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うちのお兄ちゃんがハーレム勇者にならない理由  作者: 椎名
三章  治療士選抜試験
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045  試験官たちの密談


満面の笑顔で部屋の中に入ってきたおじいちゃんは、レイフォンさんに延々とお説教されていた。

貴重なアイテムを次々と脅し取られているみたいだけど、わたしはレイフォンさんが怖くて口出しできずにいた。

(おじいちゃん、助けてあげられなくてごめん)


エリオットはもう慣れているのか、そんな二人の様子を気にせずに次の試験の話題を振ってくる。


「――ユーナは二次試験をどんな形で進めようと考えているのですか?

先程、一次試験合格者に何も情報を与えずに待たせておくことが、二次試験の準備の一部だと言っていましたが…」


「うん、二次試験を始める前に、ちょっとイライラしてもらうことが必要だから」


「…?」


「『堪え性があるかどうか』と、『上下関係を作りたがる人かどうか』を、二次試験で確かめさせてもらおうと思ってるんだ。

何の情報も無しに放置されて、お昼ご飯も食べさせてもらえなかったら、誰だってイライラするでしょう?

その余裕のない状態にわざと追い込んで、本性や本音を出してもらう作戦。

ほら、よく言うじゃない?

その人がどんな人なのかを知りたければ、どんなこと対して怒るのか観察すれば分かるって。

それをちょっとアレンジした感じ…かな?」


わたしはエリオットの顔に浮かんだ微妙な表情をスルーして説明を続けた。


「わたしには実戦経験なんかないけど、戦いの場では命令が下るまで…機が熟すまで、気力と体力を温存して『待機』することが大事だという話を聞いたことがあるの。

火竜の巣に真っ正面から突撃するなら必要ないことだけど、こちらが有利な場所に火竜をおびき寄せる作戦をとる場合には、じっと待つことも必要になるでしょう?

だから、堪え性や忍耐力があるかどうか、自分の感情を制御して行動できる人なのかどうか、試してみようかと。

上下関係を作りたがる人っていうのは、単純にうちの兄がキライなタイプだから。

イライラして、自分より立場の弱い人に八つ当たりするような人は、さっさと不合格にしちゃおうと思って」


「…具体的には、どうするつもりなんですか?」


「まず、女性のメイドさん…ええと、こちらの世界では…侍女さんとか女官さんって言うのかな?

見た目や物腰が優しい、もしくは弱弱しそうな女の人の協力が必要。

彼女たちに一次試験合格者への対応と、昼食の接待、そして採点を手伝ってもらおうと思うの」


「男性の侍従ではダメなんですか?」


「うん、男の人の前だと、可愛らしく猫を被る人もいるから。

全部女性に対応してもらうのは、油断を誘うためでもあり、『弱者』や『目下』のように思わせるためでもある」


「……なるほど」


「情報を与えずに放置し、更に空腹感でイライラを増した後、閉ざされた空間…試験官の目が届かないと思わせた場所で、受験者には自由に振る舞ってもらって、本性や本音を見る…いわば、減点式の試験かな。

もちろん、侍女さんや女官さんにも無礼な振る舞いや言葉を浴びせたら減点。

受験者同士で喧嘩をするのもね。

細かい点数の設定まではしていないんだけど、こんな感じでどう?」


わたしが右隣に座っているエリオットの顔を見ると、真向いから声がした。


「なかなか面白そうな内容ですね」


「ふむ、こちらが二次試験の準備を整えるまでの時間も、有効に活用できるというわけですな。

減点に値する言動のチェック表を作成、人員と場所の確保、昼食の用意、採点に加わる者たちへの説明…今から急いで始めるとしても、二時間はかかりそうですのぅ」


……。


レイフォンさんとおじいちゃんは、どこからわたしの話を聞いてたんだろう。

というか、部屋の出入り口付近にいた二人が、いつの間にソファへ移動してきたのかもわからない。


わたしが驚きで固まっているのに、エリオットは平然と二人の言葉に頷いた。


「一次試験終了から三時間以上放置された後に、二次試験開始ということになりますね。

女官長に話を通して協力を仰がないと…」


「まず一番先にやらなくてはいけないのは…」


エリオットとレイフォンさんが早口で段取りを決めてゆく。


次々と細かいところまで決めてゆく二人の会話を、わたしはお茶を飲みながら聞いていた。

こうして第三者の立場で話を聞いていると、二人とも頭の回転が速くて決断力があることがよく分かる。


わたしはエリオットの顔をチラリと横目で見た。


エリオットも魔導士なんだよね。

稀有な才能の持ち主という点は、レイフォンさんと同じ。

レイフォンさんと条件が同じなら、うちの兄ほどではなくても、エリオットも相当モテているのかもしれない。


あ、でも、エリオットは貴族だから、もう婚約者がいる可能性もあるよね。

ヴァルフラムさんも貴族だけど、お見合いの話が出ているってことは、まだ決まった相手がいないんだろうなぁ。


昨日のレイフォンさんとの会話から考えると、ヴァルフラムさんは恋愛結婚派っぽいけど、エリオットはどうなんだろう?

跡取り息子としての婚姻となると…お家同士の繋がりとか政略も絡むのかな?


「――ユーナ?」


わたしの視線に気がついたエリオットが、不思議そうな表情で首を傾げる。


「姫、そのように誰かをじっと見つめてはいけませんよ。

目と目が一瞬あうぐらいなら問題はありませんが、意図せずに誰かを『魅了』してしまった場合、正気に戻せる者が常に傍にいるとは限らないのですから」


レイフォンさんの苦笑交じりの言葉には、わたしを咎める響きがあった。


「エリオットの目を見ているわけじゃないから、大丈夫かと思ったのですが…気をつけます。

お話の邪魔をしてしまってごめんなさい」


わたしは二人に謝ってから席を立った。


「ユーナ?

何か僕に言いたいことがあったのではないんですか?」


エリオットの問いにわたしは頭を振った。


「ううん、試験とは全然関係ない話だから、気にしないで。

わたしの役割はもう終わったし、これ以上邪魔しないように席を外すね。

おじいちゃん、昨日の『透明マント』貸してもらえますか?」


…わたしがうろついていても大丈夫な場所はわからないけど、おじいちゃんの『透明マント』を着ていれば見咎められることはない筈。


「あんまり奥に行ないように気をつけながら、ちょっと探検してきます。

城内がどんな風になっているのか、覚えておきたいですし」


おじいちゃんはにっこり笑って立ち上った。


「それでは、あとは二人に任せて、わしと『でぇと』いたしましょう。

姫と一緒にお昼ご飯を食べる約束もしておりましたしのぅ」


「…でも、いいんですか?

わたしよりも二次試験のほうを優先するべきなのでは?」


「よいよい。

わしの優秀な弟子たちに任せておけば、大丈夫じゃよ」


レイフォンさんはそれ聞いて眉を(ひそ)める。

彼が何か言う前に、おじいちゃんはわたしの手を取って言った。



「――女王陛下から、秘密裏に姫と会う機会を設けるように…と、命じられておるしのぅ。

この爺が姫に城内を案内しながら、陛下の私室までお連れいたしましょうぞ」




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