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11話

この二人は第32代教皇直属聖騎士団の団長と副団長らしい。

因みに今ソフィアは食事を摂ったのちに眠たい瞼を擦りながら彼らのうるさい自己紹介を聴いていた。


「私はメミヌス=カレイア。この騎士団の団長を務めている。んん、好きな事はからかう事。嫌いな事はネガティヴな事かな」

そう言うと彼女は(彼?)セミロングの光沢のある黒髪にさらりと手を通す。

彼女の(彼)瞳は紫水のような透き通った紫色だった。それがカラーコンタクトなどではないというのはソフィアの鋭い目には簡単に理解できた。

ーー女の敵め。見るからに綺麗と言える容姿に四肢も女性らしいふっくらとしていて胸も...........うんあんまり大きくないや。この人とは仲良くできそうだ。


「それで隣にいる心の奥底まで冴えないで塗り固められているような男は.................................副団長君だ」


「おいなんだ今のタメは!、そして覚えていないんかい!」

二言目で思いっきり団長の頭を叩く副団長。


「いったいなー、副団長君最近私の扱いが雑じゃない?」


「うるさいです」ともう一回叩く副団長。

そしてソフィアに向かい合い自己紹介を始める副団長。

短く切った茶色い髪、少し不安げな薄い瞳、女性に慣れていないのかソフィアを目の前にすると緊張して目をそらす。


「あ、あのその」さっきまで団長に強く接していたのに急に遠慮がちなオドオドとした口調となる。

「わ、わたすの」


(噛んだ)


彼は自分の失態を理解すると一気に顔を赤くする。


これでは女性に慣れていないというレベルでは済まされないのでないのだろうか。というかこれでは結婚なんてできるわけない。

そう心の中で思うソフィア。顔に走るシワやほんの少しだけ加齢臭の臭う彼の衣服を見て結構な年を取っているのだろうと容易に想像できる。


少々気の毒そうな視線を彼に向けながら、そしてそれによくわかるぞと頷く団長を無視しながら、ソフィアは声をかけてみる。


「あの、私の名前はソフィア=パールボルトっていいます」

ソフィアはここで今まであんまり使ってこなかった女の武器とかいうのを使ってみようと思った。

(確か少しオドオドとした感じで上目遣いに見上げればよかったんだっけか)


ソフィアは誰に教わったわけでもなく...........というかベルに教わったことなのだが思い出す。ベルは男に襲われたとか男と交渉するときはこうしたりするのが有効だと言っていた。ところがずっと力技でどうにか出来てしまっていたソフィアにとってはこういうのは初めてだった。


「あの、失礼かもしれませんが」ちょっと俯き、手を弄りながらモジモジと言う。そして少し間を置く。これによって意を決して頑張っているという雰囲気が増す。

すると「は、はい!」と緊張した声が聞こえる。それを聴いて内心笑いが込み上げる。

(やばっ、面白い)


「お名前を教えていただいても宜しいですか?」そして一気に顔を挙げて必死の目力で彼の瞳を真っ直ぐ見つめる。


すると彼は急に目を不規則に泳がせたかと思うと顔を赤いどころか紫色まで変化させる。そして口をパクパクさせながら突っ立ている。


「あの、大丈夫ですか?」流石にソフィアもどうしたらよいかわからず身体を起こし前屈みの状態になる。

すると薄く大きめの服が垂れ彼女の女性らしい膨らみが見える。

その瞬間、彼は脳のキャパシティーが超えたのか後ろ向きにばたりと倒れる。


一瞬静まり返る。ソフィアは起こったことがよく分からず口を開けてポカンとしている。


「...................驚いたな」そんな中団長が立ち上がる。「君は私が今まで見てきたどの風俗嬢よりも小悪魔だ」団長は立ち上がり倒れた副団長のほっぺを突きながら言う。


「いや私もまさかこうなるとは...........というか流石にその例えは失礼すぎます」呆然としながらもツッコミは欠かさないソフィア。


それを聞いた団長はまた吹き出す。

「...........いや、すまない。君ももう回復したみたいだしそろそろ自分の事や島のことも聞きたいだろう」

笑いが収まるのを待って団長はソフィアが寝ているベッドの隣に腰掛ける。

「食事中にも話したことだが君がこの船に運ばれてきてから既に5日が経過している」

先ほどと同じように明るい気さくな声だがどこか真剣な雰囲気が含まれている。


「あ、その食事中はあんまり...........その」一方ソフィアは何か恥ずかしことを思い出したかのように顔を赤くする。


「ははは、そりゃ5日も何も食べてなかったらがっつきたくなるというものだ。気にするな」団長はそう言うとソフィアの背中をバンと叩く。薄いTーシャツの生地は殆ど素肌と変わらず叩いた衝撃波がダイレクトに伝わる。


