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メルシュ博士のマッドな情熱  作者: 京衛武百十
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ライラ・アクエリアス

「よろしくお願いします…」


ライラ・アクエリアスと博士が呼んでいた少女は、淡々とした様子で挨拶し、頭を下げた。その様子は、とても十歳程度の子供のそれとは思えなかった。


無理もない。ライラは、人工子宮の中で通常の十数倍の速さで急速育成されたクローンである。疑似的な人格がインストールされているだけの、生まれたての赤ん坊のようなものだ。レンカ・フォーマリティが承諾したのを確認したメルシュ博士は、『じゃあ、任せたよ』と軽く言い残し、さっさと立ち去ってしまった。


レンカ・フォーマリティは途方に暮れていた。これからどうすればいいのかがまるで分らない。子供の面倒の見方は分かっていた筈なのに、今では自分がどうやってニオラやアデーレと接してきたのかが思い出せなかった。


単に、メイトギアのレンカCS30Tだった頃なら、きっとすぐに切り替えられていたのだろう。ロボットとは本来そういうものだ。亡くなった子供のことは忘れなくても、今、目の前にいる子供のことを一番に考えられるようになる。そういう風に作られているのだ。


それなのに、レンカ・フォーマリティとしての彼女には、それができなかった。ニオラとアデーレのことを思い出すと胸が締め付けられるように苦しくて、二人のことしか考えられなくなってしまう。しかもそんな自分が情けなくて苦しくて、勝手に涙が溢れてきてしまっていた。


「…ぐ、ぐぅ……っふ…。う…うぅ……」


声にならない声が漏れて、涙を止めることもできない。


だが、その時、


「泣けば、いいと思います……悲しい時に泣くのが人間です。今のあなたは人間なのだと思います……」


己の中に湧き上がるそれをどうしていいか分からずに混乱するレンカ・フォーマリティに対し、幼い子供の姿をしたライラ・アクエリアスが表情を変えることなく静かに語り掛けていた。その姿は、メイトギアとメルシュ博士の人格、と言うか思考パターンをミックスしたものを、OSの如く基本の人格としてインストールされたクローンそのものの姿だった。経験がない故に機械のように理路整然とした思考しか、今のライラにはない。


レンカは思い出していた。アデーレも自分のところに来たばかりの頃はそうだった筈だ。無表情で無感動で、ロボットよりもロボットっぽい子供だった。それが自分と一緒に暮らすうちに互いに影響を及ぼし合い、相手の顔を見ることで表情を学び、感情を培ってきた。嬉しい時には嬉しい顔をして、悲しい時には悲しい顔をしてみせた。そうやってあの子は<育って>いったのだ。


それを、レンカは思い出していたのだった。



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