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メルシュ博士のマッドな情熱  作者: 京衛武百十
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コゼット2CVとサーシャ

「そうか…邪魔をした」


アリスマリアHに対しては冷たい目を向けたコゼット2CV(ドゥセボー)だったが、サーシャを見る時の瞳はどこか優しそうにも見えた。実際、少女のことは労わっていたのだ。


しかも、メルシュ博士によって<グロリアス>と名付けられたグローネンKS6も、サーシャに対しては体を摺り寄せる仕草を見せた。


「ネコさん?」


自分に懐くような姿を見せるグロリアスの頭を撫でながら、少女は問い掛けるようにしてそう言った。


十歳くらいということは、この少女はCLSのパンデミックが起こったちょうどその頃に生まれたということなのだろう。恐らくメイトギアによって保護されて育てられてきたのであろうが、よく生き延びたものである。


グロリアスに対して名残惜しそうな顔も見せた少女も、コゼット2CVに促されると素直にそれに従った。凄惨な環境の中で生きてきた筈なのに、サーシャはとても柔和な気性に育っているようだった。これもメイトギアに育てられてきた影響だと思われる。メイトギアのみに育てられた人間は、サーシャのようにとても穏やかな気性に育つことが非常に多い。人間の前では柔和で穏やかな振る舞いをするメイトギアの姿を見習って育つからだろう。その一方で、他人を疑うことを知らない、非常にお人よしな純朴すぎる人間に育つ傾向もあったのだが。


かつてはメイトギアに育児を任せすぎると逆に人間性の欠落した反社会的な気性に育つこともあったと言われていたものの、児童心理などに対する研究が進み、より人間に近い繊細な制御を行うことでその欠点はほぼ克服されていたのだった。かと言って、メイトギアに頼り切ってしまうと、今度は、悪意を持った人間に対しても無制限に心を許してしまう底抜けのお人よしに育ってしまうことが多いのが悩みの種だった。ほどほどに育つ為には、やはり人間の親による関与も大切だとされている。


とは言え、もはやこのリヴィアターネには、悪意を持って少女に近付くような人間自体がほぼ存在しなかったのだが。


メルシュ博士の研究施設の前に乗りつけた電動のコミューターに乗り、コゼット2CVとサーシャは去っていった。これからもあのロボットと少女は、この死の星で生きていくことになるということだ。


だがそれはもう、メルシュ博士でもどうすることもできないことだった。ただ、少女の生活環境をより安全に充実したものにする程度のことなら可能だろう。


「ふむ…ちょっとした実験をするのも一興か……」


研究室の窓から、走り去っていくコミューターを見送りつつ、アリスマリアHの口元に笑みが浮かんでいたのであった。



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