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ある日男子工校生は学者様になりました。

 

 どれほど経っただろうか・・・

 日が落ち、辺りはすっかり暗くなってしまった。


 小麦色のおっさんの使命を果たすべく、レガルド帝国を目指して草原をただひたすら歩いていた訳だが、全くたどり着く気配すらない。

 一応、バスケ部に所属していたこともあって体力には自身があったが、さすがにキツイ。

 今朝から何も食べていないことも重なって、頭がクラクラしてきた。


「・・・はぁ、とりあえず明るくなるまでここで休むことにしよう」


 広大な草原にポツンと生えていた大きな木の下に腰をかけ目を閉じる・・・・・・








「・・・おい、おい、大丈夫か?」

 誰かの声で目が覚める。


 日が昇っていた。

 どうやら眠っていたみたいだ。


 そして目の前には、銀色に輝く甲冑を装備した若い男性の姿があった。

 横には、馬もいる。


「・・・え、ええ、まぁ」


 曖昧な返答をすると、眉間にしわを寄せ疑いの眼差しで男は俺を眺める。


「見ない服装だな・・・お前、どこの国からきた?」


 怪しまれるのも無理ないだろう。実習中にいきなりこの世界に来た俺は、作業着に白衣を羽織った状態なのだから。

 少なくともこんなところで殺されるのだけはゴメンだ。上手いこと言って誤魔化す他ないな・・・


「実は、遥か南の方の国からきて、この周辺の自然環境の調査に来ていたのだが、山賊の襲撃にあってな・・・」


 こんなありきたりの作り話で、果たして誤魔化せるのか?・・・


「・・・環境の調査?ほう、ということは学者様か?」


 ・・・誤魔化せた。どうやらこの男はよほどのバカらしい。


「そうだ。これでも南では結構有名な学者なんだ」


「やはり学者様か!実は、我が国で学者が不足していて、古代文書の解読作業が難航していたところなんだ。それで、相談なんだが良ければ少し力を貸してはくれないか?」


「自分でよければ是非!」


 即答だった。

 こんな状況で、今日もこんなだだっ広い草原を歩いていたら間違いなく死ぬ!

 古代文書の解読だがなんだか知らんが、とりあえずこのバカ男に助けてもらうのが最善だ。


「そうか!それじゃ、我が国レガルド帝国へ早速出発だ。」


 馬に跨った。男の口からレガルド帝国という言葉が出てきた。

 まさかとは思っていたが、やはりそうだったか・・・これは、とんでもない幸運だったな。

 俺も馬に跨り、男の腰を掴む・・・


 馬に男が2人乗りって、なんだが画にならないな・・・

 そんなことを思いながら、馬は走りだした。







 走り出してから、数時間でレガルド帝国に到着した。

 やはり、馬は速い!

 というより、まさかこんなに早く目的地にたどり着けるとは正直思っていなかった・・・

 まぁ、なにはともあれ着いたんだ!よしとしよう!


 男は、帝国入り口の検問所らしきところで番をしている男と同じ甲冑を装備した兵隊となにやら話しをしている。

 俺は、男から少し離れたところで馬と並んで立っている。

 しばらくすると男は、こちらに歩いてきた。


「・・・すまない、本当に学者様なのか怪しまれてしまってな・・・・何か証拠になるようなものを持っていないか?」


 一つ言っておく、お前がバカなだけだ!ともあれ常識ある兵隊もいるみたいだ・・・

 こんな格好で、怪しまれない訳がない・・・


「証拠・・・」


 俺は、作業服のポケットを探る...

 中には、黒マジックにボールペン、カッターナイフに小型の着火マン、キシリトールの粒ガムと小銭と課題研究で使った野菜の種が少々入っているだけだった。

 胸ポケットに手を入れると実習内容をメモする為の手帳が入っていた。

 手帳の中をパラパラめくり確認してみる・・・・使えそうだ。


「こんなものでよければ」


 男に手帳を渡すと、男は検問所へ走っていった。

 またさっきの兵隊と何か話している・・・


 しばらくすると満面の笑みを浮かべながら男は戻ってきた。


「この手帳の中の文字、これは古代文字ですな!!やはり本物でしたか!」


 ・・・手帳の中には、ボイラーの仕組みだの製図だの酵母菌だのの最近やった実習の内容しか書いていなかったはずだが・・・・

 この世界は、言葉は通じるのに文字は違うのか?


「・・・すまないが、ここに名前を書いてみてくれ」


 試しに男に名前を書かせてみた・・・

 男は、手帳の端に見たことの無い文字を書き始めた。


「・・・できた!アルフレッドだ!アルでいい」


 ・・・アルフレッド?

