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世にも不思議な

作者: 森本 義久

一生自分には 無いと思っていた 時間と 自由が出来た。


貴方は どうしますか?


旅 私は自転車の旅に出ました。


さて クライマックスが 分かりますか?

2013・05・23(木)  日本真ん中の旅




AM 5:30


「じゃ 行って来ます 」


折り畳み自転車の入った輪行バッグと 着替えの入ったメッセンジャーバッグを背負って  人影もまばらな 早朝の清澄白河駅に向かった。



「行ってらっしゃ〜い  」  の後に  「 いつ頃帰るの?  」 


「ああ・・・・ 嫌になったら・・  」


「だいたいどのくらい?  」 「 とりあえず 1週間は帰らない  」


そんな会話を交わして 人生初めての  自由な自転車旅が始まった。



予定の1つは 27日に岐阜羽島駅で 高知から来る友達の吉岡と合流し

日本海まで一緒に旅をする事。


とは言っても 吉岡はこれまで 四国88カ所参り 北海道一周 韓国 台湾一周と 毎年1カ月から3ヶ月をかけての 旅をするベテラン。


それに比べて 初めての旅の俺は 不意のアクシデントや 旅の楽しみ方とか 


数日間 吉岡について行って学ぼう という腹づもりなのだ。


 

子供や家族が 不自由しないだけの預金も渡してある

それは 1週間と言わず ひと月でも あるいは1年2年と旅しても

誰にも迷惑かけないように 生活出来る万全の用意をした。



半蔵門線に乗って3駅 大手町から 丸の内線に乗り換えて東京駅

6:33発 こだま631 名古屋行きに乗り込む。


折りたたみ式の 10kしかない自転車とは言え 手荷物のバッグと共に 肩にかついで改札やエスカレータの昇り降りの階段は さすがにきつい

でも 電車にさえ乗れば 連結部分などに けっこうちょうど良い 置き場所があって 本人は快適な電車の旅ができるのだ。


とりあえず熱海の先 静岡県三島駅までのチケットを買った。

そして 今日明日は 富士山を見ながら 初夏の駿河湾の海岸線を走る予定だ。



三島駅に着くと 意外にも乗り降りの人達が多いのに驚いた。

みんなが 新幹線から出るのを待って 連結部に置いてある自転車を さっと持ってホームに降りる まだ慣れてないので 降りるタイミングまでにも緊張した。



ホームから 改札に向かう人々を見送ってから ゆっくりと降りて行く

あくまでも遊びの旅 働いてる人や 急ぐ用事の人達の邪魔はしないよう

常に最後に出るように心がけている。



改札を出て三島駅の外 駅前を見回して邪魔にならない日陰を見つけ 自転車を肩から下ろす。

組み立ては 何度も練習したおかげで 10分ほどで終えた。


今回は 自転車の荷台を買った。

それにメッセンジャーバッグをネットで固定

それが後々 とても楽な事に この時は気がつかなかった。


三島駅前を出発してすぐに 沼津方面と 静岡方面に左右に分かれる看板があったが、とにかく海を見ながら走りたいので 真ん中の道を選ぶ。

自分の感で 海にぶつかるであろう方向を目指して進む。


快適だ  いつもは肩からかけるメッセンジャーバッグを 荷台に結びつけているおかげで 身体が軽くて本当に気持ちいい。

とっ 走ってるうちに海に出た。 


予想どおり 太平洋沿いに 防波堤上の自転車道道が 浜松方面に永遠とのびている。


ここまで来たら一安心   後はこの自転車道を快適にペダルをこぐだけ、

やっと迷わず 本当の旅が始まった


とりあえず 今夜の宿 焼津市の先の島田市 ホテルますだやさんまで

右に富士山 左に潮騒の相模湾を 交互に見ながら のんびりと走れば良い。

携帯ナビに ホテルますだや を入れた    出た 

これで間違いなく 今夜の宿に着く。



天気は最高 相模湾の海も穏やかで 平日のせいか たまに散歩中の人に会う程度で 静かなツーリングだ。



