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メルシュ博士のマッドな情熱  作者: 京衛武百十
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実験の失敗

ケインのメルシュ博士への感情は、実は今後の火種となる可能性を含んだものであった。しかしそれを、シェーラは自身も気付かないうちに抑えたのである。


ケインは思った。ようやく涙を止めることができて恥ずかしそうに俯くシェーラを見ながら。


『博士が何を考えてるかなんて俺には関係ない。俺は、こいつを泣かせたくないだけだ』


人間達の反逆を楽しみにしていたメルシュ博士にとっては残念な結果ではあるが、こうして最初の危機は、誰にも知られることなく回避されたのだった。


そんな様子を、スクールで教師役をしていたメイトギアが静かに見詰めていた。距離は離れていたが、音声もしっかり記録されていた。監視と言えば語弊があるかもしれないが、スクールに通う子供達の動向や成長ぶりを記録するのも彼女達の役目だった。それらはすべてメルシュ博士の下に集められ、実験のデータとして集積された。


メルシュ博士の研究は、本当に多岐にわたるものであった。機械的な技術や医学的な技術だけでなく、ロボットや人間の行動理念や心理といったものも研究の対象だった。だから先般のメイトギアによる反乱も、博士にとっては実験の一部でしかなかったのである。<人間にただ服従するだけのロボット>という頸木から解き放たれたロボットがどういう行動に出るかということに博士は興味を持ってしまったのだ。そして今度は、人間による反乱を期待していたのだ。


なのに、それは芽吹く前に一人の少女によって摘まれてしまった。


「博士。ケインの反社会性の指数が一気に低下しました。これでは反社会的な行動を起こす確率が極めて低くなってしまいます。いかがしますか?」


フィリス・フォーマリティの執務室の隣にある控室で、アリスマリアHが、リリアミリア(リリアJS605m)からそのような報告を受けていた。以前、雑務を行わせる為にアリスマリアの閃き号から下ろした彼女に、フィリス・フォーマリティの秘書の一人としてイニティウムタウンの住人達の管理を任せていたのである。そしてそれは、メルシュ博士による実験の管理でもあった。


しかし、実験の失敗を報告するかのような彼女の言葉に、メルシュ博士は意外な程に落ち着いていて、残念がる素振りさえ見せなかった。


博士は言う。


「そうか。それは残念だが、まあ別に構わんさ。失敗するなら失敗するという結果が出ることが重要なのだ。何もかもが上手くいくのであれば、実験などする必要がない。失敗することも含めて貴重なデータなのだ。


人間による反乱は遠のいてしまったかもしれないが、なに、私は別に急いではいないよ」


そう応えたメルシュ博士の口元には、その真意を計りかねる笑みが浮かんでいたのだった。



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