「おっと、すまない」

叩かれた背中を抑え項垂れるソフィアに特に悪びれもなく謝る団長。


「君が普通の女の子だと言うことを忘れてしまっていたようだ。男共は頑丈だということか」自分の手を見ながらブツブツと独り言を言う団長。

「まあいい。話を戻すが」団長はそう言うとソフィアの目を真っ直ぐ見る。

「今君は絶賛治療中だ。療養してもらうし、薬も飲んでもらう。まあ細かいところは副団長君に聞いてくれ。彼はこう見えて一級の医師だ。彼の腕は私が保証する」

そう言うと団長は自分の胸をどんと叩く。筋肉質の硬い胸板を叩く音がした。ソフィアがこの人の性別がをちょっと気にした瞬間だった。


「あの、こんな地味なのじゃなくて、その魔法とかで治して頂けないんでしょうか」図々しい質問だとはわかっていたが、そうした方が傷も早く治癒し、副団長の手間も減るはずだとも思った。

しかし彼女のその問いかけ対し団長は面白いものを見るかのように苦笑すると話し出す。

「私も同じことを言ったさ。でもね。副団長君曰く、魔法で無理矢理治癒させるのは自然じゃないんだと。自然治癒を待ったほうが体への負担が少ないらしいからね」


そう言う団長にあまり納得のいかない表情で相槌打つソフィア。


それを見た団長はまた苦笑すると「まあ長い目で見たらいいらしいな。どうやら私も君も少々短絡的な所があるようだ」と威勢よく言う。

「まあそんなことだから我慢してくれ。君の世話は副団長君がどうにかしてくれるだろうし」


団長はそう言うとソフィアの返事も聞かず話を進める。

「それから島での事を聞きたいんだけど。まあ君も結論から聴きたいだろう」


団長はそう言うと途端に深刻そうな顔をする。

「直球で言うとね、島は沈んだ。君も見たと思うが恐らくあの巨大な化け物が原因だろうと...........」


「ちょ、ちょっと待ってください」団長が一方的に話を進めるのを手で制す。

「島が...........沈んだ?そんな事って」


「ああ、驚くのも無理はない。常識的に考えてそんな事有り得ないからな」

そう言うと手を交差させそこに顎を乗せ彼女に顔を近づける。

「だから君に聞きたいんだ。君はあの島での唯一の生存者だからね」


そう言った彼の目は相変わらず気さくで優しげだ。しかし瞳の奥には人の心を見透かそうとする強かな光がある。


ソフィアは頭の中でできるだけ自分が不利にならないような嘘を考える。生き残りだと言っていたが実際は巨大な鳥の背中に乗って海の上を飛んでいただけだ。それが彼らにとって普通なのかどうかは知らないが伏せておくのに越したことはないだろう。

あのペンのことも、もしかしたらオリガのように攻撃してくるかもしれない。


ペン


彼女は唐突に思い出す。今自分の手元にはペンはない。そう言えばあの白い変なのに襲われてからどこにやったのだろうか。もしあそこで落としてしまっていたら。もう沈んでしまったのではないのだろうか。


そう思ってしまったのが顔に出てしまったのか、団長は言い忘れていたと言うと白い布に包まれた細長い棒状の物を渡してくる。



「これは君の物かな。すまない少し渡すタイミングが掴めなくて」

団長は申し訳なさそうに言う。


ソフィアはそれを聞いてほっと息を吐く。取り敢えず武器は無くなっていない。


しかし団長から布に隠れたペンを受け取り布を開きそれに触った時、彼女は奇妙な違和感を覚える。


ーー違う


朱銀色の美しい光沢をたたえた精巧な唯一無二のベルの形見。ソフィアに魔法を使わせてくれたそのペンと全く同じ形同じ色同じ感触をしているのに、

何かが違う。


ソフィアはチラリと隣を見る。団長がさっきと同じ姿勢で彼女の姿を疑わしげな目で見つめていた。


ソフィアは試しにペンの上にある突起を押さえてみた。そうすることでペン先が開き中のインクが漏れ出る。

不審がられるだろうが慌てて押さえてしまったとかいろいろと言い訳ができる。というより今は偽物かどうかの判断の方が大事だ。


ペンの天辺を押さえる。すると真っ黒いインクがペン先の銀色の穂先から垂れ落ちる。


ソフィアはそれがベッドに落ちてしまわないように反対の手で受け止める。


「おいおい大丈夫か」団長は慌てて近くの引き出しから真っ白な清潔なガーゼを取り出しソフィアに渡す。


「ありがとうございます」ソフィアは礼を言いながらそのガーゼを受け取り黒くシミがついたような自分の手のひらを拭き始める。


その間ソフィアは拭くのに集中するフリをしながら頭の中では考えを巡らしていた。


(このペンは偽物。なら本物は...........持ってるよな、捏造できてるんだし)


彼女は手の黒いインクを拭き終えるとそれによって黒ずんだガーゼを団長が受け取る。


「あれだな」受け取ったガーゼを捨てることはせず人差し指と親指の間でクルクルと丸め始める。「ペンを久しぶりに持つとインクを出したくなるというものだ、うん」団長はそう勝手に納得すると手にあった丸まったガーゼを親指で弾きゴミ箱に飛ばす。


(なんの意図が...........ってあのペンはあんなんだし調べたいってことか)


弾かれたガーゼは円形のゴミ箱の淵にあたり床に落ちる。


「おっと、こんなノーコンでは団長など務まらんな、いや団員には内緒に...........


