079 Veux-tu danser avec moi ?
その声の主は、黒のタキシードに身を包み、顔の半分を飾り気のないマスクで隠していた。
金色の髪は照明の光を反射してお日様のように輝き、極上のサファイアの瞳は興味深そうにこちらをうかがっている。
この人は野獣の被り物を被っていないし、精霊さんたちからの警告も無い。
……でも、何故か絶対に近づいてはいけない気がする。
わたしは自分の予感を信じて、ヴァルフラムさんの背にさっと隠れた。
ヴァルフラムさんはわたしを守るように一歩前へ出てから小声で訊いた。
「――ひょっとして、ユートなのか?」
「…うん、正解。
グレアム師に髪と瞳の色、それに声まで変えてもらったのに、良く解ったな」
「!」
うわぁ、嫌な予感的中っ。
我ながら自分の勘の良さには感心するけど、どうして今回は精霊さんたちの警告が無かったんだろう?
っていうか、おじいちゃん酷い!
兄の変装に手を貸したなら、その情報をこっちにも流してくれないと困る~。
「あー…そう言われて見れば、色々と変わってるな。
うん、確かに、別人に見える」
ヴァルフラムさんの言葉に兄は小さく笑った。
「なんだ、勘で言い当てたのか?
俺が『野獣』の仮装をしている筈だと思われるような演出をしたから、普通の参加者の格好をしているだけでも充分目くらましになると思ったんだけどな」
「俺はそう思い込んでたけど、姫さんが……いや、何でもない。
まぐれ当たりだよ」
わたしの事に言及しかけた言葉を、ヴァルフラムさんは慌てて誤魔化す。
金髪碧眼のタキシード仮面になっている兄は更に声を潜めて訊いた。
「姫って…その子のことだよな?
本当にどこか別の国のお姫様なのか?」
「いや、そうじゃない。
彼女と俺は遠い親戚なんだ。
敬称であることは間違いないけど、あだ名みたいな感じだな」
「あだ名で“姫”?」
「遠縁の子を預かっている…というよりは、保護者の代理を務めてる。
すごく大切に守り通さなくちゃならない子なんだ。
ちょっと訳ありでね」
ヴァルフラムさんが言外に『これ以上は追及してくれるな』と匂わすと、兄はチラリとわたしを見て頷いた。
ホッと一息ついたヴァルフラムさんに、何気ない口調で追撃を加える。
「遠縁の子を姫と呼んで丁重にもてなしつつ面倒を見ている…という訳か。
ずいぶん仲が良さそうに見えたよ。
今も、中庭でも」
「見てたのか?」
「ああ、着替えが終わった後暇だったから、俺も中庭に出ていたんだ」
「中庭のどこにいたんだよ。
全然気がつかなかったぞ」
「木の上。
誰かに見つかったら面倒だろ?」
「お前は本当に嫌なんだな、女の子たちに囲まれるの。
一応、好かれている訳だし、そんなに毛嫌いしなくても…」
ヴァルフラムさんの言葉に、兄の眉がピクリと動いた。
大きなため息をつくやいなや、せつせつと自分の心情を訴え始めた。
「彼女たちが本当に好きなのは、“俺”じゃなくて“恋をしている自分”なんだと思う。
俺は自分がよく知らない子から熱烈にアピールされても…嬉しいとは思えない。
それを隠さずに言葉と態度で拒絶しているのに、彼女たちの言動には全く改善も配慮も見られないんだ。
それって普通の人間関係ではあり得ないことだと思わないか?
