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JK戦記(前編)  作者: 石屋さん
誕生! 国王軍の白い悪魔
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みんなの秘密


 帰路の途中、帝国の黒騎兵に奇襲されたが、その後の追撃はなく、部隊はアルマサン城塞都市へと無事戻った。アルマサン城塞都市は、背後は断崖絶壁で、前面には三つの出城を持つ鉄壁の城塞都市であり、その周辺は肥沃な耕作地帯に囲まれている豊かな都市でもある。



「す、すごーい、大きな壁に囲まれた街だ……」

 結衣は、その巨大な壁に驚愕した。

「ユイ、お前はアルマサン城塞都市は初めてか?」

 隣のテイス将軍が、不思議そうに聞いて来た。


「は、はい……、こんな大きな壁を見るのは初めてです。」

「城壁自体は、普通じゃがな、ここの特徴は、出城が三つあることなんじゃ、ユイお前は、いったいどこから来たんじゃ?」

「ど、どこって……なんと言うか……そのー」

 結衣は何と答えるのがいいのかわからず、言葉が出ない。


「……ん、まぁいいわ、人には言えん事もあるじゃろ、気にするな」

 と、テイス将軍は結衣の肩をポンポンと叩いて先頭へと向かった。そして、その様子をサナ、リナ、ヨナの三姉妹が複雑な表情で見ていた。



 城門橋を渡り頑丈そうな門をくぐると、そこは……


 陽の光で、都市全体が宝石のように青くツヤツヤと光っており、アリのように人がうごめく街路は活気に満ちていた。


「うわー……綺麗な街、ヨーロッパの古い街みたいだ……」

 結衣は、あまりに嬉しくて立ちつくしてしまう。


 どん!


