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JK戦記(前編)  作者: 石屋さん
誕生! 国王軍の白い悪魔
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プロローグ

 カフェふくろうの森

「いらっしゃいませ~ ようこそふくろうの森へ」


 市ヶ谷駅から徒歩五分の靖国通り沿いにあるオシャレなふくろうカフェで、宮島結衣はアルバイトをしていた。


 どこにでもいる普通の女子高生であるが、宮島流古武術三十二代目当主の孫娘で、薙刀の達人でもあった。

 同級生に羨ましがられるこのアルバイトは、オシャレだからやってる訳ではない。


 市ヶ谷にある高校が終わると、このカフェで七時までアルバイトをして、そのまま武道館で二時間薙刀の稽古をしてから神保町の家に帰るのが日課であり、このアルバイトも単に通り道にあり、時間もちょうど良かったからなのである。


「結衣ちゃん、時間だね。上がっていいよ」

「店長ありがとうございます。」


 結衣は、店のバックルームの奥でセーラー服に着替え、稽古用の道衣が入っているリュックサックを背負い、長い薙刀を片手に挨拶をする為に、店舗への扉を開いた。


「お疲れ様でした……ん?」


 さっきまで、ゆったりとした雰囲気の店内はざわついていた。路面側にいる梟達は、上空を見つめ、夜7時だと言うのに外は昼間のような明るさ……


 この店でボスのような振る舞いをしているシマフクロウのコンサが、指定席である天井の梁から滑空し結衣の肩に止まると、大きな翼を広げて結衣を覆った。


「コンサ……どうした」


 結衣が言い終える前に、凄まじい衝撃波を体に感じると同時に結衣の意識は消えた……



-----


 朝の明るみが果てしない遠方からにじむように広がってくる。葉は、冷たい汗をかいたように朝露にびっしりと濡れており、滴が結衣の顔にぴちゃりと落ちた。


「ん、ん、うーん……、……ん、……い、い、いやー!」


 結衣は、肌蹴たスカートを慌てて直しながら起き上がった。


「ん? ……ここどこ?」


 目が覚めると森の中なのである。結衣は、まったく理解できずにいた。

 すると、木の上からシマフクロウのコンサが滑空し結衣の肩に止まる。

「あ! あの後、どうなったんだろう? コンサが私を庇うように翼で覆い、その後、凄い衝撃を感じたんだけど……」


(あの世界は、終わってしまったんだよ)

「え? え? え? コンサなの?」

(そうじゃよ、ユイ)


「終わったってどういうこと? 何があったの?」

(わしも何が起きたのかは解らん、ただ少なくとも、あの世界でわしの体もユイの体も蒸発してしまったよ」


「夢? 夢だとしても、どこから夢なんだろう?」

(夢じゃないぞ)

「確かに……、お腹減ってるから、夢じゃないかも……じゃここどこ?」

(どこと言われても困るが、違う世界に転生したんじゃ)


「ん~ん?……ところで、コンサはどうやって私に話し掛けてるの?」

(心に直接話し掛けてるんだ)

「良く解らないよ……でも、音はしてないね。」


 状況がまったく理解出来ない結衣は、とりあず辺りを散策する事にした。


 赤みがかったぎらぎらした太陽が、雑木林を踊るように照らし、樹皮や木の芽のむんむんする激しい香の中へフクロウを肩に乗せて進んで行った


「コンサはいったい何なの?」

(霊体と言う言葉が、一番近いかの)

「ん? 解らない」

(わしは、今フクロウの体を使っているが、実態は無い精神的な存在なんじゃ)


「神様的な存在ってこと?」

(そう言われることも、あったが、わしには特別な力はないぞ)

「でも、こうやって私を違う世界に連れて来たじゃん」


(あの時は、とっさのことだったので、無意識にお前と一緒に世界を飛び越えてしまったんじゃ)

「じゃ、また戻してくれないの?」

(千年くらい霊力を貯めないと、転移はできんのじゃ)


 結衣が目の前の風景を見ると、森林はどこまでもどこまでも続き、豊饒というよりも無造作に、枝々は幾重にも折り重なり、法則もなく長く長く伸びていた。


「どこまで続くのこの森……お腹すいたよ……」

(もうすぐ、林道に出る。そこを進めば集落があるぞ)


「そういえば、体が凄く軽いんだけど、コンサが何か魔法でも掛けたの?」

(この世界は、ユイがいた世界の半分の大きさだからじゃろ)

「重力が半分の星ってこと?」

(そういう言い方も出来るな)


「コンサは、この世界の事知ってるの?」

(ああ、良く知ってるよ)

「でも、昔の話しじゃないの? 時間が経ってるから随分変わってるかもね」

(いや、変わってはおらん。)

「何で? 日本にも相当居たんでしょ?」

(わしが転移した世界だけが、時が動くんじゃ、だからこの世界も、ついさっきから時が動き始めたんじゃよ)

「それ凄くない? やっぱ神様じゃん!」

(でも、時間が止まっているなんて誰も気が付かないだろ?)

「そうだね……じゃこれから私はどうすればいいの?」

(ユイの好きにすればいい)


「そう言われても、どうやって生きて行けばいいの?」

(そうじゃの……、最初は、売女として食いつないで行くか、戦士として戦うか……じゃの)


「なにその究極の選択……神様なんだから、何とかしてよ」

(わしは神様ではないと言ってるだろ、特別な力はないんじゃ)

「でも……、体売って生きて行くのは嫌だし、戦士なったって直ぐ死んじゃうじゃん」

(ユイは、武道も達者だし、ユイが身に着けている物全てが、転移時の副作用で絶対に切れない、燃えない、壊れない、劣化しない物になったぞ)

「え? そうなの? 早く言ってよ~」


 結衣は、薙刀を手にて大木を一振りした。


 スパーン! と音をたてて大木が真っ二つになり倒れた。

「凄い切れ味……」


 次は、木に道衣を巻き付けて、同じように薙刀を一振り……

 すると、鈍器で叩きつけた鈍い音がしただけで、木はもちろん、道衣も一本の糸すら切れていない。


(どうじゃ、これなら戦えるじゃろ)

「うーん……、でも人殺しなんて出来ないよ……」

(それは、ユイ次第じゃ、ただこの世界は弱肉強食じゃ)

「すくなくとも、自分の身は自分で守るよ」


(それより、そろそろ林道に出るから、その露出の多いセーラー服は、着替えた方がいいと思うんじゃが……)

「そう? 刺激が強すぎる? じゃ道衣に着替えるよ」



 道衣に着替えた結衣は、林道に出た。

「やっと道に出たね。」

(このまま進めば集落がある)


 結衣達は、豊かな木々の香りと野鳥のさえずりを風が運ぶ林道を進んだ。



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