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本来ならここから長い苦行の旅が始まり、気の遠くなる時間と根気が必要になるわけだが……それはあくまで正攻法でクリアしようとした場合である。

 当然、このゲームを知りつくしている俺はまともにクリアをする気などサラサラない。

 

 俺は一度城を出て宿屋に直行する。

 そしてカウンターの人間に話しかけると、

 

 とまる

 やすむ


 の二種類の選択肢が現れるので、やすむを選ぶ。

 すると突然目の前が暗くなって、また元に戻った。どうやら今ので休んだことになっているようだ。


 実はこのゲーム、なんと一丁前に昼と夜の概念がある。

 こうして宿屋で「やすむ」を選ぶことにより、時間を夜にすることができる。


 宿屋の外に出ると、なるほど辺りが暗くなっている。しっかりゲームに忠実だ。

 しかし町の人間などは先程と変わらないポジションをウロウロしており、セリフもこれといった変化はない。


 夜になると外は危険だぞ、などと忠告をしてくるNPCがいるが、特別モンスターが強くなるといったこともなく、ゲーム的にはなんら影響がない。

 夜でないと進行できないイベントが申し分程度に存在するが、それ以外は単純に画面が暗くなるだけという、とりあえずやってみました感満載のシステムだ。


 だが無理やりそんなシステムをねじ込んだ弊害か、夜にある場所へ行くと致命的なバグが起きる。

 そのある場所とは、城を出て東にある祠だ。

 ここには四方に一つずつ台座があり、世界を回ることで手に入る四つのオーブをそれぞれ捧げることによって、魔王の城へワープすることのできる魔法陣が広間の中央に出現するのだ。

 しかし夜にこの場所にやってくると、オーブを捧げずとも魔法陣が出現する場所に移動するだけで、バグで魔王の城へとワープできる。


 俺は城を出ると無駄に暗いフィールドを進み、ザコを蹴散らして祠までやってくる。

 明かりもないのにどういう理屈か祠の中は普通に明るい。


 俺は入り口を入ってまっすぐ、四方を台座に囲まれた広間の中央で足を止める。

 足元には魔法陣もなにもないのだが、立った途端にギュウウンと視界が歪み、気づけば骸骨の模様をした壁に囲まれたおどろおどろしい部屋の真ん中に立っていた。

 どうやら無事魔王城の中にやって来たようだ。


 さて、ラストダンジョンである魔王の城は、製作の体力が尽きたのか凄まじい手抜きである。

 全く同じ部屋のマップが延々と続き、もしや条件を満たさないと先に進めないループダンジョンか? などと本当に奥に進んでいるのかとプレイヤーを不安にさせる。


 そして魔王の城は固定エンカウントである。

 同じような部屋の同じ位置で必ずモンスターと戦闘になるようになっている。

 そのどれもがボス級の強さの上に、しかも倒しても経験値も何も得られないという、最後の最後で心を折りに来る設計。

 

 だが敵の配置場所は次に進む階段の真ん前なので、少し回り込むように移動すればなんなくかわせてしまう。

 いかに早く固定位置エンカウントだと気づけるかにかかっている。

 

 そこら辺しっかり把握している俺は、一度も戦闘をすることなく城の一番奥、魔王の間までやって来た。

 そして一人ぼっちで玉座に座っている魔王に話しかけると、


「よくぞここまできた。ひとつしつもんがある。おれさまの、てしたになりたくはないか? せかいのはんぶんをくれてやろう」


 初見の時、俺は愕然とした。

 最後の最後でこの曖昧な質問に、

 

 はい

 いいえ


 で答えさせるというとんでもない罠が仕込まれていることに。


 はい→なりたくはない?

 いいえ→なりたくはない、のではない? つまりなりたい?


 ……と、考えれば考えるほどドツボにはまっていく。

 一体なぜここに来て、こんな言葉遊びのような問いかけをするのか。

 開発の意図がどうあれ、とにかくここはいいえを選ばなければならない。

 はいを選ぶと、


「ふははばかめ!」


 といって即ゲームオーバーになる。

 ここまでやってきたプレイヤーに対して相当な仕打ちである。

 