 書かれた文字を再度見直し、理解した。

 この世界の文字は、アルファベットがそのまま逆になっている!つまり、アルファベッドの『U』が逆さまになって山の様になっている状態である。

 この法則を理解していれば、この世界の文字は読めそうだ。



 アルに案内され、レガルド帝国城下街を歩く。

 正面には、まるで『シン〇レラ城』を思わせる巨大な城がたたずんでいる。

 俺達は、その城を目指して歩いている訳だが、街の人々の注目の的となっていた・・・

 作業服に白衣を羽織ったわけ分からん男が歩いていたら、それはさぞかし気になることだろう・・・

 人々の視線を感じながら、しばらく歩くと城門前までたどり着いた。



「まず、国王様に挨拶に伺う。いいか、決して無礼のないようにな!」


 顔を近づけ、忠告するアル。

 一体どんなに恐ろしい国王なのやら・・・


 アルが先頭を歩き、俺を城内へ導いてゆく

 城内は、赤を基調とした豪華な装飾品があちこちにあり、国の権力の大きさを示していた。

 正面の階段を上へ上へと上がっていく・・・

 やがて、大きくていかにも頑丈そうな扉の前に行き当たった。扉の左右には兵隊もいる。

 多分ここが、国王の部屋なのだろう


「ここが、国王様の部屋だ。では行くぞ」


 やはりな・・・

 緊張からか足と手が一緒になっているアル・・・

 大丈夫か?コイツ・・・


 中に入ると、黄金の装飾がされてある大きな椅子に腰かけている小太りのおっさんがいた。

 隣には、丁寧に切り揃えられた長い黒髪をした少女が立っている。

 そして、部屋の左右にはずらりと甲冑を装備した兵隊が並んでいた。


「おう、アルフレッドか。話は聞いておる」

 椅子に腰掛けるおっさんがいう。


「はっ、ここに古代文字の解読が可能な学者様をお連れいたしました!!」

 おっさんの前で片膝をつき、胸に片手をあて言うアル。

 こいつが国王か・・・


「口で言うのは簡単じゃ。証拠を見せてもらおう。ここに先日占領した『アシュバル王国』の国宝である竜の石版がある。この石版に刻まれた古代文字を解読してもらおう。」

 国王の発言に、急にうつむき涙を流す国王の隣に立つ黒髪の少女。


「どうした?故郷が恋しいか?フッ、アハハハハッ」

 隣に立つ少女に向け高笑いを上げる国王。



 ・・・昨日占領した王国?昨日会った小麦色のおっさんの国のことなのか?

 いや、こんなに巨大な帝国だ。昨日占領した国がいくつあってもおかしくはない・・・

 もし、小麦色のおっさんの国なら多分あの国王の隣で泣いているのが、目的の人物である可能性が高い!


「はっ、すぐに解読して見せましょう!!・・・さっ、学者様!どうぞ!」

 石版を俺に渡すアル。


 石版を手に取り眺める・・・

『ワレ、ダイチヲスベルリュウナリ。ワレ、エラバレシモノガクルマデココニネムル。ソノモノココニチデナヲコクインセヨ。』

 と刻まれていた。

 ・・・字が読める時点で、その選らばれし者なんじゃないのか?というより、この状況でやってみる他選択肢は残っていなかった。

 なぜなら、左右の兵士が槍を構えて俺を方位しているのだから・・・

 おそらく、俺がこの文字を読めずに学者の証明ができなかった場合、即殺されるのだろう・・・まったくなんて残虐な帝国なんだ。


 俺は、作業服のポケットの中からカッターナイフを出し、先端を親指に当て少し血を出し石版の空白の部分に『涼』と書いた。

 その瞬間、石版が激しく発光し当たり一面真っ白になった。



 気がつくと俺は、空を飛んでいた。・・・・空?ええええええええええええ!!!!!?

 ゴツゴツとした岩のような何かの上に座っている。


「ハハハッ、驚いているようだな涼。お前は今俺の背中に乗っている。俺がデカ過ぎて状況が理解できてないみたいだな」

 俺の頭に声が聞こえてくる。


「ちょっと待て、ってことは、今の声は竜の声で俺はその背中に乗ってるってことなのか!?」


「そういうことだ。下を見てみろ」


 岩肌を右に移動し、下を眺める・・・

 城の天井が無い。どうやらこの竜が天井を突き破ったらしい・・・

 国王は、あんぐりと口を開けたまま上空を眺めていた。隣には目的の人物かもしれない少女・・・


「なぁ、あの女の子を連れて逃げたいんだが、可能か?」


「お安い御用だ。少し揺れるぞ」

 瞬間、凄い勢いで降下した。

 少しどころか大分激しく揺れている・・・


 竜は巨大な尾の先端で少女を包み、そのまま上空に上げ俺の横に降ろした。

 そして、そのまま上昇しレガルド帝国を去ることに成功した。


「・・・えっと、なぜ私を?」


 何が起きているのか分からず、ポカンとしている黒髪少女。


「先日、娘を助けてくれって小麦色をしたおっさんに言われて、異世界からこの世界に召還されたんだけど、もしかして君がその娘さんじゃないかなって思ってね・・・」


 俺は、自分で何を言ってるんだか半分分からなかった・・・

 異世界から召還されただの、小麦色のおっさんだの・・・ってか小麦色のおっさんって誰だよ!?名前ぐらい聞いておくんだったな・・・


「小麦色?・・・父かもしれません。私、『アシュバル王国』の国王の娘なんです。私の国はレガルド帝国に占領されて、土地も友達も母親もみんな殺されてしまいました・・・父は私だけを逃がしてくれたんですが、結局捕まってしまって・・・」


 国王!?あのおっさん国王だったの!?

