~試験編~ 1話「アプローチ1/2」
「―――つまり、貴方も能力者であり、また、この街にいる人は愚か、この国...いえ、この世界に存在する人達全員が能力者です。」
「そんな事言われても信じられないとか言いたいけど、十分わかりました...俺はどうすればいい?」
「そんな事私にも分からないわ、でもまぁ、自分の能力くらい知っといた方がいいんじゃない?」
「あぁ、そっか...そうだね。」
☆
高校2年生の夏後半、一分ごとに暑いと口にするほど暑い。
「うちの高校宿題とかないし逆に暇で嫌んなるよなぁ…。」
「尾山それさっきも言ってた気が滅入るから黙ってて。」
尾山「夏の暑さに焼かれてそこら辺の地域の祭りで見世物にでもされてればいいのに...命名「千春の日干し」」
カーテンを締め切っても陽射しで熱くて、閉めたら閉めたで熱がこもってサウナ状態。
「焼かれてるんだから日干しじゃないよ。」
千春「あつい!とにかくあ・つ・い!ねぇ!怖い話しよ!夏らしくていいじゃん!?」
畳しかない暑い自分の部屋...猫になりたい
「それだったら、いっそ心霊スポット行かない?夏らしくていいじゃない、肝試し。」
千春「いいじゃん!いいこと言うねぇ!やぁくぅもぉ!」
バカたちが人の家で勝手に騒いでるあいだ必死に別の事を考えていたがもう我慢出来ない。
尾山「行こう!」
☆
時刻は丑三つ時を迎えた夜のこと、今度は少し肌寒くも感じる真っ暗闇の中、三人は心霊スポットに向かうべく歩いていた。
尾山「いつ着くんだ?心霊スポットには。」
苅部「もうすぐ着くよ、そこの角を曲がってまっすぐ行くとすぐだ。」
言われたとおり角を曲がり、十分近く歩いていると建物の配置も少なくなって空き地が目立ち、どこからかいきなり田んぼが広がった田舎の風景になった。
千春「すごいね、いっきに世界観変わったよ...。」
苅部「えっと...そこの墓地だね。」
すると、指を指した方向に顔を向けると、やや大きめの墓地が一つ、ポツーンっと建っている。
尾山「行くか...。」
田んぼのあいまあいまにある道を通り、墓地へ向かう。
千春「ねぇ...ねぇみんな。」
それまで黙ってた千春がいきなり腕を強く掴んで来る。
尾山「なんだよ、もう着くってそこの墓地だ。」
千春「そうじゃなくて...アレ。」
ゆっくり何かに人差し指を向ける千春、その先には小学生くらいの女の子が手を振っていた。
尾山「人違いだろ...ほら、行くぞ。」
千春「う、うん。」
それでもやはり少し女の子の事を気にしつつ、墓地着く。
苅部「いざ着くと...やっぱり真っ暗で怖いね...。」
尾山「来たんだから、ちゃんと楽しんで行こうぜ。」
千春「うん。」
墓地に入り少し周りを見渡してみる真っ暗で先の方が見えにくくなっている、鼓動が早く強くなり、心なしか空気が重い。
千春「ねぇ、怖いよ...帰ろう?」
尾山「そうだな...ちょっと見たら帰るか。」
言うと、三人は墓地の入口から少し歩き、一つのお墓を曲がった。
千春「!?...ね、ねぇ...あれって......さっき。」
すると真っ直ぐ、暗くて終わりが見えない直線の道の先に、先ほど手を振っていた少女がゆっくり、ゆっくりと三人に向かって歩いていた。
尾山「さっきの女の子?...にしても来るの早くないか?」
苅部「そ、そうだね。さっき見つけた時から五分もたってないし...おかしいよ。」
千春「そ、それよりもさぁ...あの女の子いつ墓地に入ってきたの?」
言われた瞬間全身に鳥肌が立ち、苅部の体がビクッ!っとはねる。
苅部「そう、そうだよ...確かこの墓地には入口は一つしかない。」
尾山「おい、ヤベェって...逃げようぜ...。」
少女に背を向けてあえて出口まで遠回りをしようとまた別の角を曲がると、そこにはまた少女がゆっくりと向かって来るのが見えた。
千春「なんで......また...?」
尾山「別のとこ行くか...。」
また、少女に背を向けて別の角を曲がる、しかし少女がゆっくり向かって来るのが見える。
何度も、別の角をいくら曲がっても少女が立っていて、ゆっくり向かって来る、角を曲がる度近くに来ており、それに比例して周りの景色がセピア色になっていき、今ではハッキリと少女の姿が見える。
死臭と危機感、逃げなくてはいけない事などとうに分かっているが、誰一人そのまま一歩も動くことなく、少女は目の前まで来て一言呟いた。
「ミツケタ」