表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
JK戦記(前編)  作者: 石屋さん
誕生! 国王軍の白い悪魔
14/49

停戦交渉


 夜が明けると、立っている反乱軍の兵士はひとりもいなかった。

 十倍以上の兵力であったが、半数以上が暗闇を利用し敵前逃亡し、残った者の多くは武器を捨て降参していた。

 国王軍騎兵隊も無傷ではなく、半数以上が戦死し、残りは三百人に満たない状況である。

 千人長が戦死したことで、生き残った百人長で話し合い、結衣が全体の指揮をとることになった。


 結衣は、焼け残った食料を各自持てるだけ、持つように指示したあと、捕虜を使い戦死者の遺体と食料を一箇所に集め火を放ち、最後に、襲撃が成功した事を知らせる伝書鳩を空へ放した。



「ユイ百人長、捕虜はどうしますか?」

「これだけの人数を連れて行く訳にもいかないし、放っておいていいんじゃない?」

「流石に何もしないのは……、私にいい考えがあるですけど任せて貰っていいですか?」

 と、サナが結衣に言った。

「いいわよ。でも、あまり虐めなくていいからね。」

「大丈夫ですよ。私もマゾじゃないですから」

 とサナは不敵な笑顔で捕虜へと向かった。


 サナは捕虜達に、芋袋をひとつずつ持つように指示したあと、全員に頭から被るように指示し


「陽が落ちたら袋を取って好きにしていい、しかし、陽が落ちる前に、袋を取った者が一人でもいたら全員殺す。」

 と言い残しその場を去った。


「ユイ百人長、捕虜は終わりました。」

「じゃ、みんな戻るわよ!」


 結衣は、ひらりと馬背に飛び乗ると、生き残った騎兵隊を率いて、来た道を戻って行った。



-----



 ちょうど、その頃アルマサン城塞都市では……


 城塞都市内の多数の食糧庫やエール酒造で、火の手が上がり、井戸には猛毒が撒かれていた。


 カールハインツ公爵は、非常事態に動揺する従者から報告を受けた。

「慌てるでない、井戸の毒は、二、三日で消える、食料も全てが焼けた訳ではないだろう。食料がどれほど残っているか、早急にまとめるのだ。」

 従者は指示を受けると、礼をすることも忘れ急いで執務室をあとにした。


「公爵、火も毒もこれ一度きりではないぞ」

 テイス将軍が窓の外を眺めながら言った。 



 翌日



 早朝に反乱軍が前進し、アルマサン城塞都市に近寄って来たと、報告がはいる。

「出城に投石機を使って、攻撃するように伝令するのだ!」

 カールハインツ公爵の指示を出城に伝えると、暫くして従者が息を切らしながら戻り

「はぁはぁはぁ……こ、公爵! 出城の兵が寝返りました。出城に反乱軍の鍬の旗が掲げられております。」


「な、なんじゃと……騎士団長達は何をしているのか!」

「公爵さま、騎士団は捕虜になっているようです……」


 窓から外を見て何かを待っているようなテイス将軍が

「とりあえず、ジークベルトをここへ呼んでもいいのではないか?」


 カールハインツ公爵が少し考えたあと、従者にジークベルトを執務室へ連れて来るように指示を出し、その後

「テイス将軍は、昨日からずっと窓の外を見ておるが、何か待っているのか?」

「ああ、知らせを待っておるのじゃ」

「知らせ?」

「国王軍の白い悪魔からのな」



 アルマサン城塞都市は、昨日からの火事、井戸の毒、出城の寝返りなどで、市民も兵士もどうようし、次は誰が裏切るのか疑心暗鬼になっていた。



 暫くすると、騎士に両脇を抑えられてジークベルトが連れられて来た。

「乱暴に扱わんで良い。客人だぞ」

 騎士は腕を離し

「申し訳ございませんでした。」

 と、ジークベルトに深々と頭を下げた。

「気にしないで良い。状況が状況だけに気持ちは解る。」


「ジークベルト殿、このような手段を選らばぬ調略は、貴方の書いたシナリオ通りのようですな」

 テイス将軍が皮肉な笑みをべジークベルトへ見せる。


「かいかぶり過ぎです。私は何も……圧制に苦しんでいる民衆が自発的にやったことではないですか?」

 ジークベルトも強烈な皮肉で返した。


「なんじゃと! わしが民衆を苦しめていると言うのかっ!」

 カールハインツ公爵が顔を真っ赤にして怒鳴った。

「申し訳ございません。決して公爵のことを言った訳ではありません……」

「他に誰がいると言うのか!」

 テイス将軍がカールハインツ公爵を制して

「まぁまぁ売り言葉に買い言葉じゃ、それよりジークベルト殿をお呼びしたのは、こんな話をする為ではない」


「停戦条件のことですな。」

 ジークベルトは悪びれることなく口元を緩めた。

 しかし、テイス将軍は窓の外で何かを見つけたようで、ジークベルトの言葉が耳に入っていないようであった。

「テイス将軍聞いていらっしゃいますか?」

 と、ジークベルトが不機嫌そうに言う。


「あ、すまんすまん。最低限の条件を教えてくれないか?」

 テイス将軍が思い出したように言うと、

「公爵と将軍は人質として、残って頂きますが、他の兵は武装解除も無しに王都へ戻って構いません。」


「わしらは人質で構わんが、民を置いてこの城を出るのはなぁ……」

「略奪などさせません、民は農民解放軍の作る新たな国の民となるのですから……」


 まだ怒りの収まらないカールハインツ公爵が

「民を残して、兵が城を出たら、野蛮な反乱軍が何をするかわかったもんじゃない!」

 すると、ジークベルトは

「民も連れて行っても構わないのですよ。皆が一緒にいくとは思えませんが……」

「な、なんだと!」


 三人の話が平行線をたどっていると、テイス将軍の従者が執務室へ入りテイス将軍へ耳打ちした。テイス将軍は、そうかと頷いたあと、

「軍議を開く、暫くお二人はここでお待ち願いたい。公爵、停戦交渉に関しては、私に一任して下さい。」

 と、席を立った。



――暫くして、軍議を終えたテイス将軍が戻り

「希望する住民を連れて全軍王都へ戻る。但し、わしがジークベルト殿と一緒に反乱軍の将軍と最終的な確認をしたあとじゃ。それでよろしいかジークベルト殿」


「私は構いません。懸命なご判断と存じます。」


 不満げなカールハインツ公爵に対し、テイス将軍が

「公爵、民のことを最優先で考えた決断です。必ず国王軍が奪還してくれるでしょうから、二人で待ちましょう」

 と、声を掛けた。

「うむ、わかった。民には私から直接説明する。お主は反乱軍の将軍と最終的な確認をして来てくれ」


「公爵、ご理解頂きありがとうございます。兵には私が確認している間に、準備しておくように指示は出しております。」

 テイス将軍とカールハインツ公爵ががっちりと握手した時、その力強さにカールハインツ公爵は、何かを感じたが口にはしなかった。


「それでは、ジークベルト殿、行きましょうか?」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