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 俺はエルクラウド城下町のアーリンの酒場にやってくる。

 カウンターにいる女性に話しかけると仲間を紹介してもらえるが、この女がアーリンなのかは定かではない。


 このゲームでは酒場で三人まで仲間を集めることができる。

 選べる仲間のクラスは以下の7つ。

 

 けんし

 せんし

 ぶとうか

 まほうつかい

 そうりょ

 のうみん

 あそびにん

 

 

 まずはけんしとせんし。

 どちらも魔法は一切使えず、ひたすら物理攻撃だけを繰り返す。


 けんにやたらこだわりがあるようだが、けんしとせんしは正直何が違うのかよくわからない。

 初期ステータスにわずかに差がある程度で、装備品も変わらない。

 主人公のクラスであるゆうしゃは勇者専用の魔法を覚えるが、MPが極端に低く基本殴り合うことしかできないので役割がかぶる。


 ぶとうかはけんを装備できないぶん重要ステータスであるすばやさが高い、というわけでもなく、普通に弱い。けんしせんしのただの劣化版である。

 まほうつかいの魔法は、敵同様に固定ダメージなので序盤こそ強ジョブだが、後半になると敵HPのインフレについていけなくなりゴミと化す。 

 

 のうみんは存在自体が謎の完全に罠ジョブである。初期ステータスが低く、魔法も覚えない。

 それでも頑張って育てるとなにかあるのかと思うがなにもない。

 遊び人よりも弱いというのは完全に農民を侮辱している。


 まともに攻略するのであれば、そうりょは唯一回復魔法を覚えるため必須である。

 正攻法で行くならパーティはけんしせんしそうりょあたりが無難であるが、そもそも正面から攻略してクリアできる保証はない。 

 

 このゲーム、キャラメイクを売りにしているが、自由にパラメータを振ることができるのはなんと主人公のみという仕様。

 仲間のステータスは完全にランダムで上がるため、同じクラスでも強さはほぼ運で決まる。


 そこでいわゆるこのゲームをわかっている人間が選ぶのが、あそびにん×2とそうりょというパーティである。

 あそびにんはレベルが30になると、攻撃魔法と回復魔法の両方が使える「かくせいしゃ」になることができる。

 だが俺があそびにんを選んだのはそんな理由ではない。というかかくせいしゃよりあそびにんのほうがはるかに強い。

 厳密にはあそびにんが覚える「てじな」という魔法が反則的に強い。

 

 てじなは使用すると100パーセント敵を眠らせることができる。なぜ手品をして敵が眠るのかは謎だ。

 開発の奴がリアルでよほどつまらない手品を見せられたのか知らないが、これが非常に強力である。


 眠りは行動ターンが回ってくると一定確率で目が覚めるという設定だが、運が悪ければ延々と眠り続ける。

 そしてなぜかボスにも余裕で効く。ボスがガッツリ眠ってしまうのはどうかと思うが、おそらく設定ミスなのだろう。

 

 さらにてじなはレベル9で早くも習得することができ、消費MPがゼロという破格の性能である。

 あそびにんがこれを覚えた瞬間、一気にてじなゲーと化す。


 俺はあそびにん×2とそうりょを仲間に加える。

 あそびにん三体でもよかったのだが、同クラスで仲間にできるのは男女一人ずつというここでも自由度を下げる謎の縛りがある。


 ぞろぞろとやってきた仲間は、あそびにんのくせに妙に深刻な表情をしていて、そして全くの無言で俺の後をついてくる。

 何の見返りも要求してこないため実際かなり不気味である。


 ちなみに仲間はその時の主人公のレベルで加入する。

 仲間が増えると経験値が分配になり、一人あたりの取得量が減るというクソ仕様である。

 なので一人の時にレベル上げをしておくのがセオリーなのだ。

 

 さて無事仲間を加えた俺は、次に控えるボス戦の準備に取りかかる。

 準備と言っても、人数分のきのたてを防具屋で揃えるだけだ。

 

 あくまどうを狩りまくった俺の所持金は2301ゴールドと豊富にある。

 きのたては一つ50ゴールドという安さで防御値も4という貧弱さだが、たてを装備することにより見かけの数値以上に被ダメージが軽減されるという謎処理が行われる。

 のうみん以外の全てのクラスが装備でき、まさにしょっぱなからのうみんを置き去りにする防具である。

 

 それと細かいことではあるが、買い物は主人公しかできないので主人公が盾を受け取ってそれをいちいち仲間に渡すという無駄な動作が発生する。

 持ち物がいっぱいだと買えない。

 こういう地味なところでも着々とクソゲーとしての評価を上げるのを忘れないのがこのゲームだ。

  

 準備の終わった俺は、いよいよ城の中へと乗り込む。

 衛兵はゲームに忠実にそのへんに立っているだけなので、全裸でドラゴンキラーを携えた男が入城しても誰も咎めるものはいない。


 イベントもなにもなく、正面の通路を通り抜けてまっすぐに王の間へ。

 玉座にいる王に話しかけると、問答無用でいきなりボスバトルが始まる。


 敵は、


 おう  1ぴき 

 へいし 2ひき

   

 という編成である。

 この王様は平然と魔物専用の魔法を使ってくる。

 もちろん実は王様は魔物だった、という裏設定があるわけではない。

  

 先に王を狙おうとすると、兵士が代わりに攻撃を受ける。

 敵がかばうを使用するのは後に先にもこれが最後である。

 しかも兵士を倒したとしても、王が一定周期で仲間を呼ぶで無限に復活するため、長期戦は必至である。

 最初のボスにもかかわらず、スキのない連携を見せてくるのだ。


 かたやこちらはハイレベルAIバトルという触れ込みなので、仲間の行動をコマンドで選ぶことはできず、勝手に動く。

 なので回復役がかたくなに回復魔法を使わないというクソな行動を取ると負ける。

 

 さらに仲間の状態にかかわらず、主人公が戦闘不能になると即敗北となる。

 主人公が死んでもなぜか戦闘は継続されるが、仮に勝利したとしても教会に戻されるという無意味にプレイヤーの時間を奪う仕様。

 四人のうち一人しか任意で動かせないとなると、つまるところ運ゲーである。


 そしてこの場合、あそびにんがいかにてじなを発動するかにかかっているわけだが……その心配には及ばない。

 どういうわけかあそびにんは高確率でてじなを連発する。


 瀕死の味方がいても無視して攻撃を敢行することもあるクソAIだが、そこだけはやたら徹底している。

 だが本来てじなはボスには効かない設定だったのではと考えると、とてつもなく恐ろしい。


 初見ではまずあそびにんをパーティに入れることはしないので、このボスが倒せずに九割のプレイヤーが脱落する。

 しかし俺はてじなハメによって眠り続ける敵を、全振りにした高いすばやさとドラゴンキラーでタコ殴りにして、たやすく勝利を収めた。

 

「ま、まいったー。ゆうしゃとみとめよう」


 主人公が勇者を目指していたらしいことがここで判明する。

 最初から職業はゆうしゃだったが、今までは自称だったらしい。

 

「これをもっていくがよい」


 ここで王様からどうのけんときのたてをもらう。

 だが普通に戦った場合、王様に勝つためにはすでに装備していないと全く話にならないため、ここでもらったところで完全に無用の長物である。


「さあ、さかばでなかまをあつめるのじゃ!」 

 

 などと抜かすが、ご覧の通り別にこのイベントを終えなくても仲間にすることはできる。

 というか仲間がいないと、相当なレベル上げでもしない限り勝つのは難しい。


 さて無事勇者となったところで、ここからが本当の地獄……苦行の旅が始まる。


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