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メルシュ博士のマッドな情熱  作者: 京衛武百十
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お母さん

しかし、サーシャの容体は思わしくなかった。初めのうちこそ、


「あ…あぁ、うぁあぁぁ…」


と、悪夢でも見ているのかうなされたりもしていたが、やがてそれすらなくなり、昏睡状態に陥っていった。


『サーシャ、サーシャ……』


コゼット2CV(ドゥセボー)デイジーは祈った。ロボットの自分が何に祈ればいいのか分からないがとにかく祈った。自分はどうなってもいい。でもこの子だけは助けてくださいと。


命を持たず自らが破壊されることを惜しんだりさえしないロボットが対価になるかどうかはともかく、それは彼女の正直な気持ちだったのだろう。


だがその時、


「博士、ワクチンをお持ちしました」


と、リリアテレサが診療所に現れた。


「よし、手分けして患者達に投与だ」


この時ばかりはメルシュ博士も一緒になってワクチン接種を行った。患者に付き添っていたメイトギア達にもノーラAE86Jがワクチン接種の為に必要なデータを配信して、一斉に接種を行う。もちろんサーシャには、コゼット2CVデイジーがワクチン接種を行っていた。


それが功を奏したのだろう。サーシャの容体はみるみる安定し、やがて危機を脱したのだった。


その頃、イニティウムタウンのメイトギア全体にもアップデートが行われ、ワクチン接種を行えるようにした。メイトギア達は診療所を訪れ随時補充されるワクチンを受け取り、我が子や預かっているクローン達に予防接種を行っていく。


結果、今回のパンデミック(いや、パンデミックと言うにはさすがに規模は小さいかも知れないが)は、三人のクローンと四人の乳幼児の犠牲者を出しながらも沈静化したのであった。


サーシャも、一時的とはいえ昏睡状態にまで陥った為に回復には一週間ほどの時間を要したが、経過そのものは順調だった。


「サーシャ。本当に良かった。あなたにもしものことがあったらと思うと、私は……」


メイトギアに涙を流す機能はないが、この時のコゼット2CVデイジーの表情は、間違いなく安堵の涙を流している母親のものだっただろう。


そんなコゼット2CVデイジーに、サーシャはベッドに横になったまま微笑みながら話し掛けた。


「お母さん……私、夢を見たの……昔、お母さんが目を覚まさなくなった時の夢……あの時は、お母さんがいなくなってしまうって思ったら、本当に怖くて怖くて……


でも私が目を覚ました時に、お母さんがいてくれて安心した……


お母さん、大好き……」


そう言ったサーシャの顔は、とても幼く見えた。母親に甘えたい盛りの小さな子供の顔であった。



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