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メルシュ博士のマッドな情熱  作者: 京衛武百十
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その女、マッドにつき

「ふむふむ。発症の際には思ったほど苦痛はないもんだね。やはり神経系が真っ先にやられて感覚が麻痺するからかな。こういうのはやはり自ら経験してみないと分からないものだねえ」


自家用宇宙船<アリスマリアの閃き号>の船内で、彼女は感心したようにそう頷いた。黒髪の長髪で眼鏡、整った顔立ちとなかなかに美しいスタイルの美女だった。


…全裸だが。


「…博士。服は着ないんですか?」


そんな彼女に対して軽蔑するような冷めた視線を送る、いわゆるメイドと言えば多くの人間が真っ先に思い浮かべそうな格好をした、年の頃は十二~十三歳といった感じの少女が、やはり軽蔑するかのような投げ捨てる感じの言葉を掛けた。もっとも、少女もそんな言葉が聞き入れてもらえないのは分かっていた。分かっていたが言わずにはいられなかったのだ。


「リリアテレサくん。この体はロボットだよ? 何故ロボットが服を着なければならない? 君だって服なんか着てないじゃないか」


全裸の美女は肩をすくめながら、『何を言ってるんだ?』と言いたげなジェスチャーと共にそう言った。


そう、彼女はロボットだった。厳密には、その体はロボットのそれだった。そして少女は本当にロボットだった。


美女の名前はアリスマリア・ハーガン・メルシュ。惑星リヴィアターネを封鎖していたロボット艦隊の警告を無視して進入し、地上に降りて偽生症(Counterfeit Life Syndrome)=CLSに感染、死亡したアリスマリア・ハーガン・メルシュ博士その人だった。厳密には、機械の体に自らの意識を移した機械人間とでもいうべき存在だが。


そして、そんな彼女に冷たい視線を向ける少女は、リリアJS605sという名の、生活支援用ロボット<メイトギア>であった。メイトギアは、人間と生活を共にしつつ生活全般を支援する為に、非常に高度なAIと、日常のあらゆる作業、動作を完璧に行える高性能かつ高機能な体を有し、人間そっくりの容姿とメイドを模した意匠を施されたボディを持つ、人間の仲間<メイト>としての役目を与えられたロボットだった。


アリスマリアが『君だって服なんか着てないじゃないか』と言ったのは、確かに少女はロボットであり、メイド服に見えるそれは単なる外装パーツであってその下に人間と同じような体がある訳じゃないので、彼女の言うとおり<服>は着てなかったのだ。あくまで<服のようにも見えるデザイン>というだけである。


そのリリアJS605sに対し、<リリアテレサ>という名前を付けて、自分のプライベートすべての面倒を見てもらっていたということであった。


「ご自身の体まで研究の為の材料に使うとか、あなたは馬鹿ですか? 博士」


容赦のないリリアテレサの罵倒も、アリスマリアに対してはそよ風にもならなかった。スクリーンに映し出されたリヴィアターネと、CLSに感染して死亡した自身の人間としての体に装着された観測・測定用の器材から送られてくるデータを、全裸のまま仁王立ちで満足気に見詰めていただけだった。


そして彼女は言ったのだった。


「では、私達も降下しようか。リリアテレサくん」



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