「本物はどこですか」ソフィアは単刀直入にストライクど真ん中を狙う。


すると部屋の雰囲気はまるで暖かいコーヒーの中に冷たい牛乳を入れたように一気に変化していく。


「気づかれたか」


「ええ」そう言うとソフィアは朱銀色のペンをゴミ箱の中に放る。本物と瓜二つのペンはゴミ箱の中に吸い込まれるように入る。


「おいおい、結構作るのに苦労したんだぞ」それを見た団長は苦笑いしながら立ち上がりゴミ箱の中のペンを拾い上げる。


「早く返してくれませんか?」団長の言葉など無かったかのように話すソフィア。


「そうはいかない。君はあれの価値...........いや危険性がわかっていないだろう」団長は偽物の朱銀色のペンを手の中で回しながら言う。その声はどこまでも深く重苦しい声だった。


「さあ?私にはあれがどういうものかはわかりません」ソフィアはさらりと嘘をつく。ここでわかっていると言ったとしても状況が良くなるとは思えない。それならこちらの手の内はできるだけ明かさないほうがいいと思ったからだ。


「あれは...........恐らくだが魔法具なんて言葉で片付けていい代物などではない」そう言う団長の声は暗く影を落としていた。


「私は一度だけあれと同じ雰囲気を持った物を見たことがある」そう言う団長の声はすっかり興奮していた。


「それは私が《ガイアの主》を討伐した時、その体内から出てきた物だ」


ガイアの主とは未開拓地域にいるという巨大な怪物のことだった。それは存在するだけで災害となり災厄となる。

ソフィアも本でしか読んだことはないが、一国の軍隊の全兵力を用いても勝てるかどうかわからないと言われそれを倒した者は英雄と呼ばれる。


それを倒したと言うのだから団長の実力は相当のものなのだろう。

その人がこれだけ興奮して言うのだからあのペンは一体どれだけの力があるのだろうか。


「それは、単なるナイフだった」


「え?」ソフィアは拍子抜けしたような声を上げる。聞き間違えでないだろうか。


「それも人を殺傷するのにはとても適してるとは言えない。そうだな例えるならばキッチンにある包丁をもっと小さくしたものかな」

団長が分かりやすく言うとソフィアは何となくそれが想像できた。


「それに、どんな力があったんですか?」ソフィアは努めて好奇心から聞いているという雰囲気を含めて言う。


団長は嫌なことを思い出すように顔を歪める。自嘲的な笑みと言った方が良いのかもしれない。


「扉だよ、真っ黒い、ただの扉。それがナイフから出たんだ」


団長の言葉は悲壮感に満ちていた。


「そしたらそれはあらゆる物を吸い込んだんだ。周りの魔物も植物も、それに...........仲間も」最後の言葉は絞り出すような声。


「だから私はあれを封印した。絶対に人が使わないようにね」


そう言うと団長は口を閉じる。偽物の朱銀色のペンを見つめながら過去の事を思い出すように黙っている。


ソフィアは驚いていた。自分が手にしたペンがそれほどのものだということに。今まで彼女はそれを使い勝手のいい便利な道具としてしか見てなかった。それが物凄い力を持っていたとなると。


布団の端を握りしめ震えるソフィアの手。


「無理もない」その震えを恐怖によるものだと思った団長は気遣わしげに声を掛ける。


しかしソフィアの心にあったのはそんな感情ではない。

「ええ、すいません」

ソフィアの心にあったのは、

(すごい。そんな強い力があるなんてすごい)

感嘆というある意味では正常の、またある意味では異常な感情だった。


「だからあのペンは君に返せない。またあんなことになるのはごめんだからね」


「...........はい、分かりました」名残惜しそうに引きずっているように聞こえるように言う。


それを聴いた団長は嬉しそうに頷くとペンをゴミ箱に投げ捨てる。


「さて、それじゃあ島でのことに話を戻そうか。あんまり思い出したくないことだと思うけど...........ごめんね」


「ええ、わかっています」ソフィアは素直に頷く。

そして彼女は島でのことをできるうる限り真実に近いことを言う。

勿論魔法と関わったことは伏せておいた。ソフィアが魔法の犠牲となったか弱い少女という設定になるように、そしてできるだけ団長と仲良くなれるように努めた。


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