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ある日男子工校生は小麦色の肌をしたおっさんに出会いました。(表紙絵あり)Noelleさん作

挿絵(By みてみん)




   風見工業高校 化学分析室


 クリーンベンチという無菌空間を作り出す装置の中に、70%のエチルアルコールで消毒した両腕を突っ込む。

 先ほどシャーレに流し込んだ培地が固まったのを確認し、コーンラージ棒で培地に菌を塗りこむ。

 俺、佐渡涼さどりょうは、放課後の化学分析室で無菌操作の補修授業をしていた。

 


 ・・・・・・っというのはつい先ほどの話。


 今俺は、雲一つない青空の下、広大な草原のど真ん中に立っている。

 これはどういうことだ?

 この状況になった経緯を端的に説明するとこうなる・・・


化学担当の教師に、試薬を取りに行ってきてくれと『薬品庫』の鍵を渡され、試薬を取りに行った。

 目的の試薬『次亜塩素酸』は冷蔵保存だと聞かされていたので、冷蔵庫を開け、中を確認するが試薬は無かった。

 諦めて、分析室に戻ろうと回れ右をした瞬間、視界が真っ暗になった。

 ・・・どうやら落とし穴に落ちたようだ。

 薬品庫にあるはずの無い落とし穴に落ちて、今に至るという意味不明な展開になっている。

 ・・・・・・この状況で、冷静でいられる自分が怖い。

 

 「うぉぉぉぉおおおお!!!」

 これは夢なのではないかと、自分の頬を抓ったり叩いたりしている時だった。

 俺が立っている両サイドから雄たけびのような声が聞こえた。

 左右を確認すると、ざっと数千はいるであろう兵が右サイドから、対照的に百人いるかいないか程の兵が左サイドから走ってきている。

 このままだと、ちょうど俺のいる位置で衝突する計算になる。


 ・・・まずいな

 そして、このバカみたいに広い草原である。

 隠れるところなんてありはしない。

 隠れるという選択肢は、捨てよう・・・

となると、残りは・・・

そんなことを考えているうちに、両サイドの軍はもうすぐそこまで迫っていた。


 俺は何を思ったのか、地面にうつ伏せになり、そこら中に生えている緑の雑草になりすましたつもりになった。

 あぁ、とうとう頭がイカれちまったか・・・

 

 しばらくすると、頭の上から、金属同士がぶつかり合う音が聞こえてきた。

 どうやら、始まったらしい・・・

うつ伏せになっていて状況が全く分からないが、誰も俺に気づいていないようだ。

 死体だと思われているのか、本当に雑草になりきるのに成功したのか、そんなことはもう、どっちでもよかった。

とにかく生きてる!




 何時間経っただろうか?

 辺りがだいぶ静かになった。


 そっと起き上がり、辺りを見・・・

息を呑んだ。

そこら中に死体が散乱していた。

 生の死体を見るのは、初めてだったが、俺の頭はいつも以上に冴えていた。

 そして、冷静だった。


「・・・・おい、そこの少年」

 俺の足元に仰向けに転がっていたおっさんに声を掛けられた。

 四十半ばくらいだろうか?いい感じに小麦色に焼けた肌をしている。

 

 「どうしました?」

 急に声を掛けられ、とっさに出た言葉がコレである・・・


「・・・君をこの世界に呼び出したのは、私なんだ。」

 血まみれのおっさんは、とても苦しそうに呻きながら、答える。

 

 ・・・ちょっと待て、俺は今凄い言葉を耳したぞ!ってことは、このおっさんのおかげで俺は今、いい迷惑をくらっているって訳か?

 冗談じゃねぇ!

 

 「おい!おっさん!その話が本当なら、今すぐ元の世界に返してもらおうか!」

 どういう理由があったとしても、異世界に連れ込むなんて犯罪と同じだ!


 「本当に悪いことをしたと思っている・・・・ただ一つ、一つだけでいい!私の願いを聞いてはくれんか!」

 そうとう苦しいのだろう、口から血を吐きながら、体を起こし土下座をするおっさん。

 はたから見た俺は、完全に悪人である・・・


聞くだけ聞いてやろうか・・・

どうせその願いとやらを聞かねぇーと、元の世界には戻れないのだから・・・


「なんだよ?」


 「・・・娘を、たった一人の娘を助けてくれ!娘は、レガルド帝国の奴等にさらわれてしまった。残酷な奴等のことだ・・・何をしでかすか分かったものではない!」

 出血の量が多すぎて、おっさんの目の色が霞んできた・・・


「分かった!分かったからもうしゃべるな!おっさん、あんたに死なれちゃ俺が困るんだよ!」

 このままだと確実に死ぬと確信した俺は、あっさり承諾してしまった。

 これもおっさんの策略だったのか?まぁいい、どっちにしろおっさんが死んだら俺は、永遠に元の世界に帰れなくなるのだから・・・


 「・・・あ、りが、とう」

 ドサッと地面に倒れ込むおっさん・・・


「おっさあああああああん!」

 おっさんの頬を叩く


 「・・・痛い痛い痛い!」

 反応があった。

 まだ生きていた!ってかなんでこいつニヤニヤしてんだ?

 頬を叩かれたおっさんは、なぜか笑顔だった。

 願いを引き受けてくれたことがよほど嬉かったのだろうか?ただの変態なのだろうか?・・・・・・


 「・・・今さっき戦っていた相手がまさにレガルド帝国だ。あの兵の後を追えば辿りつけるだろう・・・」

 目を閉じるおっさん

 ・・・・また死んだフリか?


 「おい、いい加減にしろよおっさん!」

 おっさんの胸ぐらを掴む・・・


反応がない・・・


寝てる・・・

寝てやがる・・・


 俺は、おっさんの頬を軽く一発叩いてから、レガルド帝国を目指し歩き出した。


あぁ、なんていい奴なんだ俺は・・・

俺は、自分で自分を褒めてやった。

そうでもしないとやってられなかった・・・

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