魔のお話はここまで。
※【方陣の魔女役以外の演者様達は、絵本の読み聞かせを聞い
ている子供達を想像してアドリブで“必ず”何か言って下さい
。】
【↑で喋っているのを背景に】
ふぅ、次の目的地はどこにしようかしらねー。
・・・あ、忘れるところだったわ。んもう・・・ほらほら、静
かになさいな。
※【ここらへんで↑の子供たちのアドリブセリフ止め】
はつかねずみがやってきた。――はなしは、おしまい。
END
●劇中語句説明
ハルシオン:比較的安全性が高い睡眠導入剤として有名。かつてアメリカのブッ
シュ大統領来日の折風邪が悪化、晩餐会中に倒れた際に服用して休ん
だという話も残っている。
「幻想」は英語で「ハルシネーション」と言い、これから由来してい
ると思われがちだが、実際はギリシャ神話の【翡翠になっ
た夫婦ケーユクスとハルキュオネの話】から来ている。
翡翠は英語でハルシオンバードと言うが、この逸話からそう呼ばれる
ようになったという。
以上の事から、まるで波風を鎮めるように眠りに導いてくれるトリア
ゾラムはハルシオンと名付けられた。ただし、最近では成分名を名前
にする薬が多く、ハルシオンの名前を目にする機会は今後減ると思
われる。
ハイ皆さん、おはこんばんちわ。作者でございますよー。
さて、声劇台本【怪物黒猫と魔方陣の魔女】、は如何でしたでしょうか?
演じて下さった方々は作者に感想をいただけると泣いて喜びます。
全ての演者様に感謝をこめて<m(__)m> H30.10.8