12話
ソフィアがこの船にやってきて合計して9日が過ぎた。しかし5日間はずっと寝ていたのでここでの生活は4日目となる。
それぐらいまでこればもうソフィアは殆ど回復していた。副団長からもらった薬はとてもよく効いていたし団長が優しく接してくれていてとても楽だった。
やがて自分ばかり世話になるのは申し訳ないからと彼女は船での手伝いを始めた。団長や副団長はもっと安静にしていてもと言ってくれたが押し通した。まあ気に入られたいと思っていたのも事実だったが。
それから食事や洗濯や掃除などをし始めたのだが、それによって船内環境は劇的に変化した。
男料理と称した雑で効率の悪い無駄な料理を正し、汗臭い服を大雑把に洗うのを丁寧にするよう指導し、管理の行き届いていない物品などを捌きまくった。
一応ベルから家事全般を仕込まれていたので特には困らなかった。
彼女が困ったのはもっと別のことである。
この聖騎士団は団員の全員が男性だ。当然女性慣れしているわけでも対応できるわけでもなく、ソフィアとすれ違っても顔を赤くして俯いたり、彼女と話さなければならないときでも目線を右往左往させ口調も緊張したものとなってしまう。
別段ソフィアはこの事を気にはしていないようではあった。慣れていなければ緊張するのは当然だと理解していたし、それに、若いイケメンで屈強なのや、そこそこ年齢があり大人の男という感じのも揃いも揃って自分を見て赤面すると言うのは決して不快では無かったし、そんなもてそうな男性の恥ずかしさに悶える姿を見ることができるならばソフィアとしても悪くない...........むしろ最高だった。
嫌だったのはいつも一人で歩いていたりする時に感じる視線だった。ずっと男だけで遠征しているのだから性欲ぐらい溜まっているのは男性と女性という違いはあれど一応理解できなくもない。しかしだからと言って影でコソコソこっちを見て、
「あの人可愛いなあ」「やばい本当一緒に寝たい」「今度部屋覗いて着替えるところとか寝顔とかあんなことしてる姿みてみようぜ」「うわあ、快感だわあ」
とか言うのは本当にやめて欲しい。
その上、
「スタイルはまあまあだな」「俺はもうちょっとムチムチしてる方が」「俺は、貧乳派だから彼女がいいな」「あんな可愛かったらもう処女じゃないんだろうなぁ、卒業してるんだろうなぁ」とか言って、はっきり言って気持ち悪い。特に前から3番目の奴は殺してやりたい。
しかもそれが気付かれていないと思っている辺りが本当に同種族として恥ずかしい。妙に目線を下に向けたりチラチラ胸を見たり。こっちは気づいてるんだ自重しやがれ変態童貞と言ってやりたい気分にもなる。
ーーえ?私?私は、卒業してないよ。安心して。
そんな色々な事があって今日に至るわけである。
今日は団長がソフィアを伴って階段を降りていた。
「それで、私にしかできないことって...........というかこんな時間に」ソフィアは不安げな声で問いかける。外は既に真っ暗。曇っているので星も月明かりもなく、ただ団長の魔法が発する小さな白い炎だけが唯一の光源だった。
「ああ、まあその...........無理なら無理って言ってくれてもいいんだ」そう言いながらソフィアを下りの階段へとエスコートする。
「えーとだな」いつも断言する団長にしてはどこか歯切れの悪い言い方だ。
「若い女性の方がいいんだ。その方が...........相手は凶暴だし」
「え?それって」ソフィアはここで思考があっちの方に行ってしまう。
(イヤイヤイヤイヤ、そりゃ私はこの船では唯一の女性ですよ。ピチピチの10代美少女よ。だからって...........そんなの)
「もし君に危害が加えられるようなら私が責任を持って止める。だから...........その多少の事は勘弁してくれないか?」
(なに?なんの責任を持つのよ。多少の事って何よ!多少じゃないわよ、宇宙より大きいわよ!)