「ユイ百人長、ぼーっと、突っ立ってたら邪魔ですよ。」

 ぶつかったヨナに結衣は注意されてしまった。

「ごめん。ごめん。つい見とれちゃって……」


「もうーユイ百人長は、どんだけ田舎出身なんですか、ここで感動してたら王都行ったら、失神しちゃうんじゃないですか?」

 ヨナが馬鹿にするように言うが、結衣は気にならなかった。


 アルマサン城塞都市には立派な兵舎があり、百人長となった結衣には、執務室付の広々とした部屋が用意された。

 結衣の部下は、七人の十人長となるのだが、警護や身の回り世話を行う直轄兵を五人まで付けて良いとされ、結衣は、サナ、リナ、ヨナの三姉妹を直轄兵とした。

 百人長の直轄兵の待遇は、十人長とほぼ同じである。


 コンコン

「どうぞ~空いてますよ」

「失礼しまーす」と、三姉妹が結衣の執務室へ入ってきた。


 長女のサナがかしこまって

「ユイ百人長、三人揃って直轄兵にして頂きありがとうございます。」

「こちらこそよろしくお願いします。」

 と、三姉妹と結衣はお互いに頭を下げた。


 そして、長女のサナが

「今まで、秘密にしていた訳ではありませんが、私達三姉妹について、お話ししておきたいことがあります。」

 と、三姉妹の境遇を結衣に話し始めた。



――三姉妹は帝国内の代々女王が統治する小さな国、アルバド国の王族であった。

 ある日、女王である母が毒殺され、権力を掴んだ宰相サルダーによって、国費を王族の贅沢で浪費したとして、三姉妹は奴隷として売り飛ばされた。

 奴隷商人に馬車で運ばれている途中に、元従者達により救出され国境を接する王国に逃げ延び、食べて行く為に王国軍へと入った。

 と、結衣に丁寧に説明した。


「そんなことが……大変だったんですね。帝国本国へ助けを求めたり考えなかったの?」

「帝国は、小さな国の集まりですから、税金と兵士を納めさせすれば、各国の内情には関与しないんです。」

「そうですか……」


 結衣は自分も信頼される為に、本当のことを言わなければと思ったが……

「私も話します。」


 三姉妹は、その為に自分達の話をしたんですよ。と顔に書いてあるかのように耳を傾けた。


「私、記憶がないの……気がついたら森の中で、このフクロウと一緒だったの、そして最初にたどり着いた村に、反乱軍の兵士がいて……国王軍に入ったの」


「記憶がないって……何かの魔法でもかけられたのかしら?」

 ヨナが結衣を覗き込むように目を見ながら話した。


「解らないわ、もうひとつ話したいことがあるけど、これは他の人に内緒にしてくれる?」

 三姉妹は、揃ってうなずいた。


「私ね、このフクロウと話が出来るの、戦場ではいつも助けられているの、信じられる?」


 三姉妹は、お互い顔を見ながら、思い思いに口にした。

「そう言われると、思い当たるふしはあるよ。」

「独り言多いし……」

「真っ先に罠に気が付いたり……」

「炎からの脱出方向を迷わず進んだり……」


「そう全部このフクロウが教えてくれたの」

 結衣がコンサを撫でながら言うと

「うん、信じますよ。それに誰にも言いません。」

「ありがとう」

 四人は硬く握手を交わした。


 結衣が申し訳なさそうに

「お願いがあるの……私、字が読めないの……教えてくれる?」

「はい、いいですよ。」


「それと、この世界のことを何でもいいから教えて欲しい」

「わかりました」


「早速、ひとつ教えて」

「はい、どうぞ」


「王国、帝国、教国ってみんな言うけど、普通なになに国とか言うじゃない?」

「ああ、この大陸にある大きな三つの国は、それぞれデウス王国、デウス帝国、デウス教国なんですよ。だからみんな、王国、帝国、教国しか言わないの」


「そうなんだ、同じ名前なんだ……」

「うん、この大陸を最初に統一した人の名前なの、帝国はその国体を続けている国、王国はその直系者が代々納める国、教国は統一者を神格化し宗教にした国なのよ」


「へー、元は一緒って奴なのね……」

「それが逆に、憎しみ合うことになってるの」

「……よくある話しね。」


 ヨナが急に

「ユイ百人長、私達からもお願いしていいですか?」

「はい」

「その武器」

「薙刀のこと?」

「うん、薙刀を私達にも教えて欲しいの、私達も薙刀を振り回したいの」

「いいわ、これから毎日特訓してあげる。」

「その前に、同じ物を鍛冶屋で作って貰わないとね!」


 リナがもぞもぞしながら

「そ、それより、みんなお腹空いてないの?」

「「「 お腹空いたー 」」」


「ユイ百人長は、お酒飲みます?」

「飲みますよ」

「じゃ酒場へ行こう!」



――エールの入ったジョッキが四つ、ドカッと置かれた。

「「「 かんぱーい 」」」


 結衣はエールを口に流し込むように一気に飲み干し

「ぷっふぁ~ ああ、うまーい」

 と、乱暴にジョッキをテーブルに置いた。


「ユ、ユイ百人長……、意外です……豪快ですね……」

「えっ?」


 三姉妹は、上品にジョッキをあまり傾けず両手で口に近づけ、エールを吸うように飲んでいた。


「やっぱり、育ちがいいのね……」

 と、結衣はぽつりと呟いた。


 料理がテーブルにどんどんと運ばれて来た。

 芋、人参、大根の根菜と鶏肉や豆類が中心の料理だ。


 三姉妹がアルマサン城塞都市で、安くて美味しい酒場だと結衣を連れてきた店は、内装は無骨な感じで、どっしりとした厚い木製テーブルとベンチタイプの椅子で、大量の酒瓶が壁に飾られている。


 前のステージでは、吟遊詩人が歌い、周りのテーブル席は、王国軍の兵士が大声で武勇伝を語っていた。


 少し酔ってきたリナが、肩肘を付きながら

「女四人で飲むのはいいんだけど、少しくらいちょっかい掛けてきてもいいと思わない?」

「無理無理、王国軍の白い悪魔がいますから、よっぽど腕に自信がある男じゃないと声を掛けれないでしょう」

 と、一瞬静まった店内にサナの声が響いてしまった。



「はっははははー、おもしれー、一人で燃える森を切り開き、待ち構えていた槍兵百を倒し、逃げ惑う弓兵三百を一人残らず叩き斬った。帝国の黒騎兵三騎を一振りで、馬ごと斬ってしまったって?」


 結衣の武勇伝は、尾ひれが付いて大変なことになっているようだ。


 大男が大声を出しながら、結衣の傍まで近寄って来た。大男は結衣の腕を掴み


「こんな細い腕で、そんな事が出来るのか? 俺は見ていたが、お前は帝国の黒騎兵を一兵も斬ってないよな?」


 結衣は大男の臭い息に不快な思いもしながらも

「そうですよ。私は帝国の黒騎兵を斬ってません。馬だけを斬りました。皆が勝手に膨らませている噂ですよ」


「あっははははー、だよな。じゃなんで、たった一週間で百人長にまでなったんだ? どうせテイス将軍の立たねーち○こでもしゃぶったんだろ?」


 すると、サナが立ち上がり剣を抜いて

「酒場とは言え、一兵卒が百人長に対して言っていい言葉ではないぞ!」


「おー怖えー怖えー、俺は噂を教えてやっただけだ。それに白い悪魔さんの身のこなしは、たいしたもんだったよ。」


 サナは顔をこわばさせたまま

「それでは、余計なことを言わんでもいいであろう。」


 大男は薄笑いを浮かべながら

「戦場じゃ、ぴょんぴょん飛び回っていても、大した役にたたねーんだよ。最後は力だ」

 と、太い腕をばんばん叩きながら結衣に臭い息をかける。


 結衣は表情を変える事無く

「そうですね。わかりましたので、あっちに行って貰える? 息が臭くて料理が不味くなるわ」

 と、言うと、周囲から笑い声が上がる。


 大男が結衣の胸ぐらを掴み

「馬鹿にしてんのか? てめぇー」

 結衣が大男の腕を振り払い

「どっちの力が強いが、腕相撲でもします?」

 と、言うと周囲は更に笑い声が響き、大男が

「本気で言ってるのか? 馬鹿じゃねーのかこの女」

「本気ですよ。カヨワイ女に負けるのが恥ずかしいの?」

「わかった。ただしお前が負けたら、その奇妙な服を脱いで貰うぞ。あーはっはははー!」



――二人は、酒場の真ん中のテーブルに向かい合い手を合わせた。


 三姉妹が心配そうな顔をしていると、結衣が

「大丈夫よ。たぶん余裕で勝つわ」

 と、笑顔を浮かべた。

「なめてんじゃねーぞ」

 と言う大男は、手から伝わってくる結衣の力に、余裕の表情が消えていた。


 審判のような男が

「二人とも準備はいいか? レディーーーゴー」


 大男が全体重をかけて、結衣の腕を伏せようとするが、ぴくりとも動かない。

「これが精一杯なの?」

 大男が顔を真っ赤にさせて、一度体を引き反動を付けて結衣の腕を倒そうとすると


「痛てぇー! 痛てぇー! 痛てぇー!」

 大男の肩が脱臼したようで、腕が普通じゃない方向に曲がり、酒場の床をのたうち回った。


 結衣は涼しい顔で

「引き分けってことでいいかな?」


 この逸話も国王軍の白い悪魔伝説として、尾ひれが付いて噂は広まっていった。




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