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メルシュ博士のマッドな情熱  作者: 京衛武百十
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崩れる日常

放課後。家に帰る為に並んで歩くサーシャとゴードンを羨ましそうに見詰める姿も散見されたが、お似合いのカップルと目されていた二人のことは、皆、祝福していたのだった。


もっと人数が増え、価値観が多様化していけばそれに伴う軋轢やすれ違いなども生じ始めるかもしれないが、メイトギアとメイトギア人間を親代わりに育った彼女達は皆穏やかで、大きな衝突を起こすような差異がなかったのである。


だがこの時、サーシャにとってはあまりに思いがけないことが起こった。突然、自分とゴードンの前に立ち塞がる三つの人影があった。それがメイトギアであることはすぐに分かった。しかし、その手には自動小銃が握られていたのである。


「サーシャ。私達はあなたを傷付けることはしません。私達はあなたを保護しに来たのです。指示に従ってください」


真ん中にいたメイトギアが静かにそう話しかけ、サーシャの体に手を回そうとした。しかし。


「何をするんだ! 彼女に触るな!」


そう声を上げて、ゴードンがサーシャを庇うように割って入る。


「あなたには用はありません。無駄な抵抗はおやめなさい」


冷静に声を掛けながら、別のメイトギアがゴードンを押し退けようとした。その腕に掴まり、彼は渾身の力で抵抗を試みた。その瞬間、「パン!」と乾いた音が校庭に響いた。


「きゃーっ!!」


異変に気付いた女子生徒が悲鳴を上げる。


「え…あ…?」


腹に熱した鉄の棒でも押し付けられたかのような熱さと痛みを感じながら、ゴードンの体がよろめいた。腹を押さえた手が真っ赤に染まっていた。血だ。彼が掴みかかったことで、自動小銃が暴発したのだ。


『事故発生。ただちにプランFに移行。サーシャを保護し速やかに撤退する』


真ん中に立ってサーシャに話し掛けたメイトギアが彼女の体を抱き上げながら、そう発信した。


『了解。チームD(デルタ)がフォローに向かう』


返信を確認し、サーシャを抱きかかえたままメイトギアは校門を駆け抜けた。そこにワンボックスカーが停車し、素早く乗り込む。


「ゴードン! ゴードン! いやあぁあぁぁっ!!」


泣き叫びながら、自分を抱えている手を振りほどこうとサーシャは暴れた。けれどメイトギア相手ではそれはまったく功を奏すことはなかった。どんなに力を入れてもびくともしない。彼女はただ、涙をこぼしながらゴードンの名を呼び続けるしかできなかった。


そんなサーシャに向かって、メイトギアはあくまで冷静に声を掛ける。


「サーシャ。あなたは今、メルシュ博士の洗脳を受けて正常な判断ができなくなっています。私達はそんなあなたを救いに来たんです」


しかし、サーシャの耳にはその言葉は届いていなかったのだった。



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