最初の集落
不作が数年続き、それでも年貢はしっかりと持っていかれ、多くの農民達は飢餓に直面していた。
それに対して、数人の田舎騎士達が立ち上げた反乱軍は、日に日に数を増やし、国王軍を苦しめ、内乱の火は国中に広がっていた。
ただ、その反乱軍も増えた兵士を養う為に……
騎馬に乗った十名の兵士が、辺境の小さな集落に訪れ、村を一周りしたあと、村人を集落の中央に集めた。
「村長はいるか? いたら前に出ろ」
恐る恐る一人の男が前に出て
「村長でありませんが、一応、私がこの集落をまとめております。」
騎馬に乗った兵士は
「我々は、農民解放軍である。各地で反乱の狼煙を上げているのは聞いておるか?」
「はい、この小さな集落にもその噂は流れております。」
「よし、それじゃ話は早い。村の倉庫にある芋を我が軍へ提供して欲しい」
「騎士様、あれは大切な種いもでして、次に雨が降ったら畑に撒く予定なのです。収穫後でしたら、提供できるのですが……」
「我々が国王を倒したら、農民の生活は楽になるのだ、一時だけ飢えをしのいでくれ」
「ですから・・・種いもを持って行かれると、畑に植えるものさえなくなってしまいます。」
「もういい、お前ら馬車に芋を積み込め」
指揮官らしき兵士が命令すると、他の兵士達が馬を降り、倉庫を開けて芋を馬車に積み始めた。
「これでは盗賊と変わらんではないか! 何が農民解放軍じゃ!」
と、一人の老人が叫んだ。
「ん? いま何と言った。」
指揮官らしき兵士が馬上から、村人をなめるように見回した。
老人は怯むことなく前へ出て
「盗賊と同じだと言ったんだ」
「貴様!」
と言うと同時に、兵士は老人の胸を一刺しした。
「う……、糞共め」
老人は、口から血を吐きながら、正面から倒れた。
「おじいちゃーん、おじいちゃーん」
「おとうさんっ!」
小さな女の子とその母親が刺された老人に駆け寄る。
「無抵抗な老人になんてことするんですか……」
「おじいちゃんに何するの、馬に乗ってるおじちゃんは悪い人だー」
馬上の指揮官は、虫けらを潰すような目で、親子の首を斬り落とした。
「お前たちも、同じ目に合いたくないなら、芋の積み込みを手伝うんだ!」
――ちょうど、その時、結衣は集落に辿り着き、一部始終を見ていた。
「な、なんてことをっ」
(どうするんじゃユイ)
「どうするって言われても……」
すると、馬上の兵士が結衣に気が付き馬で近寄って来た。
「ほう~、上玉じゃねーか」
結衣は兵士を睨みつけ、コンサは羽ばたき小屋の天井へ移った。
「まだ、生娘のようだな~、名を何と言う、一緒に付いてくるなら、俺が囲ってやるぞ」
(売女のお誘いじゃ、不特定の相手じゃないから条件はいいぞ)
と、コンサから念話が届く
結衣は、薙刀を前に構え
「無抵抗の老人や女、子供しか斬れない男に名乗る気はないっ! 種いもを全部持って行かれたら、村人達は生きて行けないだろ、何が農民解放軍だ!」
集落の人達からも、小さな声で「そうだ」「そうだ」と声が上がる。
「ん? 俺一人じゃ物足りないって? ここでまわされてから、死にたいと言うのか?」
兵士は馬から降り、他の兵士達も結衣を囲うように集まって来た。兵士に睨まれた村人達は、声を静め遠巻きに見るしかなかった。
「寄るな!」
結衣は、震えながら薙刀を弱弱しく振り回し、兵士達を牽制する。
指揮官の兵士が、抜刀し剣を振り落とそうとした時、結衣の振った薙刀は、指揮官の首で寸止めされた。
「奇妙な剣だが武術の心得があるのか? 中々の腕前じゃねーか、戦なら死んでたな」
指揮官は、抜刀した剣で薙刀を振り払った。
「剣は殺す気で振らないと、寿命を短くするだけだ! あっはははは」
