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メルシュ博士のマッドな情熱  作者: 京衛武百十
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コルシックス

結論から言うと、コルスィーベンが死亡した原因は、現時点では不明だった。いくつか推測は可能だったがいかんせんデータ不足で結論を出すまでには至らなかったのだ。


コルスィーベンの妊娠期間は、地球時間にして千四百日余り。実に四年近くCLS患者の胎児を宿していたことになる。


だがそれは、厳密には<妊娠>と呼べるものではなかったのかもしれない。コルドレイの胎児で、CLSを発症した時点で摘出されたコルネウフが、母体の助けを借りることなく生き続け、自ら食料を捕食することができるほどに完成されたCLS患者であった事実から見ても、一種の<寄生>状態であったことが窺えた。


CLS患者は、人間としては到底、生きているとは言えないが、人間ではない別種の生物と捉えるならば確かに<生きて>いた。しかも、緩やかとは言え代謝を行い、それには酸素を必要としていた。人間ほど大量に消費しないが、酸素がなければ自らを維持することができなかったのだ。故に、母体であるコルスィーベンが死亡したことで、酸素の供給を胎盤からのそれに依存していた胎児も、母の後を追うように死亡したのだと思われた。


「これは、同じ条件で再び実験する必要がありそうだな」


手術室でコルスィーベンとその胎児を徹底的に解剖していたアリスマリアRが楽し気に呟いた。コルスィーベンの死亡原因を特定するにはデータが足りないからである。


妊娠の実験に供されていた名有りのCLS患者の中から、コルシックスが妊娠継続実験に供されることが決まった。十代から二十代の若い女性だったと思しき彼女が適任だと思われたのだ。


これまでに実験によって何度も流産を経験しているが、その辺りはナノマシンによって補助すれば問題ない筈だった。


さっそく、他のCLS患者から採取された精子を使って人工授精させられ、コルスィーベンの実験によって得られたデータを活かし、妊娠の継続が図られた。経過は順調であり、その世話と観察は、引き続きレオノーラ・アインスとエレオノーラが行うことになった。


「コルスィーベン……」


ただの実験動物でしかないCLS患者に特別な感情を抱くのは、ずれていることなのかもしれない。しかし、生身の肉体を得、肉体側からのフィードバックを得たレオノーラ・アインスにとっては、コルスィーベンのことは確かに家族のような存在だった。それを喪い、気持ちを切り替える暇も与えられずに次の実験としてコルシックスの世話を任されてしまったことに、彼女は少なくない違和感を感じてしまっていた。


それが怒りなのか悲しみなのか、彼女にはまだ分からない。ただひどく胸が締め付けられるような感覚があるのだけは、間違いなかったのだった。



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