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メルシュ博士のマッドな情熱  作者: 京衛武百十
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ケインの過去

<スクール>におけるサーシャは、ある種の象徴的な存在だった。


当然か。彼女はこの学校はおろかイニティウムタウン全体でもたった二人しかいない純粋な人間の一人なのだから。


その意味で言えばケインもその筈なのだが、赤ん坊の頃からメイトギアに育てられたことで非常に穏やかでしかも理知的な彼女に比べ、十年以上にわたってほぼ一人で生きてきて、しかもようやく保護されたと思えばそれは違法改造された殺人ロボットであったという彼は、やはり人間として荒削りで粗野な部分が多かった。


とは言え、粗暴かと言えばそういう訳でもない。自分よりずっと小さなクラスメイト達に乱暴に接する訳ではなく、むしろ<優しいお兄ちゃん>と慕われてさえいただろう。


それは、彼が一人きりで過ごした十年余りの時間も影響しているかも知れない。何しろ彼はその間、同居者の身を案じ続けるという毎日を過ごし、自分と自分以外の存在を同時に守ろうという考え方もしてきたのだから。


実は彼は、厳密には<一人>ではなかった。人間ではなかったが彼と共に暮らしていた者がいたのである。それは、彼の<姉>だった。


姉なのに人間ではない? 


その疑問に答えるのは簡単だ。彼の姉はCLS患者だったのだ。彼はCLSに感染しても発症はしなかったが、姉はそうではなかった。自宅の地下室でCLSを発症した姉は階段を上ることが出来ず、かつ地下室に入り込んだ虫を食料にしてCLS患者として存在し続けたのだった。


ケインはそんな姉を恐ろしいと感じながらも同時にその身を案じ、階段の上から食料を投げ入れるという形ではあったが世話をしてきたのである。残念ながらその姉は彼の家を訪れたエレクシアYM10に

<処置>されてしまったものの、ケインも時間を経るごとにそれが仕方のないことだったと理解するようになり、数ヶ月もする頃には、表面上は反発しながらもエレクシアYM10に依存するようにもなっていた。


だから、本質的には他者を思いやる気持ちも持つ優しい少年なのだが、いかんせん、丁寧な言葉遣いといったものや社交辞令の類を何一つ学んでおらず、会話さえ、エレクシアYM10と一緒に暮らすようになるまでは発音やイントネーションもあやふやという有様だった。


そんな彼にエレクシアYM10は、通りがかった本屋の店舗跡などで手に入れた教材などを与え、ある程度の教育を施そうとしていたようだった。正直なところ、それでは彼の学習の遅れに対しては焼け石に水といった程度のものでしかなかっただろうが、少なくとも会話には困らない程度にはなっていたのだった。



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