「いまこそふっかつのとき! さあいでよ、じゃりゅうガイアドラゴンよ!」


 いいえと答えると、魔王はいきなり仲間を呼びだす。

 長々と召喚の儀式らしきものをするのだが、その間こちらは棒立ちで待っていなければならない。


「なっ、ばかな、いうことを、きかない!?」


 とかなんとか茶番が始まり、魔王が突然現れたガイアドラゴンによって殺される。

 そしてラスボスであるガイアドラゴンとのバトルになる。


 さてこのラスボス、まず言っておくととてつもない強さである。

 ただでさえ運ゲー要素が強いこのゲームに、さらにこれでもかというほどのリアルラックを要求してくる。


 とにかく攻撃が熾烈である。 

 ドラゴンのくせにガンガン魔法を使い、中でも多用する魔物専用の魔法ダークフレアは全体に確定255ダメージという威力。

 これはいくらレベルを上げようが性能の良い防具に変えようが、防ぎようのない固定ダメージ。

 

 そしてプレイヤーにトラウマを植え付ける必殺のまひブレス。 

 全体に100~ダメージ+一定確率で麻痺という鬼畜性能。麻痺すると三ターン行動不能になる。

 あらかじめ防ぐ手段はなく、まひけし、という道具とそうりょとかくせいしゃが覚えるマヒリクという魔法でのみ回復することができる。

 

 だが往々にして回復役が麻痺するという自体が起こりがちである。

 道具を使えるのは主人公だけであり、さらにハイレベルAIはマヒリクをあまり使いたがらない。

 まひブレスの使用頻度こそ少ないが、使われると半々の確率で壊滅する。二回連続で使われたらまずコントローラーを投げる。

 そもそもラスボスの最強の攻撃手段がまひブレスだとかいって状態異常を狙ってくる時点で、開発の底意地の悪さが見て取れる。


 まともにやりあえば禿げ上がること必死なこのボス。

 ならばここでこちらも最強魔法てじなの出番……かと思えば、そうは問屋がおろさない。


 眠り中はすべての行動が取れないはずなのだが、どういうわけかこのドラゴンは眠っていても攻撃してくる。

 どうやら尻尾が別キャラ扱いになっているらしく、こちらから尻尾を攻撃することはできないが向こうは自動で攻撃してくるというふざけた状態になっている。

 

 ここまでてじなゲーをしてきたプレイヤーをどん底に突き落とす仕様。

 そして終盤になるとボスの禁じ手とも言える回復魔法を使い出すのだから手に負えない。


 そんなこんなで、正面からやりあうには最低でもレベル60に各種最強武具が必要なところだが、今の俺のレベルは13。

 ならばこれこそ時間の無駄ではないか、と思われるかもしれないが、もちろん勝算はある。


 バトルが始まると、小手調べとばかりにドラゴンの尻尾がうなり、メキャっと小気味いい音がしてあそびにんが消滅する。 

 HP81に対し1148ダメージと、もはや別ゲーの敵なのではないかという程の破壊力。

 たてとアクセサリによるインチキくさい防御補正がないとこんなものである。


 立て続けにドラゴンの攻撃。

 全体魔法やブレスが来たら即全滅だったが、運良くドラゴンの行動は、力をためる、単体攻撃、単体魔法、という流れで、仲間三人が皆殺しにされただけですんだ。

 すばやさの関係で敵が四回動いてやっと動けるようになり、俺は満を持して「まほう」コマンドを選ぶ。


 選ぶのはライトフラッシュという勇者専用の魔法だ。

 絶望的なネーミングセンスのこの魔法、ドラ○エで言うニ○ラムである。

 敵を光の渦に消し去るというこの魔法、ザコにすら非常に成功確率が低く、存在ごとすぐに忘れ去られるのだが、なぜかラスボスには百パーセント効く。

 

 開発が救済措置として入れたとか抜かしているが、これも設定ミスなのではないかという疑いがある。

 なぜなら取説の魔法の説明文に、ボスには効かないぞ! としっかり書いてあったからだ。

 だがプレイヤーを完全にナメている奴らのことだから、ラスボスには効かないとは書いてない、だとか言いそうだが。


 ライトフラッシュによってドラゴンはあっけなく消滅し、ゲームクリアとなった。

 いきなり目の前がお城の中に切り替わり、王様と姫がバンザイをして喜んでいる。

 

「ああ、たかゆき さま!  

「すえながく、しあわせにな!」


 バグでイベントをすっ飛ばしたため、姫は一切出てきていないが勝手に助けたことになっている。

 どこの馬の骨ともしれない謎の男と、これから幸せに暮らすことになるらしい。

 

 なんにせよこれでゲームクリアだ。

 これで元の現実に帰れるのだろうか。いやそうじゃないと困る。


 唐突なENDの文字の後、画面が暗転して、静寂に包まれる。

 じっと何事か起こるのを待つ俺の前に、でかでかとまたも見覚えのあるタイトルロゴが表示された。


『ガイアオブドラゴン2~邪竜の逆襲~ ゲーム・スタート』



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