そんな彼女の切なる願いは届かず団長は淡々と階段を降りて行く。
(こんな所で、なんの恋愛も無く、奪われちゃうなんて。私だって、私だって人並みにイケメンと恋愛したかったのに。『お前は俺の物だ。一生離さない』とか言われてそれで『お前の全てが見たい。お前の全部が欲しい。』とかなんとか言われて、『やってもいいか?』『うん、優しくしてね』とか言って押し倒されて、ボタンをお互いに外していくってのが夢だったのに!)
そして二人は階段を降り切ると長い暗い廊下を歩き続ける。
すると歩いて行くうちにだんだんと異臭が立ち込める。人を不快にさせるムカムカとした匂い。まるで獣の匂いのような。
(これが、男のアレの匂い...........。気持ち悪い)
吐き気を催す匂いがだんだんと濃くなっていく。
それと同時にソフィアの顔色はだんだんと悪くなっていく。
(あれ?)歩き進むに連れ彼女はあることに気づく。
廊下がだんだんと汚くなってきていたのだ。
それも掃除を余りしなかったからというような小さなシミとかそんなものじゃない。
真っ黒にこびりついた異様な塊。小さな薄汚れて欠けた小さな棒状のもの。
「あの...........」ソフィアは立ち止まりそれを指差す。薄暗い自分の周囲2メートルほどしか視界のない空間でもそれとわかるもの。
「あれってまさか...........」
「ああ、そう。君が想像した通りのものだ。つまりここはそういう場所だよ。でもこれから君に頼みたい事は厳密にはこの空間の用途と必ずしも一致するものじゃない」
団長らしくもない遠回しで曖昧な言い方。この人はこういう事は嫌いなんじゃなかっただろうか。
「着いたよ。ここだ」不意に団長は立ち止まる。
そこはどう見ても一つのないしはたった二つの用途しかない所だ。
「ああ、君の予想通り。ここは一応牢屋、でも今までは拷問部屋としてしか使われてない」
そう言うと団長は牢屋の赤茶色に錆びれた鉄格子を握る。
ソフィアはゆっくりと慎重に重苦しい足取りで団長の隣に立つ。
そこはまさしく牢屋、否、拷問部屋と呼ぶのに相応しかった。
畳10畳ほどの正方形の部屋。天井は低くバヴェルギヌスだと入れないと思う。
そして床に散らばっているのは、黒いペンチや赤い釘、或いは漆黒のナイフや紅色の鉄の棒。
「古典的な方が効果的でね。お陰でエグいのが一杯散乱してしまって。まったく、時代は電気だってのに」
その中に佇むはたった一人。そう、そこに人がいない方がおかしい。だからこそソフィアはここに呼ばれたのだ。
「ソフィア、あの子が...........その...........レミア=ルルフェイスだよ」
背の低い幼い少女。
ソフィアが抱いた最初の印象はそれだった...........いや、それだけだった。
薄汚れた髪の毛。まるで幽霊のように前髪にかかり彼女の瞳を隠す。
ボロボロの囚人が着るような服よりももっと汚い、灰色の血の跡がこびりついた服に袖を通し、足には何も履かず、冷たくて暖かさを奪い取る床に垢だらけの肌が直接触れている。
小さな手首には大量の傷跡。それも古いものから新しいものまで。そして肉をえぐられたように陥没した指先の爪は全て無い。
そして彼女の肌には、腕にも、足にも頰にも、口の中も、目でさえも、鋭い引っかき傷にこれでもかと覆われていた。
「拷問したんですか」ソフィアは自分が怒りに震えていることがわかった。鉄格子を握り締めその手が震え始める。
そんな感情は彼女にとって初めてだった。少なくとも初対面の相手を思ってそんな感情を抱く事は今までなかった。
「こんな...........こんな小さな子をあんた達は」
