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納期

 当社の営業部は、主に都道府県別、三大都市圏だけは、さらに細かく分けられた地区ごとを一つの単位として、組織づくりがされていて、それぞれに営業部長がいる。

 千葉営業部の部長、愛媛営業部の部長といった感じである。

 私が就任したエリア営業部長とは、その複数の地区ごとの営業部長をまとめる役目となる営業部長である。東北エリアだったり、九州エリアだったりである。

 給与面では地区の営業部長と同じ営業部長としての待遇なのだが、組織としての順列では、エリア営業部長は、地区の営業部長の上ということになる。


 配属して初日に、同じエリアを統括する取締役に挨拶に行った。

「製造からの配属で大変だろうけど、エリア営業部長は、現場で最前線に立たなくてもいいポジションだから、その苦労はしなくても大丈夫だ。寧ろ営業とは違う目線で大いに励んでくれ給え。」と期待を述べられた。


 製造畑の人間がいきなり営業に回されたことが、どんな意味を持つのかの最低限についての認識はありそうだったので、ありがたく礼を述べておいた。


 そんなこんなで、最初の二日間は挨拶だけで一日を終えた。

 三日目の4月4日に、ようやく、営業部の自分の机の前にすわることができた。


 さっそくだが、自分の机の上にあるパソコンで、受注状況や納品状況などを確認した。

 すると、気になるものがすぐに目についた。


「ちょっと、このIS社さんの受注、納期が明日になっているけど、まだ出庫伝票出ていないようだね。大丈夫?間に合うの?」

「ああ、それですか。」と営業事務の課長が答えた。

「それはまだ、出庫してません。今週末か来週初めになると思います。」

「ええ、納期、明日だよ。」と私は驚いた。

「はい、そこは大丈夫なんです。」と課長は悪びれもせずに答えた。

「どういうこと?」私は首をかしげた。

「はい、IS社さんは前から納期の数日後に出庫していて、先方もそれでいいみたいで、苦情も全然ないんです。」

「はぁ、でも、それじゃ、納期の意味がないじゃない。」

「はぁ、でも、ずっとそうしてますので。」

「ずっとそうだからって、別に納期通りに納めても、寧ろその方が正しいのだから、とにかく今日にでも出庫してもらえる?」

「いいえ、今日は無理です。」

「どうして?倉庫にはあるんでしょ。」

「いえ、IS社さんの製品は、梱包だけKY社さんに頼んでますので、まだ入庫していないんです。」

「はぁ、そのKY社の納期はいつなの?」

「おとついです。」

「それなのに、入庫してないの?」

「はい。明日ぐらいだと思います。」

「それじゃ、外注先の納期がそもそも遅れているってわけ?」

「はい、前からずっとそうなんで。」


 開いた口がふさがらないという顔が現実にあるとしたら、この時の私の顔がそうだったろう。

 製造現場で、納期をきっちりと守るため、時として、厳しい残業を部下にお願いしてきたこともある私としては、この納期に対するだらしなさに対して、怒りの感情がこみ上げてきた。

『製造現場はどんな気持ちで納期を守ろうとしているのか、わかっているのか。』と問い詰めたい気持ちだった。


 だが、私はぐっとこらえた。

 この部署では今まで、ずっとそうしてきたのであり、それが間違いであるとは認識していないのである。

 それまで、間違いとされないまま、しかも何も問題も起こってこなかったことを、上司とは言え、昨日今日に来た新参者が、怒鳴りつけたとしたら、返ってくるのは反感だけなのである。

 彼等は、気付いてないだけであり、悪いわけではないのかもしれない。


 私は、担当の営業部長に声だけかけて、受注先のIS社さんへ挨拶も兼ねて謝罪に行った。

 対応してくれたのは先方の常務取締役だった。

 私は納期が今まで守られて来なかったことを素直に謝罪した。

「御社にも、ようやく、まともな人が現れましたな。」と常務は豪快に笑った。

「面目次第もございません。」

「御社も大企業ですし、うちとも長いつきあいですから、何も言わなかったですけど、これからはお願いしますよ。」と釘をさされた。

「はい。」


 会社に戻ると、外注先のKY社の担当と上司が私を待っていた。

 営業事務の課長から前もって事情を聞いたのか、平謝りに謝っていた。


 事を荒立てるつもりはない。


「これからは気をつけて欲しい。」とIS社さんから私が言われたように、私もKY社には念を押した。


 当社は大企業である。

 だが、営んでいることは商売であり、商売には信用が大事である。

 確かに、大企業であること自体が、一種の信用であり、お客さんは、大企業だから大丈夫だろう、と信用して取引をしてくれる。

 しかし、それに甘えて、信用を失うようなことを積み重ねていれば、あっという間に当社は大企業の座から転げ落ちてしまうだろう。

 そんなことは起こらないように、大企業だからと油断せずに、信用をしっかり守っていかなければならない。

 納期は約束なのである。

 約束は守ることによって、信用を得る。約束を破れば、信用を失う。

 それは、とてもシンプルなことなのだが、長い時代、人々の間で成立してきた、基本的な原則なのである。

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