 友達も親も殺されたって、覚悟はしていたが大分ヘビーだなおい・・・


「おっと、止まってくれ!確かこの辺り・・・」

 竜は、昨日小麦色のおっさんと出合った地点の上空を通りかかった。

 下を見ると、甲冑を装備した兵士の死体がゴロゴロ転がっていた・・・

 その中に一人、大きな岩に座っている人がいた・・・おっさんだ!


 竜に降りるように伝えると、降下を始めた。


「お父様!!!」


 小麦色のおっさんに泣きつく少女。

 やはり、目的の少女だったようだ。よかった。


「・・・少年よ、君ならやってくれると信じていた。ありがとう・・・ん?その竜は!?」


「この方が、国宝の竜の石版を解読して召還したのよ。信じられないわ・・・というよりお父様が、この方を異世界に召還したって本当なの?」


 泣きついていた黒髪少女が、泣き止みスッと父親から離れて説明する。


「ああ、・・・あれを使ったんだ」


「あれって、まさか『虚無転生インビシブルアーク』!?」


「・・・お前を助ける為ならどんな手段だって使う!それが親というものだ!!・・・召還されたのが君で本当によかった。」

 俺に視線を向けるおっさん。横で号泣する黒髪少女。

 ってか、なんで泣いてる?意味が分からん。


「それで、娘さんを助けたので元の世界に返してもらえるんですよね?」

 おっさんに問う。


「ああ、少し待っていろ。今帰してやる・・・」


 おっさんが立ち上がる・・・


「ちょっと待って!!!」


 少女がおっさんを止める。


「いいんだ。私の命も残り少ない・・・それに彼には十分頑張ってもらった。」


「嫌っ!!絶対嫌っ!!私を一人にしないで!!!」

 泣きつく少女。

 ん?なんかおっさんが今すぐにでも死ぬみたいな深刻な状況になってるぞ?


「ちょっと待った!えっと、俺が異世界に帰ったらおっさんが死ぬのか?」


「・・・ええ。『虚無転生インビシブルアーク』は、自分の寿命を削って異世界から人を召還する魔法なの。もう一回使ったら、お父様は・・・・」

 また泣き始める少女。

 ・・・帰れねぇーじゃん。俺・・・・・


「待て待て、死ぬとかそういうのは無しにしようぜ!他に方法はないのか?」


「何でも一つ願いが叶えられると言う『賢者の石』とかがあれば別だが、そんなの伝説上の話でしかない・・・」


「・・・この方は、伝説上の生物である竜を召還したのよ!『賢者の石』だってきっと見つけられるわ!!・・・お願い、父を殺さないで。」


 黒髪少女に上目使いでお願いされてしまった・・・

 大体、賢者の石ってなんだよ!?某映画でしか見たことねぇーぞ・・・

 それに殺さないで・・・なんて頼まれちまったらもうお終いだ。

 俺は、覚悟を決めた。


「分かった。何も今すぐ帰らないといけない訳でもないんだ。きっと『賢者の石』じゃなくても方法はあるはずだから、少しずつ帰る方法を探して見るよ」


 この時点で俺は、元の世界に戻るのを諦めた。


「・・・すまない。私は君に感謝してもしきれない。私がまだ国王だったなら、君に全てを託してもいいと思っていたのだが・・・」


 そうだ。このおっさん国王だったんだっけ?

 全てを託すか・・・・どうせこの世界で生きていかなきゃならないなら、自分の国を創ってみるのもいいかもな・・・・

 でも、俺に何ができる?

 後ろを振り返る・・・・そこには、翼を休める巨大な竜がいる。そうだよ、俺にはこいつがいるじゃないか!

 とりあえず、この竜を使えば占領された王国を奪還することはできそうだな・・・よし、まずそこからやってみるか!


「言ったなおっさん!今から奪われた王国を奪還しに行く!!できるよな?」

 後ろの竜に問いかける。


「俺は主の命令には忠実に従う。涼がそうしたいって言うなら全力で協力する。」

 心に竜の声が響く。


「帝国の戦力は膨大だ!おそらくこの大陸で5本の指に入るくらいに・・・できるのか?」


「できるさ!こいつがいれば。おっさんの故郷なんだろ・・・だったら取り返さないとだめだろ!」

 竜を指差し言う。

 なんか、自分でカッコイイこと言っておいて恥ずかしくなってきたぞ・・・・・・


「・・・少年。私はルーマス・アシュバル。おっさんでも何でも呼びやすいように呼んでくれ!迷惑ばかりかけてしまってすまぬ・・・」

 半泣き状態のおっさんが言う。


「私は、エリサ・アシュバル。エリサでいいです。・・・あなたには、感謝してもしきれません・・・・ありがとう」

 こちらは号泣状態。

 もう泣くのやめてくれよ・・・・


「俺は、佐渡 涼。りょうでいい。これからよろしく頼む!じゃ、行こう!」


 おっさんとエリサを竜の背に乗せ、おっさんの案内で占領された『アシュバル王国』を目指し竜は飛び立った。







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