004 神剣は〇〇〇〇〇
兄は自分と同じ変態かもしれない人物をフライパンで殴って気絶させた後、ガムテープで腕や足を縛って拘束した。
布のじゃなくて、紙製のガムテープだったのは、せめてもの情けだろうか。
(布のガムテープは粘着力が高いから、あとで剥がすときに、体毛がごそっと抜けて痛いと思うんだ)
このままパジャマ姿を他人に晒すのは断じて許さん! …と兄が言うので、わたしが部屋に戻って身だしなみを整えているあいだに、おおまかな事情聴取は終っていた。
(ちっ。お約束のアレコレを見逃してしまった)
兄の簡単な説明によると、彼はわたしたちの親戚で、名前はエリオット。
こことは違う世界からおばあちゃんと家宝を探しにやって来たらしい。
彼が本当に異世界人であるということを、どうやって確かめたのか訊いてみたけど、兄は秘密だと言って教えてくれなかった。
さっきわたしを熱心に見つめていたのは、わたしの外見が異世界に残っているおばあちゃんの絵姿とそっくりだったから…という理由があったらしい。
「異なる世界では時間の流れが違う可能性がある…と師匠から聞いていましたが、まさかこれほど違っているとは思っていなかったもので。
誠に申し訳ありません」
ガムテープでぐるぐる巻きにされたまま、彼…エリオットくんは頭を下げて謝ろうとしているのか、もぞもぞと動いている。
フード付きのコートみたいな服が深緑色のため、巨大イモムシが蠢いているみたいで気色悪いから止めてほしい。
「――コイツが婆さまを探しに来たのは、婆さまが異世界の英雄で、家宝と一緒に行方不明になっていたから…らしい。婆さまはこちらの世界でもう亡くなってるというところまで話したんだが…」
兄の不機嫌な顔はともかく、その内容をスラスラと言えたことがすごいと思った。
わたしだったらきっと、自分で話している途中で大笑いしちゃうよ?
異世界で英雄って呼ばれてる人が、自分のおばあちゃんだなんて……何ていうかこう、痒い感じ。
「その話、本当?」
エリオットくんに話を向けると、うごうごするのを止めてくれた。(よし、一石二鳥!)
「はい、間違いありません。
我が一族に代々伝わる三種の血継神器に埋め込まれた魔宝石は、もともと一つの石でした。
魔宝石のカケラが引き合う性質を利用して、三つに割った魔宝石を『剣』と『腕輪』と『指輪』に埋め込み、所持している者のところへ『転移』できる術がかけられています。
僕はその魔術を使い、リリアーナ様が所持している『神剣』を目印に界渡りをして、ここへ来たのです。
僕の左腕にあるのが、装備している者の魔力を上げる効果がある『腕輪』です。
中央に紅い石が埋め込まれているでしょう?
それが、魔宝石です」
「「…。」」
「僕がここにたどり着いたということは、こちらに『神剣』があることは間違いないのです。
あなた方にとって僕は怪しいばかりではなく、大切なおばあさまの形見を寄こせという強盗のような者に思えるかもしれませんが、どうしても血継神器を持って帰らねばならない事情があるのです。
お願いします、リリアーナ様が遺した神器を、どうか僕たちの世界へお返しください!」
兄とわたしは無言のまま目を見合わせて、ふぅっとため息をついた。
「ど、どうしたんですか、お二人とも?」
「うん、ちょっとね」
「ああ、ちょっとな」
その血継神器とやらの性質から考えると、たぶん誤魔化せない。
遠路はるばる(?)来た親戚に偽物つかませて帰すわけにもいかないだろう。
おじいちゃんの遺した御刀で誤魔化すことはできるかもしれないけど、父が泣くだろうからあげられないし…。
さっさと教えてやれよ、兄!
わたしが目でうながすと、兄はしぶしぶ重い口を開いた。
「――たぶん、コレがそうだ」
「…は?」
「だから、その、『神剣』ってやつ」
「……え?」
エリオットくんの綺麗な青い目がまんまるになっている。
そりゃそーだよね。
兄がエリオットくんの前に差し出したソレ、フライパンだもん。