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異世界は既にほぼ攻略済みだった  作者: 乳酸菌飲料
第3章 就職先は鉱山
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第3章-15 医療機器って作るの難しいのかな

「では、さっそくトーゴの娘さんの体をを診てみたいな」


「トーゴを呼んでくるので少しそこで待っててください」


 とりあえず、けが人用のプレハブ小屋に案内した。ぎりぎり建物として成り立つくらいしか、建設は進んでいないが、ボロい建物よりはまし。


 トーゴを連れて高木さんと顔合わせをし、すぐに娘さんのところに向かう。なぜか鉱山医のマイヤも付いてきた。



 トーゴの家はボロく狭かった。プレハブ小屋の1DK。スラム街の中ではマシな方といったところか。建物自体はボロいながらも、掃除はすみずみまで行き届いており、埃などは一切ない。小さな部屋の隅に小さな女の子が寝かされている。部屋にそぐわない、いい布団を使ってる。


「この子が娘さんですね?お名前はなんというのですか?」


「アイラだ。2歳。心臓の形が悪いと言われてるんだ」


 高木さんが布団をめくると、アイラの胸元に大きなペンダントが目に入る。ペンダントは魔法的な光りを放っている。治療のためのなにかだろう。アイラ身長は、7~80cmくらいかな。息の数が多い気がする。高木さんは黒い鞄から聴診器取り出し、胸に当てメモ帳に何かを記載してる。


「確かに雑音がありますね。心室の中隔欠損かな?少し熱がありそうですね、頻呼吸の原因が感染か心臓かがよくわからないですね」


 多分俺たちにわかりやすく言ってくれてるんだと思うけど、意味わかんない。熱があるのだけはわかった。


「この、ペンダントはなに?」


「エルフの秘薬です」


 この世界の薬の概念について教えてくれ。賢者の石とかの方がそれっぽい。


「効果を教えてくれますか?」


「万能の魔法薬だ」


 万能なら治ってるだろ。病気の進行を止めるとかそんな感じかな?


「ところで、心臓の形が悪いというのは誰に言われましたか?」


 確かにレントゲンもないのにどうやって判断したんだろ。あ、でも高木さんも心室がどうのこうのって言ってたしわかるんじゃね?


「生まれてすぐ治療師に言われました」


「その人を連れてきてもらえますか?」


 今微妙な顔したなこいつ。あぁ金か。


「多少金がかかってもこっちで負担するから」


 トーゴは少しお待ちくださいと丁寧にお辞儀をして部屋を出ていく。アイラちゃんを残して出ていけるくらいには信頼してくれているのか。



「ところで、どうなんですか」


「あぁ、正直わからないね。ただ、心室中隔欠損だとして2歳になっても自然閉鎖していないことから重症の可能性がありますね。最悪のケースはファロー四徴症ですね。もしファロー四徴症だとすると厳しいかもしれません」


 高木さんは医療の話になると長く話す癖がある。前に、リロが倒れた時も長々と叱られた。心室なんたらか、ファローなんたらの可能性があってファローの方がやばいってことまではわかった。


「あぁ、エコーが欲しい。心電図が欲しい。」


 高木さんが頭を掻きながらぼそぼそと要求する。絶対無理だけど。たぶん。そういえば丁寧語じゃない高木さんは珍しい気がする。




 特に何をすることもなく時間を潰すこと早30分。まだトーゴは帰ってこない。それだけ時間が掛かるなら車で送っていけば良かった。


「らぁれ」


 アイラちゃんが俺たちに向かって何かを言った。高木さんの診察の時には起きなかったのに。


「アイラちゃん、おはよう」


 高木さんが笑顔でゆっくりとした言葉で話しかける。さすがお医者さん。


「僕は、高木って言うんだ。アイラちゃんの、お父さんの、知り合いで、医者だよ。アイラちゃんの、病気を治すために、ここにいるんだ」


 諭すように、言葉を切って話しかける。ちらっと俺にアイコンタクトをしてきたので俺も自己紹介をする。


「おはよう。僕はユウ。アイラちゃんのお父さんと一緒に仕事をしてるんだ」


 自己紹介でなにを言えばいいかわかんない。これでいいのかな。


「ぱぱ、どこ」


 2歳児って会話できるのか。


「トーゴさんは、治療師を呼んでるよ」



 たったこれだけで会話が終わった。息苦しい。


「アイラちゃんお腹すかない?」


 そういえばもう夕方だし子供はご飯の時間かも知れない。俺もちょっと腹減った。


「すいた」


「じゃあお菓子をあげよう」


 高木さんは鞄から飴を取り出しアイラちゃんに渡す。アイラちゃんは力ない手で受け取り口に入れた。


「あぁがと」


 高木さんは着実にアイラちゃんと仲良くなっている。さすがお医者さんだ。



「おそくなりました」


 飴をなめ終わった頃にトーゴがおばあちゃんを連れて帰ってきた。フワッと羽織るような、浴衣に近い服を着ている。光沢があり、上品さを感じる。髪が全て白髪なので相当の年だろう。この世界で白髪になるまで生きている人はレアケースだ。シワシワの手足は触れたら折れてしまうのでは無いかと、考えさせられるほど細い。

 


「ばばぁをこき使いよって、ワシが死んだらどうしてくれる。ヒッヒ」


「遠路はるばる申し訳ありません。どうしても聞きたいことがありまして」


「ヒッヒッヒ。若いの、お前さんがワシのところへ来れば良かったんじゃよ」


「患者もいますので、申し訳ありません」


 高木さんが押し負けてる。そして俺は会話には入れない。


「まず金貨5枚だしな。話はそこからじゃ」


 大きく吹っかけてきた。怒ってるのか試してるのか。それともトーゴがそれくらいは出せると吹き込んだのか。


「話が済めば金貨10枚払いましょう。ただし質問には全て答えていただきます」


 高木さんもちょっと怒ってる。めんどくさがってるのか。


「ヒッヒ、気前がええのぅ。なんでも話してやるわ」


 そこからしばらく、高木さんと婆さんが二人で話し合ってた。俺が横で聞いてて理解できたのは、婆さんは50年間医者をやっていること。数え切れない程の赤ちゃんをとりあげ、魔法で検査してきたこと。アイラちゃんも同様で、検査で心臓の形が変であることを見抜いたこと。時々ある形で、ほとんどが赤ちゃんのうちに亡くなること。検査の魔法は土系の魔法で、鉱山でよく用いられているとのこと。

 高木さんも検査の魔法に興味があり、根掘り葉掘り聞いていたが、婆さん曰く10年は修行が必要とのこと。そして、婆さんも高木さんの知識に興味があり、win-winの関係ということで婆さんがサクラサケに来ることが決まった。


「話を聞く限り、検査の魔法とはエコーに近いものだと思います。なんとしても覚えなければなりません」


 高木さんもこれまで以上に目が輝いている。さすがお医者さん、医療系の話が好きなようだ。






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