「違う」ソフィアの言葉に耐えられなくなったかのようにたったそれだけ言う団長。
「私達は拷問なんてしては」
「じゃあこれは何なんですか」団長の言い訳めいた言葉に心底イラついたソフィアは髪の毛が逆撫でする程怒っている。
「こんな不衛生な場所にたった一人で身体中傷だらけで閉じ込めて。
これが拷問じゃないって言ったら何が拷問なんだよ!」
思わず怒鳴り出すソフィアに、何も反論できず肩を小さく縮こませる団長。
「ああ。君の言うとおりだ」弱々しい口調で言う団長。
そして鉄格子に添えていた手を離し赤い錆の付いたその手を見つめる。
「確かにこれじゃあ同じ事だ。...........うんやっぱりそんなんだろう...........」小さな声で独り言を呟く。
ソフィアは団長から目を離し鉄格子の中に座り込む小さな身体を見つめる。
すると隣から小さな咳払いが聞こえる。
「話を進めよう。君に頼みたいのはこの子の...........レミアの話し相手になって欲しいんだ」
「どうして...........わざわざこんな所に閉じ込めるなら、解放してやれば!」
ソフィアは再び怒鳴る。
しかしそれを遮るように団長が大きな声で言う。
「私が!...........私がこんな事を望むと思うのか」
鉄格子に拳を叩きつける。骨と金属がぶつかる痛々しい音が狭い廊下に響き渡る。
するとびくりとそれに驚いたのかレミアが一瞬だけ震える。
団長が放った言葉は狭い廊下に反響ししばらくの間聞こえ続けていた。
その後団長は我に帰ったかのように目を見開くと「すまない、取り乱した」とソフィアと目を合わせず言う。
「いえ...........あなたがこんな事するわけないですもんね、こちらこそすいません」ソフィアもそんな団長の姿に多少の冷静さを取り戻したのか謝る。
そんなソフィアの素直な言葉に若干自嘲的な皮肉気な笑みを浮かべる。
「まあ話を戻すよ。さっきも言った通り君にはこの子の話し相手になって欲しい。」団長は気を取り直したのか少しだけいつもの口調が戻っていた。
「ちょっと私は離れるから、と言ってもすぐ側にいるけどね。
話しかけてくれないか。少しだけでいいから」団長はそう言うと何処からか蝋燭を取り出しそれに魔法で火をつけ床に置く。そしてソフィアの返事も聞かずに暗闇の中へと姿を消す。
とは言っても気配はすぐ近くに感じるのでそう遠くへは行っていないのだろう。
ソフィアはそんなよくわからない団長の気遣いに多少の感謝をしながら鉄格子に向かい合う。
すると先程まで下を向いていたレミアが顔を上げ、しなだれかかる前髪の間から小さな目を覗かせていた。
「私、ソフィア=パール...........」ソフィアは特に何の前置きも置かずに自分の名前を発する。どこか慌てたようなさっきまである程度冷静だった彼女とは思えないほど動揺していた。
しかし彼女は名前を言うのを途中でやめてしまう。
瞳があったからだ。
彼女の真っ赤に充血し傷だらけの白目とその中心にある透明な水晶体とその奥に輝きを放つ碧い瞳。
その目がソフィアに訴えるのはたった一つの感情。
殺して
ソフィアは見たことがなかった。それほどに死を渇望した目を、生を手放したいと欲する瞳を。
ソフィアは唇を噛む。情けない自分を悔やんで。唯の初対面の何の関係もない赤の他人。なのにその感情はどこか理解できる気がした。
ーーもしかしたら私もあんな目を...........。
ソフィアが思い出すのはベルが殺されて瀕死になって、空の上で諦めようと思ったときのこと。
ーーあの時私はベルさんになんて言われたんだっけ。夢のことっていうのはすぐに忘れてしまう。
でも何か言われたからこそ私はこうして生きている。それは事実だ。
