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メルシュ博士のマッドな情熱  作者: 京衛武百十
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矯正教育

それだけを聞くと、『たかがVRで』と思うかもしれない。


しかし先にも言ったように、高度シミュレーターによるその精度は、この仕組みを確実に理解している人間でなければ現実との区別をつけることが不可能と言われるほどのものであり、そこでの<死>の苦しみや痛みや悲しみは現実のそれと何ら変わるものがなかったのだ。そして博士は、その上で途方もない虐殺をやってのけたのである。それも幾度となく。


並の人間ではその行為に耐えられない。何しろ、連続殺人犯に己の行っている行為がどれほどのものか思い知らせる為にさえ利用され、限りなく百パーセントに近い確率で成功するほどのものなのだから。VRの中で人生を追体験させ、そしてそこでかけがえのない相手と出会わせ、その上で自分の行った行為により大切な人がどのように苦しむかを見せ付けるのだ。自分に関わりのない他人のことなどゲームのキャラクター程度にしか見ていなかった冷酷な快楽殺人犯であっても、自分の大切な人が苦しむとなればその事実に取り乱し、己が何をしたのかを思い知り自らの行為を悔いるようになる。その上で終身刑に服す。


それは刑罰ではなく受刑者に対する矯正教育の一環なのだが、残酷すぎるということで見直しの議論すら度々おこるほどのものだった。


とは言え、星歴が始まるさらに一千年も前、まだ西暦が残っていた頃に死刑制度が完全に廃止されてから三千年。それに代わる刑罰として懲役付きの終身刑などが試された上で、シミュレーション技術の向上により導入された制度なので、さすがに見直し派が大勢を占めることはなかった。これを廃止するなら死刑制度の復活をという極論まで出る始末だったからだ。


まあそれは余談なので横に置くとして、とにかくそれほどまでにリアルだということだ。その中ででもメルシュ博士は嬉々として実験の為に次々とシミュレーターの中で生きている人間達を殺していく。もちろんそれは博士がこれをシミュレーターであると分かっていてやっているというのもあるのだが、完全に現実と区別のつかない存在が、悲しみ、泣き、苦痛を訴えていれば、普通の人間はそこまで割り切れない。それが人間の心というものだ。


なのに、ここまでリアルなものでそれができてしまうという時点で博士のサイコパスぶりが十分に立証されるというものなのだ。その上でなおリアルにおいても違法な実験を繰り返す人物として危険視もされてきたし、批判する者も多かった。そしてその懸念は事実だった。何しろ本来の自分を実験の材料に使い、妊娠させ、わざと死なせたりするのである。それはつまり、我が子を実験に使って殺しているということなのだから。



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