天気が良すぎるせいか? 大気に靄がかかっているのか? 右手の山々の向こうに聳えてるはずの富士山が 見事に消えている。

まっ そのうち雄大な富士が視野いっぱいにみえるだろうと さんさんとてりつける太陽の下 ひたすら西へ 焼津目指してペダルをこいだ。


午後2時 旅で初めての食事を 清水港近くの小料理屋に入った。

お昼をだいぶ過ぎているので 席は空いている。

静岡県 やはり魚がいいだろうと お任せのお刺身丼を頼んだ。

やはり正解 一口食べると 新鮮な魚がこんなに美味しいのかと感動さえする

山盛りの刺身が 海沿いを6時間走ったお腹にしみて エネルギーが満タンになるのが実感出来る。



昼食を終えて またひたすら走る事2時間 焼津市内を通りすぎて 目的の島田市に入った。

ここまで8時間 初日からかなりの走行時間だったので疲れた

早めに宿に入ろうと想っていたのが 自転車がおかしい

自転車のエアーショックがどんどん短くなってきて 車体がくの字に曲がっていた。

このままでは走行不能になりそうだ。



ただでさえ焦っているのに 自転車のトラブルは最悪だ。

自転車屋を見つけて見てもらうが 外国製の自転車のクッションのエアーにあう空気入れが無いと言う。


オートバックスにも見せたのだが 自動車じゃないので見てもくれず

仕方が無いのでそのままのシャコタン状態でひたすらホテルを探す事にした。


携帯ナビでみると なんと 目的のホテルますだやをかなり通りすぎている。

自転車屋を探すのに夢中になり ナビを見るのを忘れていた。


また 元来た道を引き返し 人ん家の庭のような路地をグルグル回って

1時間近く迷って やっと ホテルますだや に着いた。


もう 夕方5時を過ぎていた。

今日は朝から ほぼ9時間以上走行した計算になる。


チェックインして部屋に入ると 荷物もそのままにお風呂に入る 

そして何年ぶりかにかいた汗を流した。


生き返った・・・初日の100kが終わった。


疲れた。






3時頃から目が覚めていたが ベッドの中でウトウトしていたら いつの間にか4時 外も明るくなったようなので起きる事にした。


子供の頃 人一倍恐がりだったのを想い出した。

大人になって怖くなくなったと想っていたのだが、夕べ寝る時に 電気を消すのが怖くなって 結局 頭の上の蛍光灯と テレビを付けっぱなしで寝た。


これは嫁さんにも子供達にも 知られないように黙ってないとな・・・と。













旅  2日目   島田市発


今日も良い天気だ。



ホテルますだやをチェックアウトして 自転車に荷物を乗せていると

「あっ!」  不思議な事に 昨日ペシャンコになっていたショックが直っている。

一晩のうちにエアーが入ったように くの字に曲がっていた車体が

真っすぐになっていて驚いた。

ほんとうに神様に感謝  これで気分よく 今日をスタートした。



今日のホテルは 浜名湖のほとり 鷲巣の くれたけイン浜名湖

直線距離にして70kmくらいだから ちょっと余裕がある。

地図を見て 有名な御前崎を回って行く事にした。



島田市から海沿い目指して 牧ノ原市に出た。

相良町から海沿いの道に出て 6月にしては夏のような日差しの中 快適に御前崎に向かう。


今日もなぜか? 静岡の山々は見えるのに 肝心の富士山が 霞の向こうのように 見事に消されている。

 

それに比べて海岸線は 今が大潮の干潮のようで 引ききった海の中に 何を採っているのか? ぽつりぽつりと人が入っていて 夢中になにか探している。

そんなほのぼのの中 真っ白な風車の下を 永遠と海岸沿いの自転車道が続いている。



そう言えば思い切って 少し高かったけど この自転車を買ってよかった

と しみじみ感じる。


渋谷で暇つぶしに入った東急ハンズで 何気に見てたシルバーメタリックの自転車がどうにも欲しくなって 財布を見たらその日に限って十数万円入っていて そのまま乗って 深川の家まで帰った。



