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うちのお兄ちゃんがハーレム勇者にならない理由  作者: 椎名
三章  治療士選抜試験
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042  異世界の女の子はみんな愛の狩人なのかもしれません


礼拝堂の様子をじぃっと観察しているうちに気がついた。

受験者の見た目年齢がはっきりと二分されていることに。


十歳ぐらいの女の子にしか見えないひとが、全体の三分の二ぐらい。

残りの三分の一が、大人の女性らしいまろやかな曲線の身体に成長している。


今回の試験に参加したひとたちは、全員十六歳以上だという。

だとすれば、この大きな差は…。



「――エリオット、こちらの世界のひとたちの『第二次性徴期』…身長が大きく伸びる年齢は、何歳ぐらいからなの?」


エリオットは鏡から視線を外さずにわたしの質問に答えた。


「平均で、女性が十七歳、男性が十六歳頃からですね」


「そんなに遅いの?

わたしの世界では、女の子が十歳、男の子は十一歳頃からなんだけど…」


そうか、だから『わたし』が十三歳にしては背が高いとか、大人びていると言われたんだ。


十六歳の子がわたしの世界の十歳ぐらいの子供に見えるのだから、こちらの十三歳は七、八歳の容姿なのかもしれない。

ひょっとして、外見年齢に比例して精神年齢も低いのかも…?


エリオットは「僕もユートからその話を聞いたときは驚きました」と相槌を打ち、鏡から視線を外してわたしの顔をまっすぐに見た。


僕らの世界(セーレン・ティーア)では、今からおよそ千年前に『はじまりの魔法使い』から気候を操作する魔法を教えてもらい、定住して農耕を始めたのだと云われています。

それ以前は狩猟主体の不安定な生活で、絶えず魔物にも襲われていたため、人の寿命はとても短かったそうです。

公的な記録は残されていないのですが、その頃の人々の寿命は三十歳前後。

大人ですら生き延びるのが厳しい過酷な環境では、子供の死亡率は今よりもずっと高く、目が離せない乳幼児の世話も負担になっていたようです。

優れた個体にのみ子供を生み育てさせるために、身体が成長する速度を遅らせて、第二次性徴期に到達できる個体を(ふる)いにかけ、少しつづ進化しながら我々は生き延びてきたのではないか…という人類学者の学説が有力視されています」


推論のみで実証はされていないんですけどね…と言い添えて、エリオットは笑った。


「…。」


日本だと、庶民の平均寿命が三十歳って…飛鳥時代か平安時代ぐらいかな?

わたしの世界では子供の死亡率が高くても多く産んで次代に繋げてきたけど、こちらの世界は進化・少子化して厳しい時代を乗り越えてきたってことだよね。


自分の世界と単純に比べちゃいけないような気もするけど…それが本当なら、こちらの世界の女の人が恋愛に積極的なのは、ある意味当然のことかもしれない。


女性の方が男性より数が少ないとはいえ、素敵な男性は他の女性にも人気があるんだろうから、控えめに男性からのアプローチを待つ子よりも、ガンガン攻め落とそうとする子のほうが恋愛を成就させていそう…。

(うちの兄に怪しげな媚薬や香を使って襲いかかるのは、さすがにやりすぎだと思うけど)


日本(ウチ)は平和で良いなぁ。


…あ、なんか縁側で渋茶をすすりたい気分。

(お茶請けはも○吉の希林あげでお願いします)


まったりとした気分で窓の外の景色を眺めていると、エリオットの緊迫した声がわたしを現実へ引き戻した。


「うわ、とうとう掴みあいの喧嘩に…」


「え、本当?」


あわてて鏡の中の映像に視線を戻すと、『ツインテールのちびっ子』と『細身なのに巨乳さん』がお互いの胸元を掴んで睨みあっていた。

(ツインテールの子は先ほどおじいちゃんの言葉を遮って発言した子で、巨乳さんは兄にあっさりとフラれていた人だ)


二人がお互いの勢力(?)を代表して、キャンキャンと言い争っている。

(こういう時の罵倒の言葉は、どこの世界でも同じだということがよくわかる内容だった。

「小娘」「年増」「どろぼう猫」等々)


まだ口喧嘩だけで暴力に発展していない様子を見て、わたしはホッとした。


兄はどこへ行ったのかと探してみれば、奥でおじいちゃんと何かコソコソ話している。

女性陣に出口を(ふさ)がれてしまったから、外へ逃げ出すのは諦めたのかもしれない。



「…なんかもう、不合格の理由の説明ができる状態じゃないね。

みんな冷静さを失っていて、話を聞く態勢にもなれないみたいだし」


わたしがそう言うと、エリオットも頷いた。


「確かにそうですね」


「魔法で全員に冷水をかけてみるとか、ちょっと吹雪に晒してみたりしたら、頭が冷えて話を聞いてくれるようになるかな?」


「…ユーナ、それは確かに可能ですが、後々苦情が出ることを考えるとちょっと難しいですね。

こちらの不合格者の中には、貴族階級の方がたくさん居ますし」


「そうなの?」


「はい。

今中央で争っている…栗色の髪の毛に赤いリボンを結んでいる方も、その内の一人です」


「ふぅん?

ひょっとして、幼い風貌(ふうぼう)の…大人の身体つきじゃない女の子は、みんな貴族階級だったりするの?」


「…あ、はい。

全員ではないですが、だいたいそんな感じですね。

多くの貴族の女性は成人前後に婚約し、結婚する日まで嫁ぎ先の意向や要望に沿って教育されるので」


「――そうなんだ。

大変だね、女の子も」


さっきの「貴方色に染まります」宣言は、単なる口説き文句じゃないんだなぁ。


でも、男性側も「この先どう育つかわからない」女性と婚約するのは…なんかギャンブルっぽい。

胸がおっきい女性が好きだとか、逆にスレンダー体型のほうがいいとか、男性にも好みがいろいろありそうなのに。


わたしが異世界の結婚制度について考えていると、不意に世界が揺れた。


「「…っ!」」


身体の芯から大きく揺さぶられるような衝撃が走る。

部屋の中の調度類がまったく揺れていないことから、地震ではないことに気がついた。


わたしがそのことを口にしようとした瞬間、それまでの身体にかかっていた負荷が嘘のように消えた。


「…ユーナ、大丈夫ですか?」


エリオットは椅子から立ち上がり、わたしに声をかけた。

わたしはエリオットの瞳を凝視(ぎょうし)しないように気をつけながら、彼の顔を見上げる。


「う、うん、平気。

今の、一体なんだったの?」


「――礼拝堂を見ていただければ、すぐに分かると思います」


「…え?」



エリオットの言葉に促されて再び鏡を見ると、『変化』は一目瞭然だった。


さっきまで礼拝堂の中にいた女の子たちが全員…一人残らず消えている。




■2012.10.05 異世界男子の第二次性徴記の年齢を変更

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