だったら私は何を言われたい。どう声をかけてもらいたい。死にたいと思ったときにどう接しられたい。
でもそんなことわかるはずもない。
そうわからない。どうやっても人の心などわかるはずもないのだから。
だったらわからなくていい。わかろうとしなくてもいい。
唯の『普通』を伝えよう。もし私がこんな可愛い子に出会ったらどう声をかけるか、唯それだけでいい。
「こんにちは」修道女として培った相手を安心させる笑顔で。
「初めまして。私はソフィア=パールボルト。気軽にソフィアちゃんって呼んでね」若干キャラぶれしたお茶目な言葉。
しかしそんな言葉にもレミアは冷たい目を向けるだけで何の反応も示さない。
ーーくっこの根暗が。だがいい、この子供を預からせるのが最も不安になる修道女ランキングダントツ一位の私が(今作った)色んな悪い事を吹き込んでやろう。
趣旨が変わってるような感じがするがそれは置いておくことにしよう。
「じゃああなたの名前を教えてくれないかな?」しゃがみ込み相手と同じ目線に合わせるソフィア。そうすると相手の目がよく見える。ソフィアの長年の(14歳)経験からレミアは多少なりとこちらに興味があると見た。
「それじゃあ私が勝手につけちゃおうか」ソフィアはそう言うと考えるように自分の手を見る。
「うーんパッと思いつくのは...........可愛子ちゃん、根暗ちゃん、碧眼ちゃん...........」彼女は指を折りながら何個か名前を挙げていく。まあこれではニックネームのようなものだが。
そしてそうやって一つ名前を挙げるたびにチラチラと彼女の瞳を盗み見る。
呆れたような、何言ってんだこいつ、みたいな目だった。
「茶目っ気ちゃん、貧乳ちゃん、おチビちゃん...........」
するとソフィアが最後に言った名前に彼女はわずかに反応する。
瞳には何の変化もないが僅かに耳がピクピクと震える。
そんな小さな動きをソフィアは決して見逃さなかった。
「うーんどれにしようかなー」ソフィアはわざとらしく腕を組み悩む素振りを見せる。
「うーんやっぱり見た目的にも」ソフィアはことさら見た目的にもという言葉を強く言う。
「おチビちゃんが一番いいかなぁって思うんだけどどうかな?」ニヤニヤと笑みを入れながらそう言う。
そう言うとレミアの耳は一層ピクピクと動き瞼が怒ったように細められていた。
「いいと思うんだよね」ソフィアはそんなわかりやすい反応についにやけ顏が抑えられない。「だってその方が可愛いし、その身長にも合ってるし」
そう言って彼女の顔を見る。ポーカーフェイスを貫いているが為逆に他の動きに感情がよく表れる。
するとソフィアに見られていることに気づいたのか彼女は小さな口を僅かに開く。
殆ど歯のない、真っ赤に腫れ上がった歯茎、残った僅かな永久歯は真っ黒に染めあがっていた。
そんなのを見てしまったソフィアだったが取り乱さずじっと彼女を見つめる。
唇が動く。声帯は震わせず、息も吐かず、唯唇だけを動かす。
「レミア」
そう唇を動かすと彼女はプイッと目線を外し顔を隠す。
その顔は諦めと悲しさに溢れていた。
そんな彼女の声にならない言葉はまるでそう呼ばれることを求めるような叫びにソフィアは聞こえた。
「そっか、レミアか」
そう言うとレミアは身体の動きをピタリと止める。間違いなく、初めてソフィアの言葉に全力で耳を傾けている。
「『純潔』だったかしら、それから『清純』『純粋』それに回り回って『潔癖症』なんて意味もあったよね確か」ソフィアが微笑みながら言う。
「私なんか、もろ宗教家ですよみたいな名前だしさ、...........レミアみたいな愛が篭った名前が羨ましい」
優しい言葉。