対象が俺だから…勇者と呼ばれている奴だから、普通の配慮をする必要がない…と、彼女たちが本当に思っているかどうかは解らないけどね」
「確かに、嫌だと伝えてるのに、全く聞き入れて貰えないってのは…普通じゃあり得ないよな」
「たぶん、大勢の女性にちやほやされて喜べる奴は、『モテてている自分がすごく好き』で、だから面倒事が発生しても気にならないんじゃないかな。
俺は四六時中つきまとわれるだけでも、すごく嫌だ。
彼女たちを力づくで追い払うこともできないし、面倒で仕方がない」
「あぁ、うん、そうだよな。
女相手に暴力はふるえないしなぁ…ホントお疲れさん」
ヴァルフラムさんは苦笑いしつつ、労るかのように兄の肩を軽く叩いた。
わたしはそんな二人の姿をこっそりと覗き見ながら、自分の望んでいた展開になっていないことに少しガッカリしていた。
うーん、この様子だと『非日常の中で遭遇した運命の出会い』みたいな、恋愛イベント系のフラグは立っていないみたいだなぁ。
他の王道勇者イベントは起こしているのに恋愛イベントは総スルーで、モテモテ勇者ハーレムも全拒否とか…お年頃の青少年としてかなりダメな気がする。
ウハウハしろとまでは言わないけど、ちょっとはドキっとかキュンっとかしてくれないと!
「そんな話を治療士選抜試験の合間に愚痴ってたら、羨ましい、代わりたいって言う奴がたくさんいてさ。
それを切っ掛けに、みんなで今夜の企画を考えて、女王陛下と魔術士にも協力を頼んで演出に参加してもらったんだ。
みんなが俺の身代わりになってくれたお蔭で、久々に人目を気にせずに過ごせているし、本当に感謝してる」
「試験中、ユートのテントだけ夜中まで灯りが消えてなかったのは、そんな話をしてたからなのか。
俺はてっきり、夜這い防止のためかと思ってたぞ」
「まぁ、ソレを防ぐために、大人数で寝てたってのもあるな」
「そういえば、例の夢見の悪さと寝不足は解消されたのか?
レイフォンが護符を作ったって言ってたけど」
「うん、まぁ……半分くらいはご利益があったよ。
とりあえず夢にうなされて飛び起きることはなくなったから」
「半分?
それってどういう意味なんだ?」
兄はヴァルフラムさんの問いに暫くしてから答えた。
「――まだ、俺にもよく解っていないことが多すぎるんだ。
きちんと説明できるようになったら、話すよ」
「そっか。
何か俺にできることがあれば、いつでも言ってくれ」
「心配かけてるのに、悪い。
…話を戻すけど、俺はハッキリと断っても退かない女性とは、極力関わりあいたくないんだ。
自分だけが迷惑するならまだしも、妹にまで被害が及んだことがあるからな」
わたしは兄の台詞に動揺し、ヴァルフラムさんの背中に完全に隠れた。
兄が過保護で女嫌いな理由は、あの時の事を忘れていないせいだと気がついていたけれど、それを正面から訊いた事は一度もなかった。
ヴァルフラムさんの袖口を掴んでいる自分の手が震えている。
それを他人事のように見ていると、不意に兄から声をかけられて、心臓と身体がビクッと震えた。
「突然話しかけて、驚かせてしまい、申し訳ありません。
少しだけヴァルフラムをからかって遊ぶだけのつもりが、長々と話し込んでしまってすみませんでした。
もうお邪魔しませんから、二人で楽しい時間を過ごしてください。
…それでは、失礼いたします」
煌めく瞳と柔らかな口調で異様な爽やかさと愛想の良さ醸し出しつつ、兄は颯爽と立ち去った。
わたしは呆然として兄の後ろ姿を目で追う。
上半分の顔を隠していても、アレじゃあすぐに発見されてしまいそうな気が…。
というか、アレは無意識の産物?
それとも、わたしをヴァルフラムさんの身内として認識していたから?
無意識だとすると、うちの兄は変態で女嫌いの上に天然たらし?