高知県でお店をやっていたのが 道路拡張の為に国土交通省に売ることになった。

その前に 子供達2と妻は 子供の学校の都合で 妻が親から相続した深川の 築40年くらいの古い家に引っ越していた。

そして 売ったお金で 子供達の教育ローンや 深川の家の前の土地を買ったりしても まだ そこそこのお金が残った。


しかし この歳から遊ぶ訳にもいかないので 新聞の求人で 家から1番近い所を決めて 面接に行くと 明日から来てくれと あっけなく決まった。


そして可もなく 不可もない 水道橋の小さな会社に1年程行ったある日 

いつもどおり 朝8時半に出社してみると 机も椅子も無く 書類がぶちまけられた惨状に 夜逃げだ  と すぐに思った。


社長と愛人と 社員が 自分を含めて5人のうらぶれた事務所

大して惜しくもない会社だったからなんか清々して なんか可笑しくて

帰って嫁と大笑い。




考えてみれば 学校を出て働きだして30年 1週間と休んだ事が無かった

そこで  『これは人生のチャンスだ これまで出来なかった事 やりたい事を 時間もお金も気にしないでやってみよう』  と



さっそく嫁の希望で  スペインの世界遺産の旅

嫁は大喜び 2週間楽しくて 大成功で海外旅行に行って来た。



次は高知の田舎に帰って釣り三昧 

友人のボートを借りて 宿毛市の沖の島で釣りをしたり 野生のイルカを追いかけて遊んだりと 1月ほど遊んで帰ってきた。


その時に 高校の同級生の吉岡から

自転車での旅の 楽しい話を聞いて ぜひ俺も一緒に行くと 

高知から出発する吉岡と 東京からの自分と 岐阜羽島で待ち合わせを

約束したのだった。



ペダルを3回こげば 惰性でどんどん進む また3回漕げば スイスイ進む

車やバイクと違って エンジン音も無く 波の音や小鳥の声を聞きながら

涼しい向かい風を受けて 自転車は気持ちよく走る。


吉岡との待ち合わせはあさって 6月1日

本当に来てよかった  自分の力で走る これが本当の旅だって感じる。






お昼はコンビニでおにぎりを買って サーフィンを見ながら食べ

ひたすら海岸沿いの自転車道を走ると 午後3時頃 弁天島を渡り 浜名湖を回り込んで 鷲巣駅前のくれたけイン浜名湖 に着いた。

御前崎を回ったので 意外にも今日も100k以上走行した事になる。


チェックインしてシャワーを浴び 夕方の気持ちの良い風の中 鷲巣駅前の小料理屋に入って ビールを飲んで浜名湖名物の鰻を思いっきり食べた。


自転車旅も2日経過すると 気持ちも身体も旅慣れてきて 少し逞しくなったような気分だ。












旅 3日目  浜名湖


朝6時 鷲津駅前のホテル くれたけイン浜名湖を出た。

今日は吉岡と 岐阜羽島駅で合流する約束の日で 一人旅はこれで終わり。

自転車旅も 2日間やってみて 明日から 旅慣れた吉岡に 迷惑かけないくらいに 付いて走れるだろう自信がついた。


少し早いが これから鷲津駅から電車に乗って 豊橋で新幹線に乗り換え 岐阜羽島に行く予定だ。


バックを肩にかけて 自転車を押して ホテル前の青々と繁る街路樹の 駅前の道を渡る

自転車を折り畳む場所を探すが 土曜日なのに駅前には女子校生達がいるので

ホテルから渡った この歩道の角でやる事にする。



先ず ハンドルに取り付けていた自転車のバッグを広げ 前輪を外し 車体を折り曲げ ハンドルを緩め サドルを外し それをバランス良く バックに入れてひもで縛る  そして最後にチャックを閉めて 肩掛けと手持ちのベルトを確認した。

これで電車に持ち込んでも大丈夫だが 手荷物のメッセンジャーバッグと 自転車のバッグ両方を担ぐと 電車の乗り降りや移動はなかなか大変なのだ。



とりあえず電車に乗る準備はOK!

7:15発の豊橋行きにはまだ時間がある  ひと通りもまばらだ。

コーヒーでも飲もうと見回したら 駅は相変わらず女子高生がたむろしているので 自転車とバックをそのままに ホテルの自動販売機で買う事にした。



今飲むコーヒーと 電車で飲むのと2本買った。

と  その時 街路樹の隙間から通りの向こうで こっちを見た男と目が合った  かと思うと 俺のメッセンジャーバッグを持って走りだした


あっ!!!




どろぼう〜  っと  声よりも先に足が動いた


道路の向こう だが 距離はまだ20mほどしか離れてない

追いつく  と 本能で思った。


道路に飛び出した時 ガガガガ〜〜  左車線から来たトラックが驚いて急ブレーキをかけた  危ない!  

