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メルシュ博士のマッドな情熱  作者: 京衛武百十
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新しい<何か>

「ふむ。脳が失われたことで心臓は既に機能していないが、心筋そのものは大部分が生きているのか。これなら、万能細胞で一部を補ってやった上にナノマシンをペースメーカーにすれば心臓の機能を回復させられるかも知れん」


CLSを発症し死んだ本来の自分=コラリスが身に着けている測定器からのデータを基に、メルシュ博士はそう推測を立てた。となるともうそれを確認せずにいられなくなるのが彼女の性分である。


「よし、さっそく試してみよう」


そう言って研究棟に入り、自分の細胞をベースに作った万能細胞を入れた溶液に、それを心臓にまで運搬する役目をプログラムしたナノマシン、及び脳からの信号がないことを補う為のペースメーカーとしての役割をプログラムしたナノマシンを投入、注射器に移した。


「リリアテレサくん、コラリスを押さえておいてくれたまえ」


そう命じられて、メルシュ博士が研究棟に入ってしまって姿が見えなくなった為にコラリスに噛り付かれていたリリアテレサは、冷めた表情をしながらも指示通りにコラリスの手を払いのけ素早く背後にまわり抱きしめるようにして拘束した。体は小さいが、体重百キロの人間でさえ楽々と持ち上げる力を持った彼女にはたやすいことだった。


「よしよし、そのままそのまま」


とニヤリと笑みを浮かべながら、メルシュ博士はコラリスの鎖骨近くから心臓の方へと向けて注射器を突き立て、一気に溶液を注入した。非常に雑だが、体内に入りさえすればあとはナノマシンが勝手によろしくやってくれるのだ。すると、十分ほどで土気色だったコラリスの肌がみるみると生気を取り戻し、生きた人間と変わらない肌の色になったのだった。それと同時にもぞもぞと緩慢に体を揺するだけだった抵抗が激しさを増し、力強さも増していた。


「おお、どうやら成功だな。CLS患者は基本的に全身の筋肉を細かく動かすことで体液を循環させていた為に十分に酸素や栄養が行き渡らず非常に緩慢な動きしかできない上に体の一部が壊死して腐敗したりしているようだが、これなら新鮮な状態で肉体の保存が可能だな」


などとメルシュ博士は軽く言っているが、はっきり言って無茶苦茶である。これでは本当に外見上は生きた人間と変わらなくなってしまったのだから。しかも十分な酸素と栄養が行き渡るようになったことで、動きまで生きた人間と変わらなくなってしまったのだ。


しかし見た目は人間でも、理性も知性も何もなく、あるのはただ食欲だけという、歪な、もはやCLS患者ですらない新しい<何か>がここに誕生してしまったのである。


「いいんですか?、博士」


リリアテレサが呆れたように訊いてきたが、まさしくその通りと言えたのだった。



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