そうだとしたら、無駄恋愛フラグ一級建築士に認定して、わたしの友達には絶対に近寄らせないようにしないと…。
「――姫さん?」
「はい?」
「何か考え事してるのに悪いとは思ったんだけどさ、今ならまだ踊ってる奴が少ないから…」
いえいえ、たいして重要なことは考えてなかったので、大丈夫ですよ~。
わたしはにっこりと笑いながら頷き、差し出されたヴァルフラムさんの手に自分の右手を預けた。
今は、やるべきことを先にやろう。
ヴァルフラムさんにリードされて踊りながら広間を横切り、女王陛下が座っている壇上に近づく。
私たちに気がついた陛下と目が合ったので、笑顔で応えることで挨拶に代えた。
(よし、ミッションコンプリート!)
舞踏会参加の目的を早々に果たし、周りの動きにあわせて徐々に広間の隅へ移動する。
その途中、ヴァルフラムさんが小声で話しかけられた。
「姫さん、ダンス上手いな。
すごく踊りやすいよ」
「そうですか?
学校の授業で習ったくらいで、実際に踊る機会はほとんどなかったから、ちょっと不安だったんですけど…」
「これだけ踊れるなら、得意ですって言っていいと思うぞ」」
「ありがとうございます。
でも、どちらかと言えば、わたしは男性のパートの方が得意なんですよ」
「何で?」
「わたしの学校は女生徒しかいないので、男性パートを踊る相手役が必要なんです。
背が高めの子はみんな、何度も頼まれて男性パートを踊るから、いつの間にかすごく上達してしまう…というわけです」
「ふぅん、そうなのか。
話を聞くと納得できるけど、もったいな」
「?」
「やっぱり可愛い女の子は、女の子らしく大事に扱われるべきだと思う。
姫さんが男役を押しつけられるくらいなら俺が代わりになって、その分……あ、いや、その」
話しながら急に頬を赤らめたヴァルフラムさんは、わたしの視線から逃れるように顔を背けた。
「あ、メイの奴…また捕まってる」
ヴァルフラムさんの見ている方角には、メイさんの他に数人の見知らぬ男性がいた。
彼らはメイさんの周囲を取り囲んでいる。
「メイさんが捕まっているって…?
あの人たちが誰なのか、ヴァルフラムさんは知ってるんですか?」
「あいつらはメイの親戚で、求婚者」
きゅーこん…?
球根じゃないよね?
「メイにはちゃんと恋人がいるんだけどさ、あいつの家の親父さんは自分の血族とメイを結婚させたがってるんだ」
「…。」
そっちのきゅーこんでしたか、と心の中でコッソリと相槌を打つ。
「メイの恋人も俺の幼なじみで、すごくいい奴なんだ。
性格も良くて腕も立つし、頭もいい。
だけど、あいつは…セイルは貴族じゃない。
たったそれだけの理由で、メイの親父さんは二人の仲を認めずに、別の奴と結婚させようとしてるんだ」
「ひょっとして、メイさんがドレスじゃなくて軍服で参加しているのは、あの人たちと踊るのを避けるため…?」
ふと思いついた推測が口からこぼれ出る。
「…うん、そうだな、そうなのかもしれない。
メイの親父さんは改革派寄りの人で、人柄や能力よりも血筋や地位を重んじるから、セイル自身がすごくいい奴でも、ダメなんだ。
娘の相手としてはふさわしくないって、つきあうことすら認めてもらえていない」
改革派って確か…魔獣から領地と領民を守るっていう貴族の義務は果たさずに、権利だけを要求してる人たちだよね。
それに何故かエリオットを次期王に推しているっていう…。
ヴァルフラムさんの痛みを堪えるような表情を見て、わたしは迷わずに言った。
「この曲が終わったら、メイさんを助けに行ってあげて下さい」
「…それはダメだ。
姫さんを放っていける訳がない」
「わたしなら大丈夫ですよ。
会場の隅で大人しく待っていますから」
ヴァルフラムさんの言葉を遮って強い口調で言った。
そして彼の瞳をまっすぐに見つめる。
