こっちの世界でも守りたいものができた。
「お前はどっちの味方なんだ」
精巧な装飾をされ、重厚な鎧を纏った騎士が1人の少年に剣を向けて叫ぶ。鎧を見ただけで一般市民は平伏するだろう。胸に刻まれた紋章は近衛騎士であることを示している。そして突き出した剣に刻まれた紋章が騎士長、すなわちこの国で最も強い人物であることを示す。
この近衛騎士長の後ろには20人ほどの騎士が腰の剣を掴み、少年を鋭く睨みつけている。
ピリピリとした空気の中少年は困ったような顔をしたままこう答える。
「両方の味方になりたかったんだけどなぁ。」
静寂があたりを包む。
それも一瞬だった。
「ユウを国家反逆罪により処罰する。」
ユウと呼ばれた少年は困った表情から悲しい表情に変わっていく。
それでも腰の剣を抜くことなく先頭の騎士を見ている。
「抜刀。生死は問わない。捉えろ!」
先頭騎士のひときわ大きい命令により皆、剣を抜きユウに切っ先を向ける。
そのままユウを囲むように展開してゆく。
「魔法騎士もいる。テレポートでも逃げれないぞ。大人しく捕まれ」
騎士たちの後ろに剣でなく杖を持った人が何人かいる。
杖の頭に付けられた魔石がひかっている。何かしらの魔法でユウのテレポートを阻害しているのだろう。
周りを見渡したユウはついに剣を抜く。
騎士たちに一気に緊張が走る。その剣は騎士長のそれに、負けず劣らずのきらびやかな装飾が施されている。その中でも圧倒的な存在感を示すのが王家の紋章だ。それは王から授けられたことを意味する。
「じゃあまた会おう。隊長さん。」
ユウが剣を地面に向けて振り抜くと爆音と共にあたりは土煙で覆われた。
「魔法騎士!風ではらせ」
すぐに土煙は晴れたが既にユウはいなく、その場所には小さなクレーターと刀身の折れた剣のみがあった。