思ったが もう自分も間に合わない ダッシュで向こう側まで駆け抜けた時に

ド〜〜〜ンと  トラックは街路樹にぶつかった


『いた!』  一瞬 頭と身体に激痛が走った

だが 見ると バッグを盗った男も トラックの事故に驚いたのか 呆然と立ち止まってこっちを見ている

すると ポトリとバッグを落とすと また走り去って行った。


『良かった〜』  もう少しで 財布もカードも 着替えも何もかも 盗まれるところだった。


落ちたバッグを拾って 自転車のバッグまで戻って一安心しながら事故のトラックを見ると けが人がいるようで 数人の人達がトラックの下を覗いている。

どうして良いのか考えていると 歩道の角に俺のと同じ iPhoneが落ちているのが気にかかった。



本当は残って救急車を待ったり 警察に事情を話さないといけないのは分かっているが 本当に悪いけど電車の時間だからもう行かないと

と 自分を納得させて 重いバッグを担いでヨタヨタと駅に向かった。







3日目  岐阜羽島




意外にも豊橋行きの各駅停車はすいていた。

そして豊橋で新幹線に乗り変えると 連結部分のトイレの横に すっぽりと自転車が入るスペースがあって 通りがかった車掌さんに聞いたら そこに置いて良いと。

おかげで普通に席に座って 快適に岐阜羽島駅に到着した。



ここからの旅は 吉岡の計画に任せているので 自分は宿の心配もなく ただ付いて行くだけだ。


吉岡は 高知からバスで京都に出て 今日ここ岐阜羽島泊まり

明日からは確か 山越えで富山に出て 日本海を南下しながら高知に帰る 1ヶ月程の旅と言っていた。


自分は日本海あたりまで一緒に行って 分かれたら北回りに東京に帰るつもりだが 嫌になるまでの旅なので どこまで行くかわからない。


考えただけでも嬉しい。

働き詰めだった自分の人生に こんな自由な旅が出来るとは 思ってもみなかった。



それにしても吉岡のやつ  メールしても電話しても返事も来ない

学生時代から それほど愛想のいい奴でもなかったけど せめて何時に着くか?くらい連絡くれないと


夕方まで駅の回りをうろうろして待っていると ようやく 吉岡が自転車に乗ってこっちにやってきた。


「よう 吉岡 やっと合えたな  2日間 旅の練習したけど なかなか楽しいな」  『おう    』



「・・・・・・」  相変わらずむっつりだな〜と思っていると 自転車に乗って走りだした

ああ  ホテルに案内するんだな  と  俺も自転車で付いて行った。



ウィークリー翔  1泊1900円 

新幹線の停まる駅前  日本にもこんな安いホテルがあるのに驚いた。

さっそく1階にある 共同風呂に入ってさっぱりして 駅前のお寿司屋さんに入った

吉岡との旅の初日なので 特上のにぎりを奢る。








4日目 吉岡と共に 郡上八幡へ




朝7時 岐阜羽島駅前の ウィークリー翔を出て ガード下の駐輪場に止めてあったオレンジの自転車に荷物を入れて 郡上八幡目指して出発した。


長良川を上って行くと 早速小さなお城に出会った。

碑を読んでびっくり これが太閤秀吉の墨俣の城だと言う


さらに走って行くと 右手の山が岐阜城跡らしい。

あまり期待してない道だったのだが 意外な事に本で読んだ歴史跡だらけの道らしい。


さすが吉岡の自転車のペースは早く 少し下りになれば40kくらいのスピードで走る   はっきり言って これまで自転車で こんなスピードはだした事が無かった。 

自転車がバラバラになるのでは? と思うが なかなか大丈夫なようだ。


黙々と走ったおかげで 午後3時頃 郡上八幡に着いた。

驚いた事に 今日の宿はお寺だ

お化けが出るんじゃないか?  と 少し思ったが 考えてみれば 和尚さんが居るから かえって安心だと納得した。







旅 5日目  飛騨高山



郡上八幡 洞泉寺の朝は 格別清々しい

7時くらいに開けると言われた門を 起こさないようにそっと開けて

朝6時 飛騨高山に出発する。


ここからは 日本の真ん中目指して行くので ほぼ上り坂だが

さすがに人力での登りは 歩く程の早さで 永遠と続くように感じる。

それでも 西ウレ峠を上りきってからは 坂もずいぶん楽になった。


昼過ぎに飛騨高山の街に着いて 楽しみにしていた高山ラーメンを食べた。

高山陣屋や町並みを観光して回ってから 今日の宿 天正寺に着く。

見事な松の庭園で 回りもお寺ばかりで 外国人が好みそうな 見事な宿舎だ。


夕ご飯は 前から食べてみたかった 飛騨牛の大葉焼き

ガイドブックに載っていた店を探して なかなか美味。








旅 6日目 天城峠から白川郷




今日は これまでの旅で1番の難所 飛騨高山から白川郷に行くには

飛騨山地を超えなければいけない。

それには天城峠を超えるルートが1番近い


天城峠目指して上る事2時間 なんと この季節で『冬期閉鎖中』