「メイさんの恋人のセイルさんが助けに行くと、メイさんのお父さんに後で咎められて、ケンカになる可能性が高いと思います。
二人のためにも、ヴァルフラムさんがセイルさんの代理を努めるのが一番穏便に済むんじゃないでしょうか?」
わたしのお守りを任されていなければ、ヴァルフラムさんは直ぐにメイさんを助けに行ったはず。
だからこそ、絶対に退けない。
先に目を逸らしたのはヴァルフラムさんだった。
「…解った。
あいつらを蹴散らしてすぐに戻ってくるから、姫さんは人目につかないように大人しくしててくれ」
「はい」
わたしが頷くと、彼は小さな呟きを落とした。
「ったく、セイルの奴、自分の恋人を放って、どこで何やってんだよ」
「…。」
ヴァルフラムさんは二人の友人であっても当事者じゃないから、歯がゆい思いをすることが多いのかもしれない。
曲が終わるタイミングで一礼し、わたしたちは互いの手を離して別れた。
ヴァルフラムさんはまっすぐにメイさんのもとへ向かう。
少しだけそんな彼の背中を見送った後、くるりと踵を返した。
さぁて、何を食べようかな♪
会場の隅のテーブルには、美味しそうなご馳走が所狭しと並べられていた。
テーブルの周りで歓談している人はごく少数で、わたしは遠慮なく取り皿に食べたいものをのせてゆく。
山盛り…の三歩手前で止めて、いざ食べようとした瞬間、背後から声をかけられた。
「――失礼ですが、このハンカチを落としませんでしたか?」
「?」
振り返ると、真っ白なハンカチを持ったライオン頭の男性が、わたしの顔を覗き込むようにしながら立っていた。
「いいえ、違います。
わたしのものではありません」
わたしはそう答えながら、彼の胸元に飾られた薔薇の色が白であることに気がついた。
白い薔薇は、お相手募集中の人だよね?
自分のお相手を探す前に、落し物をした人を探してあげているなんて、優しい人だなぁ。
少しだけ手伝おうかとも思ったけれど、自分が手にしているお皿の食べ物を放置すると、食べ残しとして片づけられてしまいそうなので、止めた。
最後に軽く会釈をしてくるりと体勢を元に戻し、再びフォークを手にしてお皿に向き直る。
いただきまーす♪
一口大のパイを口に入れて噛みしめる。
あ、コレ、ミートパイだ。
サクサクのパイ生地がすごく美味しいっ。
こっちのパイの中身は何だろう?
ん、ホワイトクリームと…青菜と鮭かなぁ?
「…ずごく美味しそうに食べていますね。
飲み物はいかがですか、お嬢さん」
「?」
もぐもぐもぐ…。
わたしは口の中のものを咀嚼し終えてから、声の主を振り仰いだ。
ほとんど黒に近い毛色の狼頭の男性が、飲み物の入ったグラスを差し出してくれている。
シュワシュワと泡が立ち上るグラスの中身は、たぶんお酒だろう。
「…あの、お気持ちだけで結構です」
「おや、お酒は嗜まれませんか?」
「はい、あまり強くないので」
だってわたし未成年だし。
お祝いの席とかでちょこっと味見させてもらったことはあるけど、グラス一杯は飲み干せないと思う。
「それでは何か別のものを…」
オオカミさんがいいかけた言葉を打ち消すかのようなタイミングで、別の声が割って入った。
「同伴者のいない年若い女性に酒を勧めるとは、下心が垣間見えますね」
「失敬だな、君はっ。
私は別に…」
「やましい気持ちは全く無かったと?
それはそれは失礼しました。
こちらの可愛い女性に声をかけたのは、僕の方が先なんです。
遠慮していただけませんか?」
「使い古された古典的な手で彼女に近づこうとして、あっさりと躱されていたくせに、よくもまあぬけぬけと…。
退くのは君の方だ」
「……。」
もぐもぐもぐ。
わたしは食事を続けながら、二人の会話を聞き流していた。
んー、さっきのライオンさんとこのオオカミさんは、何をそんなにイライラしてるんだろう?
お互いを追い払おうとしているけど、わたしに何の用事があるのかな?
