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JK戦記(前編)  作者: 石屋さん
誕生! 国王軍の白い悪魔
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国王軍の白い悪魔


 夕暮の風が草原を渡りそして草を揺らせる間に、夕闇がゆっくりと淡い夜に変わり、幾つかの星がまたたき始めた頃、六千の騎兵隊が万人長を先頭に東の森へ消えて行った。本隊も暗闇のなか大楯を持った重装兵を先頭に、四万の兵がゆっくりと、街道を南下し始めた。



「思ったより、ゆっくりの行軍ね。」

「ユイ十人長、夜間に六千の騎兵で全速力で走ったら、それだけで死人が出ちゃいますよ」

 すっかり結衣に懐いたヨナが、これが当たり前だと、と言う感じで話した。


「でも、三人共騎乗が上手いよね?」

「私達は、猟師の家の生まれなの、だから、子供の頃から馬に乗って狩りをしてたわ」

「じゃどうして兵隊に?」

 

 ヨナの表情が曇り

「……いまは、……言いたくない。そのうち話すね」


 結衣も罰が悪そうに、謝った。

「変な事聞いてごめんね。気が向いた時でいいよ。」

「うん。大丈夫だよ」



 六時間ほど馬を走らせると、深い森を抜け、広々とした枯れた笹原に出ると、遠くの谷に灯りが見えた。

「あそこが反乱軍の夜営地点だね。もう一息だ。」


 すると、騎兵隊を囲うように、笹原から炎が上がり、雨のように矢が振ってきた。


「敵襲! 敵襲! 待ち伏せだー!」


 夜営を奇襲するつもりであった騎兵隊が、逆に反乱軍の待ち伏せにあい。枯れた笹原に大量に撒かれた油で、騎兵隊は炎に包まれた。


 国王軍の作戦は、内通者によって詳細に伝えられ、騎兵隊の進軍ルート上にある燃えやすい枯れた笹原に誘い込んで、油を撒き火を放ったのである。


 混乱状態に陥っていたが、万人長は冷静に周囲を観察し脱出ポイントを探り号令を出した。


「全騎、火の手が薄い左の沢へ向かって駆け降りろ!」


 万人長の号令により、火の海の中、右往左往していた騎馬隊が一斉に、左の沢へ向かった。


(罠だろうが……)

「えっ? 本当?」

(何か細工して待ち伏せておる)


「そこは駄目! 罠が仕掛けてある!」




  風↓


 弓隊弓隊

  槍隊

炎炎炎炎炎炎炎

炎      罠?

炎 騎兵隊 炎

炎     炎

炎炎炎炎炎炎炎





 結衣が絶叫するが、結衣の声には耳を傾けず、我先にと殺到していた。万人長が結衣の言葉を聞き、騎兵が向かい方向を凝視すると、何かに気付き。

「駄目だー、戻れー!」と、大声で指示を出すが……


 騎馬隊が殺到する方向に、急に黒い壁のような物が下から現れ、騎馬隊が次々に吸い込まれていった。


「網だー、網が張っている。こっちへくるなー」

 と、叫ぶ者がいたが、下りを全力で疾走していた馬は急に止まれず、土砂崩れのように折り重なり、最後に火を放たれた。


(ユイ、風上の弓隊を抜けるしか、逃げ道はない)


 結衣は呆然としている万人長のところへ行き

「万人長、風上の丘を駆け上がり、弓隊を突破するしか、ここから抜けられません。」


 直前に、いち早く罠を見破っていた女下士官の言葉を受け、万人長が決断した。

「わかった。このままでは焼け死ぬだけだ、お前の言葉にかけてみよう。お前が先頭に立って道を切り開け!」

「ありがとうございます。」


 結衣が単身風上に向かうと、三姉妹が結衣に続いた。万人長は、隊列を整え、結衣の背中を追った。


 結衣が薙刀を振り回しながら、炎を抜けると、弓隊を護衛する槍兵が串刺しにしてやろうと、一斉に槍を突き出してくる。

 結衣は、馬上からひとっ飛びし槍兵の後ろに周り込むと同時に薙刀を水平に一振りすると、刃に触れた者全員の体が真っ二つになったが、結衣の背中に弓隊から至近距離の矢が何本も放たれる。


