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怪奇拾遺集

みずおくれ

作者: 狂言巡

 それでは私、神風青空(かみかぜ あおぞら)がお話します。


 水が欲しいのです。……おや、意外ですね。海に囲まれた世界に住む君からまず賛同を受けるとは。

 ……誰が饂飩の話をしていますか。だからと言ってお鍋の話でもないですよ、食べ物の話じゃありません。

 しかし、そうですね。海が、母なる大海原が欲しかったとも言えます。山ばかり見て育ってきたせいでしょうか。或いは、建物に囲まれて生きてきたせいですかね。どちらにせよ、ある種の強迫観念に近いかもしれないです。内陸出身ならば、共感できる方もいらっしゃるんじゃないですか?

 飢えと渇きは、似ている様で全く違います。私の故郷は、お世辞にも肥沃な土地ではありませんでした。しかし幸いにも飢える事はなかったですよ、銀が少し出ていましたから。しかしながら……私にとって【渇き】に対する危機意識は、最早絶対恐怖と言ってもいいですね。邸内に湖があるとはいえ、周りは山という山に囲まれ、海へはそう気軽に出ることができません。

 ……違いますよ。海水は飲めないとか、そういう話ではないのです。飲み水は必要ですけれど、何も水は飲むことだけのものではないでしょう。

 洗濯、入浴、冷却。【晴天】を【天気が良い】と表現することは勝手ですけれど、私達生き物は、果たして晴れの日だけで生き延びることができますか?

 ……いつ、雨が降った時に私がハイテンションだったと言うのですか。言いがかりも甚だしいですね。もしくは偶然です。……いえ、まあ、確かにそうなんですよ。私としては晴天よりは雨天の方が、気分がいいことは認めますけれど。それが、どんな状況下であろうとね。

 とはいっても、天候によって気分が左右されるのは、何も私だけのことではないんじゃないですか。君達も晴天の日は、テンションマックスでどこかに出かけることもままあるのではないですか。ないですか? そうですか……いいえ、君の晴天の日の過ごし方に興味はないので説明は結構です。今のは単なる例えですから。

 要するに、雨は正に天から恵みです。雨が降っているというだけで、例えば面倒な仕事に積極的に取り掛かる気がおきたり、下らないトラブルも綺麗に流すことができたり、誰かを眼をかけてみたり……自分自身でも思いがけない行動をとってしまうものですよ。

 ……ああ、そういえば、君と初めて逢った時も雨が降っていましたね。……いえいえ別に、雨の日だったからという理由で助けたわけではないのですよ?

 想像してみて下さい。

 雨水、海水、血液、紅茶や珈琲。皆さん、咽喉が渇いてきませんか? 汗は? 涙は? 大丈夫なのですか? こんなにも暑いというのに。


 ……昔、ロシア人が水道管を欲しがったことが、今ならわかる気がしますね。

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