よく解らないけど、口喧嘩している人の傍にいると衆目に晒されそうだから、さっさと目立たない場所へ移ろう。
わたしは近くを通りかかったボーイさんからお水をもらい、食べ終わった食器を手渡して、こっそりと別の場所へ移動しようとした。
「待ってください、お嬢さん!」
「…ハイ?」
あんまり大きい声で呼び止めないで欲しい。
嫌々ながら振り向くと、ライオンさんとオオカミさんは先を競うようにして言った。
「私と一曲、踊って下さい」
「いえ、僕と!
僕の方が貴女と歳が近そうですしっ」
「女性の口説き方ひとつも知らない坊やは引っ込んでいたまえ」
「それはこちらの台詞です」
「…。」
ええと。
ひょっとして、ひょっとすると、わたしと踊りたいがために、この二人は言い争っているんだろうか。
「――あの、わたしにはちゃんとパートナーがいるんですけど…」
赤い薔薇の腕輪を見せながらそう答える。
「ええ、それは解っています。
でも、その方が傍にいらっしゃらない今、貴女はフリーでしょう?」
「魅力的な女性が一人で時間を潰している姿を見て、放っておくわけには参りません。
空いている時間だけでも、おつきあい頂けませんか?」
「……。」
えー、ヤダ。
心の中で速攻拒絶しつつ、何て答えたらこの場を切り抜けられるのか考えた。
一曲踊るくらい問題ないのかもしれないけど、踊っている間にヴァルフラムさんとすれ違ってしまうのは困る。
それに、わたしは彼らの期待には応えられない。
お相手探しのために、この場に居るわけではないのだから。
それにしても、赤い薔薇の効力がこんなに低いなんて、想定外だった。
ちゃんと相手がいると言っても退いてくれないなんて……どうしたらいい?
返答に困っていると、背後から聞き覚えのある声が降ってきた。
「――何かお困りですか?」
「…っ!」
ひいぃぃい!!
真後ろに兄が、兄が出現した!
前門のライオン&オオカミ、後門の兄。
わたしは冷や汗が噴き出てくるのを感じながら、前にも後ろにも動けなくなった。
「何だね、君は。
いきなり会話に割って入るとは、無礼な」
「僕は…僕らは、彼女を踊りに誘っているだけです。
邪魔しないで下さいっ」
キャンキャンと吠えるように言いかえした二人を、兄はマスクの奥から冷やかな目線で睨みつけた。
「彼女は赤い薔薇を身に着けているでしょう?
この赤い薔薇は、この舞踏会で新たな出会いを探していない…という意思表示。
無粋な真似は止めていただけませんか」
兄の丁寧な口調の中には、絶対零度の威圧が含まれている。
二人の返答を待たず、畳みかけるように言った。
「彼女は俺の親しい友人の同伴者です。
彼がいない隙を狙って彼女に近寄ってきた貴方がたを、見過ごすことはできない。
…消えてください、今すぐに」
二人は口元だけ笑みの形を浮かべた兄を睨みかえす。
「君に指図される筋合いはないよ」
「僕も貴方の言葉に従う気はありません。
パートナーがいるといっても、その人は彼女を放って何処かへ行っているんでしょう?
それなら、恋人や婚約者でない可能性が高い。
僕はこの場限りの相手を探している訳じゃないんです」
「…。」
ピリピリと肌を刺すような緊迫した空気に、わたしはゴクリと息を飲んだ。
許されるなら、今すぐこの場から走って逃げたい。
「――そうですか、それではこちらが動きましょう」
兄はあっさりした口調で沈黙を破ると、わたしの足元に跪いた。
「私と踊っていただけますね?」
「…。」
絶対にイヤです。
っていうか、確認形で訊くのは間違ってるよね?
イイエともハイとも答えていないのに、兄はわたしの手を取って踊りの輪の中に導いた。
いやぁあああー!
誰か助けてー!!
「Veux-tu danser avec moi ? = 私と踊っていただけませんか?」
■2012.02.12、13
兄の台詞を一部修正