第3章-16 大金を扱うと疑心暗鬼になるよね
高木さんと婆さんの話は長く、ついていけないので先に退出させてもらった。トーゴもヒマそうにしていたので鉱山へ連れ出して今後のお話をする。
「じゃあ今後の予定を説明するわ」
トーゴとナル、ランそして俺の4人で坑道横の建物に集う。2階の最初に睨み合った部屋だ。なつかしさも感じる。
「アイラちゃんについては高木さんが治療に当たる」
トーゴが神妙そうにうなづく。
「エルフの秘薬についての解析も高木さんやサクラサケのチームで解析する予定だ。そこで、トーゴの仕事なんだが…」
エルフから秘薬を買い、できることなら良好な関係の構築。この件でのトーゴの仕事は責任が重い。少し張り切ってもらいたい。
「えーと、トーゴの仕事なんだが、2つある。エルフの秘薬を買えるだけ買うこと。10個以上買えたら1つはアイラちゃんに譲ろう」
おーとトーゴの顔に力が入ったぞ。効果あったみたいだ。
「もちろん約束通り、10個未満でも金貨72枚分はこっちがだす。つまり48枚で1つ譲る」
特に大きな反応はない。10個買える自信があるのか。
「もう1つの仕事は俺たちとエルフとの間に立ち、仲介をすること。友好関係を築きたいと考えている。こちらも成功すれば、まぁ成否は俺の独断となるが、成功すれば秘薬を1つ譲ろう」
トーゴの顔はやる気に満ち溢れている。娘の命が掛かっているのだ、やる気も出るだろう。まぁ正直、俺は何も出来ない。せいぜい高木さんにお願いするしかない。高木さんが治療を終えるまでの秘薬を買うくらいしか。そして、トーゴに仕事を与えることで秘薬を譲る口実を作るくらいしか。
「それに当たってエルフのことについて話を聞きたい。作法や文化、とくにエルフの前でやってはいけないことを教えて欲しい」
トーゴは神妙な顔で頷く。
「まず、明日秘薬を買いに行ってくれ。明日は俺たちは付いていかないから個人でよろしく」
最大で15個として200枚くらい?12×15で180枚か。王都の平民住宅街で小さめの家買えるくらいか。
「ここからどのくらいの距離なの?」
「馬で5日くらいです」
馬で5日というと車で丸1日程。片道だけでも3~4回の充電が必要だ。ちょっと遠すぎるな。あれ、もしかして国が違うか?
「そこってどのあたりにあるの」
「真西に馬で5日です」
「んーとメゾン王国?」
「クオリとの境界付近です。どちらにも属してません」
なんか車で行ったら痛い目に合いそうだ。宣戦布告扱いされたら困る。今までもどうせ一人で行ってたんだろ。今回も一人で行かせよ。
「悪いけどトーゴだけで行ってくれ。場所が場所だけに車で行けないんだ。交通費等は別で出すから」
西なら本部の方角だ。本部までは車で送ってやろう。まず残り10日と言ってるのに片道5日って言うのがギリギリすぎて話にならない。あ、それも含めての10日なのかな。
「明日本部まで送っていくから、そこからはいつも行ってるように行ってきて」
まぁ諸々合わせて金貨200枚も渡せばなんとかなるだろう。トーゴに金貨200枚を渡していいものか。娘が手元にいる限りは多分逃げないだろう。たぶん。残るリスクは盗賊と魔物。どちらも目にしたことはないが、時たま耳にする。無視できないリスクだ。
あぁ、エルフに奪われる可能性もあるか。ほとんど人間族と交流を持たないエルフが、なぜトーゴとはやり取りをするのか。正直、トーゴにあまり権力はない。取り入る意味も薄い。もし、トーゴを気に入っているのだとしたら、なぜお金を徴収するのか。エルフの考えが一切分からないし、お金を奪われるどころかトーゴが殺される可能性もあったりするかもしれない。
監視でも付けるか。本部に寄った時に傭兵を護衛の名目で1人2人付けよう。