「次は、殺す! 死にたくなかったら、この村から帰れ!」
二人はお互いに剣を構え、間合いを取りあっている。
指揮官が薙刀自体を剣で強く振り払い、一気に間合いを詰めると、結衣は、その勢いを利用し反対側の柄で顔面を突いた。
指揮官は、剣を投げ捨て仰向けに倒れた。
「……凄い腕前だな」
「認めるなら、立ち去れ!」
「何故、とどめを刺さないんだ?」
指揮官は起き上がりながら、結衣に問うが、結衣は無言である。
「人を殺した事がないんだろう?」
指揮官は、剣を持たず結衣に近づく
「人を殺せないんだな?」
指揮官は、結衣の薙刀を自らの心臓に当て
「いまお前が力を込めれば、俺は死ぬんだぞ」
指揮官が薙刀を胸に当てたまま一歩一歩、間合いを詰める。
「殺せよ、一刺しすればいいんだ!」
結衣は、薙刀を指揮官の胸に刺しながら逆に一歩一歩後退していく
すると、後ろにいた兵士に結衣は羽交い締めにされた。
「な、な、何をするの!」
結衣は抵抗するが、あっという間に結衣は兵士達に取り押さえられてしまった。
「人を殺せないのに、人殺しの稽古だけしてたのか? まぁいい、お前ら十分に楽しんでから、楽にしてやれ」
兵士達は、集落の真ん中で結衣の四肢を押さえつけ、髭面の大男が結衣に馬乗りになって、顔を舐め始めた。
「い、い、いやー」
と、結衣は絶叫する。
(戦えユイ、戦うんだ!)コンサが念話を送った
「ひっひっひっひひー、こんな透き通るな肌の女は初めてだー、ゆっくり楽しませて貰うぞ」
髭面の大男は、顔から首筋そして乳房へと結衣の体を舐め回し、段々と下半身へと向かっていった。
「い、い、いやー、やめてー、お願い」
結衣は泣き叫んだ。
(戦えユイ、何故、振り払わないんだ!)
集落の人達は、下向きせめて無残な姿は見ないようにしていたが、小さな子供が髭面の大男に駆け寄って
「おじちゃん、止めてあげて、おねーちゃん泣いてるよー」
子供をチラ見した大男は、「うるせーな」と裏拳で子供の顔を思いっきり殴ると、子供の顔は陥没し五メートルふっとんだ。
女性が既に息をしていない子供に駆け寄り
「この子の何をするの」と泣き叫ぶと、横に立っていた兵士に首を落とされた。
(ユイお前が戦わないから、どんどん人が死んでいるぞ)
髭面の大男が
「お前ら、村人を黙らせろ、女は俺一人で十分だ」
結衣の四肢を押さえつけていた兵士達が、剣を持ち村人を威嚇し始めた。
髭面の大男は、結衣の上に乗ったまま、両腕を押さえ付け、また顔を舐め始めた。
「ふぇふぇふぇふぇふがふが……」
(ユイ戦うんだ! ユイ!)
結衣の心の中で何かが弾けた。
ピキィーーーン!
「戦う……戦うわ……、こいつらぶっ殺す!」
(そうか、それでいい)
「ぶっ殺すだと? 威勢がいいな、あっはははは」
髭面の大男は、高笑いを浮かべる。
コンサが屋根から滑空し、髭面の大男の頭を鋭い爪で掻き毟る。
「いてーーー」と大男が、上体を起こすと
「息臭せーんだよ!」と、結衣は大男の股間を思いっきり蹴り上げた。
「うっ」と大男が悶絶すると、その隙に左に転がり薙刀を手に取った。
薙刀を構えた結衣に、髭の大男が斧を手に
「人を殺せないだろ? あーはっはははー」
と高笑いしている最中に、大男の腕と斧が地面に落ちた。
「このあまー!」と腕から血をぼたぼたと落としながら、体当たりを仕掛けてくるが、結衣が薙刀を一振りすると、男の体は、大根でも切ったように真っ二つに割れた。
結衣は、勢いよく屋根に飛び乗り、屋根伝いに進むと、馬上の指揮官に向け飛び降り、そのまま首を斬りおとした。
一瞬にして、髭の大男と指揮官を斬られると、他の兵士達は馬にまたがって、悲鳴をあげながら我先にと引き返えして行った。