 が、矢が一本も突き刺ささらない結衣を見て、弓兵は唖然とするが、結衣は、残った槍兵を三姉妹に任せ、弓隊へと単身で突っ込む


 薙刀を一振りするたびに、数人が倒れていくなか、弓矢が効かない結衣に為す術のない百人以上の弓隊は、弓を捨て四方八方へ散り散りになって逃げ帰ってしまった。


 この戦いのあと、尾ひれが付いて誇張され、結衣は『国王軍の白い悪魔』と反乱軍に呼ばれることになる。


「はぁ、はぁ、はぁ」

 結衣は肩を落とし息を整えていた。


「見事だ、一騎当千とはまさにこの事だな」

 いつの間にか、隣にいた万人長が馬上から結衣に声を掛ける。


「無我夢中で薙刀を振っていただけです……」

「名をなんと申す?」

「ユイです。」

「お前のおかげで命拾いした。感謝するぞ、ユイ」


「ユーイー、じゅうにんちょーう」

 ヨナがユイの馬を曳いてきた。


「ユイ十人長、戦はまだ終わってない、もうひと働きして貰うぞ! 我に続け!」

「はい!」


「負傷者と、その護衛の者はここに残れ、他の者は、本隊が下で戦っている。合流するぞ」

 万人長が号令をかけると、無傷の三千の騎兵は


「「「お、おううううう!」」」

 雄叫びをあげ、尾根を勢い良く駆け抜けた。



――騎兵隊が本隊へ合流すると、戦いは既に決着が付いていた。


「テイス将軍、お見事な戦いです。」

 騎兵隊万人長のジェイが、報告に来た。


「いや、雑兵ばかり三千じゃった。こいつらは囮じゃったんだ」

 テイスは渋い表情で言った。


「騎兵隊は反乱軍の罠にはまり、多くの兵を失ってしまいました。申し訳ございません。責任は取るつもりです。」

 ジェイが跪き、頭を下げた。


「罠にはまったのは、わしじゃ……斥候が内通者だったとはな……見抜けないわしの目が節穴であった……」

 テイスは力無い声で話した。


「将軍、悪い話ばかりではありません。この戦いで凄い猛者を見つけましたので、ご紹介します。」

「うむ。」

「ユイ十人長、前へ出ろ! 」


 結衣は、厳つい将軍の護衛兵を掻き分けながら、将軍の前にでると、ひざまずき、頭を下げた。

「おお、お前か、頭をあげ」


「はいっ」と頭を上げた結衣は

「あー! 査定じじぃ……」


 ジェイ万人長が慌てて

「お、おまえ、何だ、その態度はっ!」


「す、す、すいませんでした。つい……」

 と、結衣は平謝りで、再度頭を下げた。


「ユイ! ジェイも構わん。戦場では、固い事は気にするな」

 テイス将軍は、笑いながらジェイをなだめる。


 すると、結衣は頭を上げて

「まさか、あの汚い恰好した。戦果査定じじいが、将軍さまとは、思いもよらなかったので……」


 テイス将軍は

「まぁ趣味と実益を兼ねてな、一応変装して戦果査定をしておったのじゃ、武勇伝を聞くも面白いし、褒章金は、不正もあるんで自分でやるのが一番なんじゃよ」


「なるほど……理にかなってます。」

 結衣は、少しだけ、このテイス将軍を尊敬した。


「それで今回は、どんな大物の首を取ったんだ?」

 テイスは、目を輝かせてジェイの方を見る。


「残念ながら反乱軍の将官を討ってはおりませんが、ユイ十人長は、炎に囲まれた騎兵隊を、単身で数百人の敵弓隊を壊滅させ突破口を開きました。また、それ以外にも敵の罠を……」

 と、ジェイが結衣の成果を詳細に報告すると


「うむ、一騎打ちだけが強い訳じゃないと言う事だな、駐屯地へ戻ったら、処遇は考慮するぞ」

 テイスは満足そうに語った。



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