皮肉にも聞こえるかもしれない言葉だが、ソフィアの口から紡がれる言葉は柔らかく包み込むような親しげな声だった。
レミアは唯黙っていた。身体を微動だにせず、ソフィアの言葉を神のお告げを聞いているかのように傾聴している。レミアが久しぶりに感じた同情以外の優しさ。
余りにも懐かしく、余りにも心に響き渡るその言葉。
ソフィアが息を吸うのが聞こえる。
「でもやっぱりおチビちゃんの方が可愛いいいわーーー」
「結局そっちに行き着くんかい!......................あ」
レミアは慌てて両手で口を塞ぐ。だんだんと頰が紅潮していく。
そんなレミアをソフィアは勝ち誇った表情で見つめる。
響いたのはソフィアでも団長でもない。
幼い女の子特有の高くて黄色い声。まるでカナリアのように澄んだ一点の濁りもない美しい音色。
「綺麗な声ね、カナリアちゃんでも良かったかも」
そう言うソフィアの声には馬鹿にしたような響きは微塵もない。
純粋な声にますます顔を赤くするレミア。
これではまるでからかいながら褒める彼氏とそれに赤面する彼女のようだった。
「それじゃあ綺麗な声も聞けたし」そう言うとソフィアは蝋燭を手に持つ。不思議な熱くない火がゆらりと揺れる。「戻るとするわ」そう言って立ち上がる。
するとレミアは少し寂しげな目を向ける。
「また来るわ」視線を感じ取ったのか目を向けずに言う。
「お休み、レミア」
そう言って鉄格子から離れ廊下を歩くソフィア。
残されたレミアは寂しさと期待と悲しみが入り混じった複雑な表情を浮かべていた。
「てゆーか私さっき起きたんだけど」
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廊下を歩き続ける。手に持っているのは小さな蝋燭。オレンジ色の小さな弱々しい光が暗い長い廊下を照らしている。明るいのはほんの少し。一寸先は闇、たとえ千里続こうとも消えることのない常闇。
それを一歩一歩歩くのはどれほど勇気がいるのか今リアルに実感できた。
彼女は歩むのをやめ立ち止まる。火が揺れ彼女の影がわずかに揺れる。
彼女は背後を振り返る。もう後ろは何事もなかったかのような漆黒だけ。
明けない夜の中にどれ程の時間居たのだろうか。消えない闇の中でどんな気持ちだったのだろうか。
気が狂ってしまいそうだ。
ふと自分の頬を伝う暖かい温もりに気づく。
床に落ち、丸いシミを作る。
ーー最低だ。私に、私なんかに泣く権利なんか無いのに。
だがそう思うとも溢れ出た涙は止まらない。
同情の涙なんてしないと思ってた。本で見てもこんな最低な感情はないと思ってた。
でも実際に目の当たりにしたらどうしても止まらない。
最低だ。最低だ。
涙する自分を嫌悪し、嫌悪する自分を情けなく思い、情けなく思う自分を蔑む。
彼女は目を擦り涙を誤魔化す。腫れた瞼は隠しようが無いが涙を見せるなんて恥ずかしいことはできない。
何回か目を擦ると涙腺から大粒の涙が数滴落ちる。
涙に濡れた自分の手を見つめる。
汚れていない清潔な手。比べてはいけないとわかっているのに、それは偽善であり同情の心であると知っているのに。
ーーこの偽善者が
それは自分に向けられた刃。
自分で自分に突きつけた黒い枷。
ーーついで
たくさんの重たい鎖が巻きつく彼女の心に、今、初めて自分でつけた黒い枷。
ーーそう、ついで。優先順位は最下位でいい。ほんの付け足し。付属してくるならそれでいい。
枷は心にぶら下がる。鎖に付属する事なく独立してそれ自身で。深く深く、最も古く最も大きな鎖と同じ場所に、圧倒的に小さなそれは食い込んでいく。
彼女は歩き出す。
その顔には既に涙は光っていなかった。