2時間も上った道を また下って迂回するのは 肉体的にも精神的にもきつい

考えた末 ゲートの横をくぐって 自転車を押してでも上る事にした。


閉鎖期間のため 当然車も人影もない山道を ひいひいと上る

道には冬期に崩れた岩がごろごろ 看板には 熊注意 落石注意 など

熊が出たらダッシュで下るぞ  と考えながら 雪の残る天城峠を 自転車を押してひたすら上る事4時間   なんとか峠を超えた。


下りは快適 残雪の下り坂は肌寒く 上着を着て40kほどのスピードで下っていくと 白川郷が見えてきた。






旅  7日目 五カ所村




昨夜からポツポツしていた雨が 今朝は本降りになっていた


「さて 行くか」


6時  五カ所村の宿 “よしのや“を出る

今日で吉岡と分かれて また一人旅だ


昨夜 吉岡に 「俺は明日から 富山から糸魚川に行って 長野県の方に行くよ」と言った。

相変わらず無口な吉岡は『ん?』 と顔をあげただけだったが 理解はしてるようだ。

吉岡は 今日 輪島まで行って 金沢 福井と 日本海を南下する予定だから

ここらで分かれた方が 俺も東京に帰りやすいと。


しかし 岐阜羽島から一緒だが 今回の吉岡はなんかおかしい

話をしていも上の空だし 夜も いびきが止んだかと思うと 時々うなされて飛び起きたり   

もしかして癌とか 不治の病気とか 何か悩みでも抱えているのではないか?と感じる。


そんな事を考えながら走っていると 富山市に入った。

そろそろ吉岡と別々の道だ   ほんとうに楽しかった。


高岡能登方面と 富山新潟方面に分かれる交差点に ホームセンターがあった。

「吉岡 ここで分かれよう  ほんとありがとう 元気でな」

吉岡は無言でカメラのセルフタイマーをセットし 俺も隣に立って 最後の記念写真を撮った。


「じゃな」   『ん!』  相変わらず 別れまでそっけないな と 可笑しくなった。






最後まで無愛想な奴だ。











旅 7日目  不思議





走り去る吉岡の赤い自転車を見送って 


「さて  自分も行くか」


風を切って 雨の中をぐんぐん進む   快適 快適


「さあ 急がないと間に合わなくなるからな・・・」

なんに?


「暗くなるまでに 着かないといけないから・・・」

どこに?


「あれ?」  なにかがおかしい・・・・



どこに行くの?


「・・・・・?」


あれ? 雨が降っているのに 自分はカッパも着てない


Tシャツのままの身体が 雨に全然濡れていない   ??


よく見ると自転車もなくなっている


不思議だ 風を切って進んでいるのに 自分は何に乗って進んでいるのだろう?


あれ ?  どこに行くんだっけ?   



何故か?  何も 分からなくなってしまった   


ほんとうに  不思議だ。









旅 7日目 吉岡




五カ所村の旅館 よしのや を出ると 雨は本降りになっていた


琵琶湖あたりからこの数日間 なんか体調がすぐれず 気力でここまで旅を続けてきたが この雨の自転車はキツイ


それでもカッパを着てヘルメットをかぶり 荷物をビニール袋に入れて 赤い自転車に結び 雨の道を出発した。


雨のせいで いつにも増して頭が痛い・・・頭痛がひどくて なにかうめき声のような音が耳元で聞こえる


「それにしても・・ 結局来なかったな〜 高杉の奴・・・あんなに楽しみにしていたのに・・・なにかあったのかな・・・・?」


高杉とは 岐阜羽島で落ち合う約束が 1日待ってみたが来なかった。

携帯に何度かけても出ないし メールの返事もないし・・・東京の家の電話番号は知らないしな〜・・・


そんな事を考えながら ザンザン降りの中 ひらすら走ること4時間 能登半島方面に曲がる目印の ホームセンターの交差点に着いた。


「写真でも撮るか・・」  『おお』   「ん?」  声・・気のせいか??

セルフタイマーで記念写真を撮った  「ん?」  

保存しようと モニターを見ると・・・・ 俺の隣で 誰かが笑いながら写っている


回りを見回してみたが 大きな駐車場の この角には誰もいるはずも無く

モニターに映る その顔には 見覚えがあった。


寒気がしてきた・・・・一休みして能登半島に向かった。


輪島で泊まるつもりだったが 七尾市で限界がきた。

急遽 ジャランネットで宿を探し ユースホステルに飛び込むと そのまま 高熱で気絶するようにダウン 



夢を見た・・・自転車で走る俺の後ろで・・・ 高杉義久が・・・俺のわからない言葉で・・なにか楽しげに・・・俺に話しかけている・・・ずっと・・・ 



結局 七尾のユースで 3日間寝込んでしまった。


















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